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番外編 その後の二人

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急いで帰宅するとルイスレーンからの手紙が我が家にも届いていた。

「クリスティアーヌ様、先にお召し替えを…」
「うん、でも…」

すぐにでも手紙を読もうとする私にマリアンナがまずは着替えてからと止めた。

「ゆっくり落ち着いて読まれたほうがいいですよ」

そう言われて渋々従った。

「本当に以前旦那様が戦地に赴かれていた時とは雲泥の差ですね」
「あ、あの時は…ルイスレーンのことをよく知らなかったから…」

それは私も思う。読むことができず引き出しに何ヶ月も仕舞ったままだった手紙。
ようやく読んだのは愛理になってからだった。

「さあ、お召し替えが終わりました。お茶もご用意しましたからお夕食までごゆっくりなさってください」
「ありがとう」

マリアンナたちが出ていくのを待てず慌てて椅子に座って封を開けて手紙を読んだ。

『拝啓 愛しの我が妻クリスティアーヌ』

「愛しの…」

最初の一行でもう愛しさが溢れてきた。

『体調はどうですか。熱など出していませんか。食事はきちんと取っていますか。夜は眠れていますか』

「やだ質問ばっかり…それに小さい子に訊くみたいなことね」

ルイスレーンが私のことを思ってくれているのがわかり、ぐっときた。

ルイスレーンと気持ちを通じ合ってからずっと一緒に寝ていたので、独り寝の寝台は広くて寂しかった。あまりに寂しくて変態だと思いながらルイスレーンの匂いがするシャツを抱き締めて寝ていたが、さすがに匂いはもうしない。

『グルジーラまでの道中は殆ど雨も振らず順調だった。美しい景観の場所が数多くあって、不謹慎だがいつか君を連れて共に眺めたいと思った』

「ルイスレーン」

彼と一緒ならどこでも楽しい。二人で眺めた街はずれの小高い丘からの景色を思い出す。今度ギオーヴさんと一緒に行ってみよう。

『現地はかつて何度か訪れたことがあったが、まるで様変わりしていた。
多くのものが流され、土に埋もれた家の一部が見えた時には人は大自然の力の前では為す術もないということを実感した』

その辺りの文字を書く筆圧が濃くなっている。ルイスレーンの悔しさが伝わってきた。

『被害のあった場所から少し離れた安全な場所に陣地を張り、家を失った人たちが身を寄せている教会や領主の館をアンドレア殿下と訪問した。その際に子どもたちにキャラメルを上げたら、皆満面の笑みで喜んで食べてくれた。子どもたちが喜ぶのを見て周りの大人たちにも少しだが笑顔が垣間見えた。子どもというのは本当に素晴らしいものだ。子どもたちが笑っていられる生活を維持し護るのが我々の責務だとアンドレア殿下も仰っていた。私もそれには同意する。私と君の子どもたちにも常に笑顔でいてほしいと切実に思った。そのために子どもたちに恥じることない人間でいなければいけないな』

手紙を読むうちに涙が滲み出てルイスレーンの書いた文字が滲んでくる。
彼の手紙はまだ続いていた。
実務的な指示書や報告書以外の手紙を書くのは苦手だったはずなのに、書きたい気持ちが溢れてペンを走らせたのが伝わってくる。

『遠く離れて思うのは君とまだ見ぬ子どもたちのことだ。子を体内に宿し育む母親と違い、父親は生まれるまで子どもの存在に実感がない。それが寂しくもあり、母親の君を羨ましく思う。目の前でキャラメルを口にして目を輝かせている様々な年齢の子どもたちを見ると、あの子の年齢になったら武術を教えよう。あの子と同じくらいになったら一緒に馬に乗って遠乗りに行こう。子どもたちと一緒にしたいと思うことが次々と頭に浮かんでくる』

ルイスレーンが子どもたちとの未来を色々想像し、その誕生を心待ちにしてくれている。
その思いが伝わってきてせつないくらいに彼に会いたくなった。

『エリンバウアの貴族として人々を護りたくて軍に入った。今目の前にいて家を失い近しい人を失い、助けを必要としている人達を何とかして救いたい。しかし、君が恋しくて堪らない。君を抱き寄せ君に触れ、君の声を聞きたい。何度も君を抱く夢を見る』

私も彼が恋しい。彼を思うと胸が、お腹の奥が、脚の間の部分が疼く。

『数週間で一度戻ることになる。ニコラス先生たちの言うことをよく聞いてくれぐれも無茶をしないように。君と子どもたちに幸あらんことを祈る』

「ルイスレーン…お待ちしています。どうかご無事で」

日が落ちて辺りが暗闇に包まれていく中、私は彼からの手紙を何度も読み直した。
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