【本編完結】政略結婚から逃げたいのに旦那様から逃げられません

七夜かなた

文字の大きさ
248 / 266
番外編 その後の二人

28

しおりを挟む
その後ラジークさんと向かい合わせに座り、マリアンナが彼にお茶のおかわりと、私にもお茶を淹れてくれた。

「貧血だということですが、深刻なのでしょうか」

たかが貧血と侮ることはできない。一時的なものならいいが、体のどこかで出血していたり血液に問題がある可能性もある。
血液、正確には赤血球が酸素を取り込み体のあちこちに酸素を運ぶ。

「ひとくちに貧血と言っても色々とあります。妊娠している私は普段より気をつけないといけませんね」
「よくご存知ですね」
「妊娠がわかってからそういう関係の本を色々と読みましたから」

本当は前世の知識だが、それは口が裂けても言えない。

「とても熱心でいらっしゃる。そこまで研究される人は私の知る限りいらっしゃいません。『黒い魔女』の影響を受けて妊娠された方はその事実を受け入れられず悲観する人が多い」

「色々ありましたが私は夫との子を望みますし、無事に生みたいと思います。縁があって私達の子どもとして生まれてくるのですから、万全を期すのは当たり前です」

「侯爵夫人はすっかり母親のお顔をされております。夫人の子どもとしてお生まれになるお子様たちは幸せです」

「いいえ、子育ては何人育てても同じようにはいかないと聞きます。私もルイスレーンも夫婦としてもまだ未熟であると自覚しています。でも先のことを悩んでも仕方ありません。今はただ、無事に出産することを第一に考えております」

心構えができているかと言われれば、まだまだだが、他人から評価されると少し気持ちが軽くなった。

雨は一層激しく降り、ともすれば会話も掻き消されそうになる。ルイスレーンのいる所は大丈夫だろうか。

「あの、それであなた様のご用件は?」

「あ、用件…ですか」

「ええ、何かご用があって来られたのでしょう? 私の体調のせいですっかりおまたせしてしまいました」

少し考えてラジークさんはぽそりと呟いた。

「謝りたかったのです」
「謝る?」

意味がわからず尋ね返した。何か彼が謝るようなことをしたのだろうか。

「王宮でお会いした時、挨拶もせず申し訳ございませんでした」

オリヴァー殿下の後ろに控えていたカメイラからの研究者たちの中に埋もれていた彼のことを思い出した。

「オリヴァー殿下や他の研究者たちの手前、親しくしては侯爵夫人が我々の研究に関わりがあるとわかってしまいますので、素知らぬ顔をいたしました」

「そんなこと、気にされなくても良かったのに」

その場にいるのにいないもののように扱われる。愛理の時はそんなことが度々あった。

「それくらいのことなら次にお会いしたときで構いませんでしたのに、律儀ですね」

生真面目なのだろう。気になったらすぐに行動に移す性分らしい。

「それと、確かめたいこともありましたから」
「確かめる?」
「はい。王宮の廊下が暗かったせいかもしれませんが、お顔の色が何やら気になりまして。すでに貧血気味でいらっしゃったのではないでしょうか」
「気づかなかったわ」

思わず顔に触れてみる。自分の顔色は鏡を見なければわからないし、自覚症状もなかった。

「よく見ていらっしゃるのね。流石だわ」
「侯爵夫人…クリスティアーヌ様のことは初めてお会いしたときから、気になっておりました」
「え、それはどういう…」

彼が真っ直ぐに私を見つめてきた。
それはただの患者の容態を観察するようなものではなく、もっと違う熱のようなものが見えた。

「あの…」
「ラ、ラジーク様、お茶が冷めてしまっております。温かいものをお淹れいたしましょうか」

私と彼の間に流れる空気を打ち破るようにマリアンナが話しかけた。

「ありがとうございます。ですが、これ以上戴いてはお腹が水気でいっぱいになってしまいます」

私の目が覚めるのを待つ間も何杯も飲んでいたので、彼は丁寧に断った。
しおりを挟む
感想 139

あなたにおすすめの小説

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

側妃契約は満了しました。

夢草 蝶
恋愛
 婚約者である王太子から、別の女性を正妃にするから、側妃となって自分達の仕事をしろ。  そのような申し出を受け入れてから、五年の時が経ちました。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が妹を第二夫人に迎えたので、英雄の妻の座を捨てます。

Nao*
恋愛
夫が英雄の称号を授かり、私は英雄の妻となった。 そして英雄は、何でも一つ願いを叶える事が出来る。 そんな夫が願ったのは、私の妹を第二夫人に迎えると言う信じられないものだった。 これまで夫の為に祈りを捧げて来たと言うのに、私は彼に手酷く裏切られたのだ──。 (1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります。)

王子様への置き手紙

あおき華
恋愛
フィオナは王太子ジェラルドの婚約者。王宮で暮らしながら王太子妃教育を受けていた。そんなある日、ジェラルドと侯爵家令嬢のマデリーンがキスをする所を目撃してしまう。ショックを受けたフィオナは自ら修道院に行くことを決意し、護衛騎士のエルマーとともに王宮を逃げ出した。置き手紙を読んだ皇太子が追いかけてくるとは思いもせずに⋯⋯ 小説家になろうにも掲載しています。

逃した番は他国に嫁ぐ

基本二度寝
恋愛
「番が現れたら、婚約を解消してほしい」 婚約者との茶会。 和やかな会話が落ち着いた所で、改まって座を正した王太子ヴェロージオは婚約者の公爵令嬢グリシアにそう願った。 獣人の血が交じるこの国で、番というものの存在の大きさは誰しも理解している。 だから、グリシアも頷いた。 「はい。わかりました。お互いどちらかが番と出会えたら円満に婚約解消をしましょう!」 グリシアに答えに満足したはずなのだが、ヴェロージオの心に沸き上がる感情。 こちらの希望を受け入れられたはずのに…、何故か、もやっとした気持ちになった。

処理中です...