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普通の婚約者同士がすることって何よ。
自分で言っておきながら、自分で問いかけた。
私の次の言葉を待つジーン様を意識しながら、これまで見てきた色々なカップルの行動を思い出す。
互いに目を見て微笑み会う……だめだ笑える自信がない。
キスも抱擁も彼等がどの程度の付き合いでするようになったかまるでわからない。わかっているのは既に私とジーン様はキスは済ませた。
彼の唇に触れた感触を思いだす。
彼が人生を共にしようとした女性。
彼女たちはどうやってジーン様をそんな気にさせたのだろう。
きっと誰もが目を奪われるほど美しいに違いない。
なのに彼女たちはなぜ彼を拒むことができたのだろう。
もし、私が彼女たちなら決して断らないのに。
ナサニエルさんとの交渉を見て、彼は私を確かに評価してくれた。祖父のことを立派な指導者だと誉めてくれた。自分の能力を認めてもらえたことに、喜びを感じる。
彼が色々な理由で婚約者だと私を指命してくれたことは嬉しいが、あまり浮かれてはいけない。キス以上を求めるのは私には過分な望みだ。
これくらいならと思いながら手を握った。小さい頃にも手を繋いでもらったことがある。
でも今触れた彼の手はとても大きくがっしりとしていた。その手にもう一方の彼の手が重なる。
「それでは、これから人前ではできるだけ手を繋ごう」
え、ここまでがっちり繋ぐ?え、あれ、汗……手の平に汗が出てきたらどうするの?
「失礼します」
その時、客間の扉を叩いてウーリが声をかけた。
「どうしたの?ウーリ」
手を引こうしたが、がっちり掴まれていて動かせない。ウーリが私たちの手元をちらりと見た。
「お嬢様にお手紙が来ております」
「手紙?誰からかしら」
「ヴェイラート家のキャサリン様からです」
「キャサリン?」
トレイに乗せた手紙をウーリから受け取り差出人を見ると、確かにキャサリンからだった。
「ありがとう……下がっていいわ」
ウーリが退室し再び二人になると、キャサリンの手紙を見詰めた。
宴での彼女の言葉を思い出し、嫌な気持ちになった。
首都で有名な『クリスタル・ギャラリー』のドレスを私が着ていたことが気に入らなかったようだ。
この辺りで最先端のドレスを売るのはマリサの店で、彼女はそこの上得意だった。
そしてキャサリン以上にお洒落で綺麗な子はいない。本人もそれを自負しているからこそ、私に出し抜かれたようでムカついたのだろうことがわかる。
ガルシアと言うのはロザリーさんの今の姓で、仕事では結婚時のマクウェイが罷り通っているため、私がロザリーさんの名を言ってもキャサリンもわからなかったようだ。
その上、ジーン様が私との結婚を望んでいる発言をしたことで、彼女が暴走しかけた。
キャサリンの手紙の内容はこの前の宴での行動について謝るようなものだった。
「彼女にも人並みの分別はあったようだ。大方父親に諭されたのだろう」
手紙を読むために既に手は放していたが、まだ隣に座ったままのジーン様が私から内容を聞いて頷いた。
「君は謝罪を受け入れるのか?」
「彼女に取って私は自分よりも劣った存在だった。なのに私が自分よりいいドレスを着てジーン様の花嫁に選ばれた。おもしろくないと思ったとしても仕方ありません」
「一体全体、君が彼女より劣っていると思うなんて、誰が決めた。この世には自分より遥かに上等な人間が大勢いるだろう。己を知らず他者を勝手に下に見るなどあってはならない」
「それでも人とはそういうものです。自分はあれよりましだ、ずっといいものを持っていると思って優越感を抱いてしまう」
「君がヴェイラート家の令嬢より劣っている所など何ひとつない」
いつの間にかジーン様はアッシュブロンドの私の髪をひと房持ち上げ、指に巻いたり外したりしている。
無意識なのか意図的なのか、話に集中できない。
「ありがとうございます………」
「セレニア……すまない……勝手に触って」
俯きかけた私の顎をジーン様が軽く触れて自分に向かせたが、すぐにそう言って手を離した。
「すまない……だが、出来れば互いに話をする時には、目を見て話して欲しい。さっきのナサニエルとの交渉の時はとても堂々としていて、きちんと顔を向けて話していたではないか」
「それは……」
彼は取引相手だから……取引相手以外の何者でもない。いい取引が出来る相手だと思ったし、私をいい茶葉を栽培するいい経営者だと敬ってくれていたのがわかったからだ。
「あの方とジーン様は違います……」
「私とナサニエル、どう違うのだ?」
そう問い詰められるのはわかっていた。
「悪い意味で言っているのではないのです。カーサスさんは仕事の相手です…でもジーン様は……仮とは言え……こ、婚約者で……その…そう言う相手とどういう顔をしていいのか……き、嫌われたくなくて……でも」
「私が君を嫌うことなどない。そんなことを気にしていたのか……」
そんなこと……ジーン様にはそんなこと……私には重要なことなのに……逆にジーン様は私に嫌われないという自信があるのか、それとも私に好かれても嫌われても、どちらでもいいと思っているのだろうか。
訊くことはできなかった。
でもこれだけはわかる。
私が彼を嫌いになることなどない。
自分で言っておきながら、自分で問いかけた。
私の次の言葉を待つジーン様を意識しながら、これまで見てきた色々なカップルの行動を思い出す。
互いに目を見て微笑み会う……だめだ笑える自信がない。
キスも抱擁も彼等がどの程度の付き合いでするようになったかまるでわからない。わかっているのは既に私とジーン様はキスは済ませた。
彼の唇に触れた感触を思いだす。
彼が人生を共にしようとした女性。
彼女たちはどうやってジーン様をそんな気にさせたのだろう。
きっと誰もが目を奪われるほど美しいに違いない。
なのに彼女たちはなぜ彼を拒むことができたのだろう。
もし、私が彼女たちなら決して断らないのに。
ナサニエルさんとの交渉を見て、彼は私を確かに評価してくれた。祖父のことを立派な指導者だと誉めてくれた。自分の能力を認めてもらえたことに、喜びを感じる。
彼が色々な理由で婚約者だと私を指命してくれたことは嬉しいが、あまり浮かれてはいけない。キス以上を求めるのは私には過分な望みだ。
これくらいならと思いながら手を握った。小さい頃にも手を繋いでもらったことがある。
でも今触れた彼の手はとても大きくがっしりとしていた。その手にもう一方の彼の手が重なる。
「それでは、これから人前ではできるだけ手を繋ごう」
え、ここまでがっちり繋ぐ?え、あれ、汗……手の平に汗が出てきたらどうするの?
「失礼します」
その時、客間の扉を叩いてウーリが声をかけた。
「どうしたの?ウーリ」
手を引こうしたが、がっちり掴まれていて動かせない。ウーリが私たちの手元をちらりと見た。
「お嬢様にお手紙が来ております」
「手紙?誰からかしら」
「ヴェイラート家のキャサリン様からです」
「キャサリン?」
トレイに乗せた手紙をウーリから受け取り差出人を見ると、確かにキャサリンからだった。
「ありがとう……下がっていいわ」
ウーリが退室し再び二人になると、キャサリンの手紙を見詰めた。
宴での彼女の言葉を思い出し、嫌な気持ちになった。
首都で有名な『クリスタル・ギャラリー』のドレスを私が着ていたことが気に入らなかったようだ。
この辺りで最先端のドレスを売るのはマリサの店で、彼女はそこの上得意だった。
そしてキャサリン以上にお洒落で綺麗な子はいない。本人もそれを自負しているからこそ、私に出し抜かれたようでムカついたのだろうことがわかる。
ガルシアと言うのはロザリーさんの今の姓で、仕事では結婚時のマクウェイが罷り通っているため、私がロザリーさんの名を言ってもキャサリンもわからなかったようだ。
その上、ジーン様が私との結婚を望んでいる発言をしたことで、彼女が暴走しかけた。
キャサリンの手紙の内容はこの前の宴での行動について謝るようなものだった。
「彼女にも人並みの分別はあったようだ。大方父親に諭されたのだろう」
手紙を読むために既に手は放していたが、まだ隣に座ったままのジーン様が私から内容を聞いて頷いた。
「君は謝罪を受け入れるのか?」
「彼女に取って私は自分よりも劣った存在だった。なのに私が自分よりいいドレスを着てジーン様の花嫁に選ばれた。おもしろくないと思ったとしても仕方ありません」
「一体全体、君が彼女より劣っていると思うなんて、誰が決めた。この世には自分より遥かに上等な人間が大勢いるだろう。己を知らず他者を勝手に下に見るなどあってはならない」
「それでも人とはそういうものです。自分はあれよりましだ、ずっといいものを持っていると思って優越感を抱いてしまう」
「君がヴェイラート家の令嬢より劣っている所など何ひとつない」
いつの間にかジーン様はアッシュブロンドの私の髪をひと房持ち上げ、指に巻いたり外したりしている。
無意識なのか意図的なのか、話に集中できない。
「ありがとうございます………」
「セレニア……すまない……勝手に触って」
俯きかけた私の顎をジーン様が軽く触れて自分に向かせたが、すぐにそう言って手を離した。
「すまない……だが、出来れば互いに話をする時には、目を見て話して欲しい。さっきのナサニエルとの交渉の時はとても堂々としていて、きちんと顔を向けて話していたではないか」
「それは……」
彼は取引相手だから……取引相手以外の何者でもない。いい取引が出来る相手だと思ったし、私をいい茶葉を栽培するいい経営者だと敬ってくれていたのがわかったからだ。
「あの方とジーン様は違います……」
「私とナサニエル、どう違うのだ?」
そう問い詰められるのはわかっていた。
「悪い意味で言っているのではないのです。カーサスさんは仕事の相手です…でもジーン様は……仮とは言え……こ、婚約者で……その…そう言う相手とどういう顔をしていいのか……き、嫌われたくなくて……でも」
「私が君を嫌うことなどない。そんなことを気にしていたのか……」
そんなこと……ジーン様にはそんなこと……私には重要なことなのに……逆にジーン様は私に嫌われないという自信があるのか、それとも私に好かれても嫌われても、どちらでもいいと思っているのだろうか。
訊くことはできなかった。
でもこれだけはわかる。
私が彼を嫌いになることなどない。
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