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ぐっすり寝たからか夕食でのティアナさんはさらに美しかった。
晩餐はジーン様を挟んで直角に私とティアナさんが対面に座る形で座った。
ティアナさんが話題を提供し、私とジーン様が専ら聞き役に徹する。
主な話題はここへ来るまでの道中に起こった出来事で、この領を出たことのない私にわかるのは地図や新聞、本で得た知識からのものだ。実際に見聞きしたことのあるジーン様は頷いているが、私は半分もわからなかった。
疎外感を感じ、張り付けた笑顔で頬がひきつった。
「セレニア……食が進まないのか?」
「あら、ごめんなさい。私ばかり話してしまって」
黙って食べ物を口に運ぶ私に気がついて二人が声をかけてきた。
「いえ……お話はとても興味深いです。でも、朝の遠乗りで疲れてしまったみたいで…今夜はもう引き上げさせてもらってよろしいですか」
「やはり、無理をさせたみたいだな。その方がいいならそうしなさい。後で様子を見に行く」
「そんな……気にしないでください。せっかくお客様がいるのにすいません」
「私のことはお客ではなく、身内と思ってくれていいのよ。ジーンと結婚すれば私たちは姻戚になるのだし、気を遣わないで」
「そうだな。とにかく、渡したいものがあるから、後で部屋に行く」
何を渡そうと思っているのかわからないが、頷くしかなかった。
部屋に戻り、食事の間のティアナさんのジーン様に対するひとつひとつの仕草を思い出す。
女性の私が見ても綺麗で洗練された仕草。私も作法は身に付けているが、彼女の動作やちょっとした仕草は目を奪われるものがあった。
鏡台の前に座って鏡の中の自分を見返す。
温かみのある色合いの髪と瞳を持つティアナさんが春の女神のようなら、私は冬のようだ。
ふわふわの柔らかさを感じるティアナさん。
私の髪はまっすぐでアッシュブロンドが冷たさを感じさせる。
少しでもティアナさんのように成れる所がないか探そうとして、ひとつもないことに愕然として鏡から目を反らした先に、ジーン様との部屋を隔てる扉が目に映った。
そこそこ厚みがあるので、簡単には音は聞こえないが、耳を澄ませばいるか居ないか気配は感じられる。
まだ戻っていないのか物音ひとつしない。
鏡台の引出しを開けるとそこには夕べもらった鍵が入っていた。
この鍵が掛けられている限り、ジーン様はここに来ることはない。開けても来るかどうかもわからない。
考えるのはよそう。
イヤな考えを振り払うように頭を振り、引き出しを閉めて立ち上がった。
「……った」
久し振りの乗馬で内腿が擦れて傷つき、背中や足が筋肉痛だった。
リラ達に手伝いを頼むのも気が引けて、一人で着替えようとした時、廊下に面した扉を誰かが叩いた。
「どうぞ」
てっきりメイドだと思って何も考えずに返事をした。
「セレニア」
「ジ……ジーン様」
やってきたのはジーン様だった。
「あの……どうし…」
「……渡したいものがあると言っていただろう」
「これは?」
蓋のついた丸い容器がジーン様の掌に乗っている。
「軟膏だ。擦り傷に効くそうだ」
「………私……どこも怪我など」
「久し振りの乗馬だ。太股の内側辺りが擦れて痛いだろう?夕食に降りてきたときに歩き方が不自然だった」
「あ………」
確かに内腿に擦り傷があって少し足を広げて歩いていた。ほんの僅かなことだったが、ジーン様に気づかれていたかと思うと、恥ずかしさでいっぱいになった。
久方ぶりの乗馬で下半身が辛いことをジーン様に見抜かれていたとは思わなかった。
「そんなに……変でしたか?」
「ほんの少しだ……人の動きの僅かな変化に敏感なのは癖だ。戦場ではそれで命が助かるかどうかが決まる。味方でも、共に戦う上で相手がどこかに怪我をしたら、そこを庇ったりするので、いつの間にか瞬時に観察するようになった」
自分でも無意識に痛い部分を庇った歩き方をしていたみたいだ。それにジーン様は気づいた。
「ありがとう……ございます」
掌に乗せられた薬を握ってお礼を言った。
「明日はティアナが街に行きたいと言うので案内することになった。君もどうだ?暫く街に行っていないだろう」
「ありがとうございます。でも、お邪魔ではないのですか?」
「邪魔?おかしなことを言う。それに君がいないと私とティアナが二人では変な噂が立つ」
年頃の男女が二人。従姉妹と言ってもジーン様もティアナさんも互いに婚約者がいる身だ。首都ではどうかわからないが、こんな田舎ではそれだけで注目の的だ。
「わかりました。何時に出掛けますか?」
「ティアナが君みたいに早起きならいいが、恐らく昼まで起きてこないだろうから、出掛けるのは昼過ぎになると思う」
「では、そのように予定しておきます。薬……ありがとうございました。お休みなさい」
「ああ……お休み」
扉の前でジーン様に就寝の挨拶をして見送る。
そのまま部屋に戻るかと思っていたジーン様は、なぜか部屋の扉の前を過ぎて再び廊下を曲がっていった。
私に軟膏を渡す為だけにやって来たことを知って、またティアナさんに会いに行ったのだと気づいた。
晩餐はジーン様を挟んで直角に私とティアナさんが対面に座る形で座った。
ティアナさんが話題を提供し、私とジーン様が専ら聞き役に徹する。
主な話題はここへ来るまでの道中に起こった出来事で、この領を出たことのない私にわかるのは地図や新聞、本で得た知識からのものだ。実際に見聞きしたことのあるジーン様は頷いているが、私は半分もわからなかった。
疎外感を感じ、張り付けた笑顔で頬がひきつった。
「セレニア……食が進まないのか?」
「あら、ごめんなさい。私ばかり話してしまって」
黙って食べ物を口に運ぶ私に気がついて二人が声をかけてきた。
「いえ……お話はとても興味深いです。でも、朝の遠乗りで疲れてしまったみたいで…今夜はもう引き上げさせてもらってよろしいですか」
「やはり、無理をさせたみたいだな。その方がいいならそうしなさい。後で様子を見に行く」
「そんな……気にしないでください。せっかくお客様がいるのにすいません」
「私のことはお客ではなく、身内と思ってくれていいのよ。ジーンと結婚すれば私たちは姻戚になるのだし、気を遣わないで」
「そうだな。とにかく、渡したいものがあるから、後で部屋に行く」
何を渡そうと思っているのかわからないが、頷くしかなかった。
部屋に戻り、食事の間のティアナさんのジーン様に対するひとつひとつの仕草を思い出す。
女性の私が見ても綺麗で洗練された仕草。私も作法は身に付けているが、彼女の動作やちょっとした仕草は目を奪われるものがあった。
鏡台の前に座って鏡の中の自分を見返す。
温かみのある色合いの髪と瞳を持つティアナさんが春の女神のようなら、私は冬のようだ。
ふわふわの柔らかさを感じるティアナさん。
私の髪はまっすぐでアッシュブロンドが冷たさを感じさせる。
少しでもティアナさんのように成れる所がないか探そうとして、ひとつもないことに愕然として鏡から目を反らした先に、ジーン様との部屋を隔てる扉が目に映った。
そこそこ厚みがあるので、簡単には音は聞こえないが、耳を澄ませばいるか居ないか気配は感じられる。
まだ戻っていないのか物音ひとつしない。
鏡台の引出しを開けるとそこには夕べもらった鍵が入っていた。
この鍵が掛けられている限り、ジーン様はここに来ることはない。開けても来るかどうかもわからない。
考えるのはよそう。
イヤな考えを振り払うように頭を振り、引き出しを閉めて立ち上がった。
「……った」
久し振りの乗馬で内腿が擦れて傷つき、背中や足が筋肉痛だった。
リラ達に手伝いを頼むのも気が引けて、一人で着替えようとした時、廊下に面した扉を誰かが叩いた。
「どうぞ」
てっきりメイドだと思って何も考えずに返事をした。
「セレニア」
「ジ……ジーン様」
やってきたのはジーン様だった。
「あの……どうし…」
「……渡したいものがあると言っていただろう」
「これは?」
蓋のついた丸い容器がジーン様の掌に乗っている。
「軟膏だ。擦り傷に効くそうだ」
「………私……どこも怪我など」
「久し振りの乗馬だ。太股の内側辺りが擦れて痛いだろう?夕食に降りてきたときに歩き方が不自然だった」
「あ………」
確かに内腿に擦り傷があって少し足を広げて歩いていた。ほんの僅かなことだったが、ジーン様に気づかれていたかと思うと、恥ずかしさでいっぱいになった。
久方ぶりの乗馬で下半身が辛いことをジーン様に見抜かれていたとは思わなかった。
「そんなに……変でしたか?」
「ほんの少しだ……人の動きの僅かな変化に敏感なのは癖だ。戦場ではそれで命が助かるかどうかが決まる。味方でも、共に戦う上で相手がどこかに怪我をしたら、そこを庇ったりするので、いつの間にか瞬時に観察するようになった」
自分でも無意識に痛い部分を庇った歩き方をしていたみたいだ。それにジーン様は気づいた。
「ありがとう……ございます」
掌に乗せられた薬を握ってお礼を言った。
「明日はティアナが街に行きたいと言うので案内することになった。君もどうだ?暫く街に行っていないだろう」
「ありがとうございます。でも、お邪魔ではないのですか?」
「邪魔?おかしなことを言う。それに君がいないと私とティアナが二人では変な噂が立つ」
年頃の男女が二人。従姉妹と言ってもジーン様もティアナさんも互いに婚約者がいる身だ。首都ではどうかわからないが、こんな田舎ではそれだけで注目の的だ。
「わかりました。何時に出掛けますか?」
「ティアナが君みたいに早起きならいいが、恐らく昼まで起きてこないだろうから、出掛けるのは昼過ぎになると思う」
「では、そのように予定しておきます。薬……ありがとうございました。お休みなさい」
「ああ……お休み」
扉の前でジーン様に就寝の挨拶をして見送る。
そのまま部屋に戻るかと思っていたジーン様は、なぜか部屋の扉の前を過ぎて再び廊下を曲がっていった。
私に軟膏を渡す為だけにやって来たことを知って、またティアナさんに会いに行ったのだと気づいた。
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