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「どういうことだ……私が……誰を?」
「最初の婚約者だったマリエラさんのことを、今でも忘れられないから……だから二人目の婚約者の方もそんなあなたから逃げたって……死んだ人になんて、どうやって勝てばいいのよ。そんなの、勝てるわけないじゃない、私はあなたよりずっと年下で、死んだマリエラさんと全然似てなくて……そんなの……そんなの……わあん…ロドリオのバカア」
ティアナさんは突然わんわんと小さい子どものように泣き出した。
「な………」
「ティアナ……」
「ティアナさん」
鳩が豆鉄砲とは彼の今の表情のことなのだろう。目も口もポカンと開けて二の句が継げないでいる。
「だ、誰がそんな……」
そしてようやくティアナさんの言葉の意味が飲み込めたのか、武骨な顔が一気に赤くなり汗が吹き出た。
「君が……私を……そんなこと……だって私は……」
「なのにあなたは私が何を言っても何をやってもただ笑って受け入れるだけで、手も握らない。結婚式が終わるまで手を出さないつもりなのはわかるけど、私だって、手を握ったり抱き締めたり……キ……キスだってして欲しい」
「キ……キス……」
「サーフィス卿!」
「ロドリオ!」
キスと言った瞬間、サーフィス卿はその場に卒倒してジーン様にもたれ掛かった。
ティアナさんが彼の名前を呼んで駆け寄る。
「顔色が悪い。きっとここへ来るのに無理をしたんだろう」
さっきまで赤かった顔が今は真っ青だ。
「ロドリオ……わ、私のせいで……」
涙の跡を残しながら、倒れたロドリオさんを見てティアナさんはすっかり動揺している。
「ティアナさん、落ち着いてください」
震える彼女の肩に手を置いて彼女に声を掛けると、サーフィス卿の肩を抱いたジーン様と視線が合った。
「とにかく寝台に運ぼう、ヘドリック」
ジーン様がヘドリックさんを呼ぶ。
「客間をひとつ用意してくれ。それと屈強な者を二、三人連れてきてくれ。彼を部屋まで運ぶ」
ヘドリックさんが言われた通り迅速に行動し、三人がかりでサーフィス卿を抱えて運んで行く。
「ロドリオ……しっかりして」
ティアナさんもまたもや泣き出して後ろからついていった。
談話室には再び私とジーン様だけになり、先ほどとは比べ物にならないくらいに辺りは静かになった。
「結局……ティアナさんはサーフィス卿が好きだったけれど、卿の煮え切らない態度に業を煮やしてここに来られたのでしょうか」
「そう言うことだ……しかし、ティアナがあんな風に泣くとは思わなかったよ」
「ここへ彼女が来られたときからご存じだったのですか?」
「夕べ彼女から聞いた。私と何かあるようなことを匂わせてここに来たと。それで彼が追って来なければ、結婚を止めるつもりだと。ティアナからは彼が迎えに来るまで居させて欲しいと頼まれていた。その代わり今日のことについて協力してもらったが、こんなに早く彼が来るとは思っていなかった」
夕べ私を訪ねてから彼が部屋に戻らなかったのは、そんな話をティアナさんとしていたからなのか。彼女と何かあるのではと疑っていた。
「そうだったのですね。そこまでの覚悟で……凄いです。なのに、私ったらてっきり、お二人が今でも……」
ジーン様とティアナさんの間に何かあると嫉妬したことを言いかけて口を閉じた。
「セレニア?」
不審に思ったらしいジーン様に顔を覗き込まれ、今顔を見られたら私がどう思っているかわかってしまうのではと、顔を伏せた。
「ざ……残念でしたね。お二人……とても仲が良くてお似合いでしたのに……ティアナさんにはあんなに思っているお相手が……」
「残念?」
ジーン様の声が一段低くなった。
「なぜティアナに思う相手がいて、私が残念だと思う?喜ばしいことではないか。まさか……まだ私が今でも彼女に気持ちがあるとか、そんなことを思っているのか?さっき私の気持ちは伝えた筈だが」
両肩を掴んでジーン様が私の顔を覗き込む。
その顔は怒っているというよりは、何かを期待しているようだった。
「あの……だって……彼女と話をするジーンは……とても楽しそうで……」
「彼女には色々協力してもらうことがあったからな……だが、私としてはクリオたちをもてなすことと何ら変わらないつもりだ」
「クリオさんたちと?」
「違うのは彼らは男でティアナが女で。同じように対応しても勘違いする者がいるということかな。君のように」
私の勘違いだとジーン様は言うが、本当にそれを信じていいのだろうか。
「ティアナと私が話をしているのを見て、君はどう思った?」
「最初の婚約者だったマリエラさんのことを、今でも忘れられないから……だから二人目の婚約者の方もそんなあなたから逃げたって……死んだ人になんて、どうやって勝てばいいのよ。そんなの、勝てるわけないじゃない、私はあなたよりずっと年下で、死んだマリエラさんと全然似てなくて……そんなの……そんなの……わあん…ロドリオのバカア」
ティアナさんは突然わんわんと小さい子どものように泣き出した。
「な………」
「ティアナ……」
「ティアナさん」
鳩が豆鉄砲とは彼の今の表情のことなのだろう。目も口もポカンと開けて二の句が継げないでいる。
「だ、誰がそんな……」
そしてようやくティアナさんの言葉の意味が飲み込めたのか、武骨な顔が一気に赤くなり汗が吹き出た。
「君が……私を……そんなこと……だって私は……」
「なのにあなたは私が何を言っても何をやってもただ笑って受け入れるだけで、手も握らない。結婚式が終わるまで手を出さないつもりなのはわかるけど、私だって、手を握ったり抱き締めたり……キ……キスだってして欲しい」
「キ……キス……」
「サーフィス卿!」
「ロドリオ!」
キスと言った瞬間、サーフィス卿はその場に卒倒してジーン様にもたれ掛かった。
ティアナさんが彼の名前を呼んで駆け寄る。
「顔色が悪い。きっとここへ来るのに無理をしたんだろう」
さっきまで赤かった顔が今は真っ青だ。
「ロドリオ……わ、私のせいで……」
涙の跡を残しながら、倒れたロドリオさんを見てティアナさんはすっかり動揺している。
「ティアナさん、落ち着いてください」
震える彼女の肩に手を置いて彼女に声を掛けると、サーフィス卿の肩を抱いたジーン様と視線が合った。
「とにかく寝台に運ぼう、ヘドリック」
ジーン様がヘドリックさんを呼ぶ。
「客間をひとつ用意してくれ。それと屈強な者を二、三人連れてきてくれ。彼を部屋まで運ぶ」
ヘドリックさんが言われた通り迅速に行動し、三人がかりでサーフィス卿を抱えて運んで行く。
「ロドリオ……しっかりして」
ティアナさんもまたもや泣き出して後ろからついていった。
談話室には再び私とジーン様だけになり、先ほどとは比べ物にならないくらいに辺りは静かになった。
「結局……ティアナさんはサーフィス卿が好きだったけれど、卿の煮え切らない態度に業を煮やしてここに来られたのでしょうか」
「そう言うことだ……しかし、ティアナがあんな風に泣くとは思わなかったよ」
「ここへ彼女が来られたときからご存じだったのですか?」
「夕べ彼女から聞いた。私と何かあるようなことを匂わせてここに来たと。それで彼が追って来なければ、結婚を止めるつもりだと。ティアナからは彼が迎えに来るまで居させて欲しいと頼まれていた。その代わり今日のことについて協力してもらったが、こんなに早く彼が来るとは思っていなかった」
夕べ私を訪ねてから彼が部屋に戻らなかったのは、そんな話をティアナさんとしていたからなのか。彼女と何かあるのではと疑っていた。
「そうだったのですね。そこまでの覚悟で……凄いです。なのに、私ったらてっきり、お二人が今でも……」
ジーン様とティアナさんの間に何かあると嫉妬したことを言いかけて口を閉じた。
「セレニア?」
不審に思ったらしいジーン様に顔を覗き込まれ、今顔を見られたら私がどう思っているかわかってしまうのではと、顔を伏せた。
「ざ……残念でしたね。お二人……とても仲が良くてお似合いでしたのに……ティアナさんにはあんなに思っているお相手が……」
「残念?」
ジーン様の声が一段低くなった。
「なぜティアナに思う相手がいて、私が残念だと思う?喜ばしいことではないか。まさか……まだ私が今でも彼女に気持ちがあるとか、そんなことを思っているのか?さっき私の気持ちは伝えた筈だが」
両肩を掴んでジーン様が私の顔を覗き込む。
その顔は怒っているというよりは、何かを期待しているようだった。
「あの……だって……彼女と話をするジーンは……とても楽しそうで……」
「彼女には色々協力してもらうことがあったからな……だが、私としてはクリオたちをもてなすことと何ら変わらないつもりだ」
「クリオさんたちと?」
「違うのは彼らは男でティアナが女で。同じように対応しても勘違いする者がいるということかな。君のように」
私の勘違いだとジーン様は言うが、本当にそれを信じていいのだろうか。
「ティアナと私が話をしているのを見て、君はどう思った?」
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