【R18】勇者の姉は究極のモブではなかったんですか?

七夜かなた

文字の大きさ
6 / 65
第一章

 遠くで教会の鐘の音が聞こえる。
 教会の鐘は日に三度、朝と昼と夜に鳴らされる。

 私は畑の草引きの手を止めて、ほうっと一息吐いた。

「もうお昼か」

 立ち上がってう~んと腕を上げて伸びをした。

「デルフィーヌ、一旦家に戻ろう」
「うん」
 
 一緒に畑仕事をしていた父が声を掛け、私は衣服に付いた土をパンパンと払って、抜いた草を集め鎌を持った。

「今日中には何とか終わりそうね」

 前世はマンション住まいでベランダ菜園しか経験がなかった。
 しかし貧乏男爵家の娘として転生し、自分たちの食い扶持を賄うために小さい頃から畑仕事をしてきたため、今ではすっかり一人前になった。
 
「ルドウィックがいたらもうとっくに終わっているのにな」

 共に邸に帰りながら父が呟いた。
 ルドウィックが勇者の神託を受け、王都へと旅立ってからすでに半年が経った。
 
「お父さん、それは言ったら駄目よ。ルドウィックはこの世界を救う使命があるの。畑仕事は私たちの仕事。私たちはルドウィックみたいに暗黒竜を退治することができないんだから、私たちは私たちの出来ることをがんばろう」
「それはそうだが・・お前、ルドウィックとはどうなっているんだ?」
「どうって?」
「その・・あいつはお前のこと、好きだっただろ? 王都へ行く前の日、二人でちゃんと話し合ったんだろ」
「話し合った・・と言えるかな」

 あの晩、自分とルドウィックとの間に何があったか、両親は口にはしないが、勘づいているだろう。
 ルドウィックが私への想いを伝え、両親は自分たちを二人きりにした。
 その結果、私は彼に一晩中抱かれ、見送りすら出来ないくらいぐだぐだにされた。

「私たちにとは別にお前宛ての手紙だっていつも来るし、うまくいっているんだろ?」

 王都からここまで馬車を乗り継いでも一ヶ月かかる。手紙が来て返事を書いても届くのに一ヶ月かかり、返事もまた一ヶ月かかる。
 内容は王都での生活のことや訓練のこと。それからデルフィーヌに会いたい。デルフィーヌのために頑張る。と言ったようなことが書かれていた。
 私からの手紙はここでの暮らしぶりについてが主だった。
 大して書くこともないつまらない内容。ここの生活は生きていくのが精一杯で、娯楽と言えるものもない。

「異世界転生しても、何のチート能力もないモブだもん」
「え?」
「ううん、何でも無い」

 ぼそりと呟いた独り言に父が反応したが、慌てて何でも無いと打ち消した。

 この世界、魔法を使えるのはほんの一握りの才能がある者だけ。スキルもステータスウィンドウも、アイテムボックスも私は持っていない。
 
 「暗黒竜と双剣の勇者」の主人公はルドウィックで、彼は勇者として数多の困難を乗り越え、様々な能力を身につけ、ラスボスの暗黒竜を倒す。

「この前の手紙で、訓練を終えたからもうすぐ暗黒竜の巣のあるモビルック山へ出発するって書いてあったな」
「本当は一年かかるって言われていたらしいのに、皆驚いていたって」
「さすがルドウィックだな」
「そうだね」

 天は一人の人間に二物も三物も与えた。ゲームの世界だから序盤はそれほど力はないだろうが、やがて彼は真の勇者の力に目覚めることだろう。
 そして暗黒竜を倒す。
 ゲームでは総プレー時間何十時間かで終了してしまうが、実際はどれくらいの月日が掛かるんだろう。
 
「大きな怪我も無く無事に帰ってきてくれるかな」

 父が呟く。

「きっと大丈夫だよ。魔法使いや神官もいるし、聖女様もいるんでしょ」

 勇者は一人じゃない。討伐メンバーは国中から優秀な人材が集められている。

「それはそうだが・・やっぱり心配だ。子供のことを親が心配するのは当たり前だろ」
「それはそうだけど」

 主人公の勇者が死んだらこのゲームはゲームオーバーだ。しかし現実世界でもあるここは、リセットボタンはない。万が一と言うことはある。父の心配する気持ちもわかる。

「お前は心配じゃないのか。ルドウィックは小さい頃から一緒に育った従弟で家族で、お前の将来の夫なんだぞ」
「心配していないなんて言っていない」

 私にとってもルドウィックは家族だ。そして不意打ちだったとはいえ、初めての相手でもある。
 でも将来の夫かどうかはわからない。
 ルドウィックはずっと私が好きだと言った。
 私も彼が好きだが、これまで一人の男性として意識したことはなかった。
 あの夜、私を抱いた彼の腕は逞しく、奥深くまで挿入された彼の陰茎は、間違いなく男だった。
 何度も好意を告げ、腰が立たなくなるまで貫かれた。
 でもそれは、この辺境の地の人口わずか数千のオークレールでの、少ない選択肢の中から選んだものだ。
 王都に行けばいくらでも人はいる。綺麗に着飾った令嬢たちや妖艶なお姉様達。王女様だっている。
 畑仕事などで荒れて、日に焼けた田舎くさい義姉のことなど、すぐに忘れてしまうだろう。
感想 0

あなたにおすすめの小説

兄妹じゃないとわかったのでお兄様と結婚したら、全部仕込みでした

こじまき
恋愛
【20260401読みやすいように話を分割しました】 伯爵令嬢ヘイゼルは、兄アリステアに恋をしている。叶わないと知りながら、それでも諦めきれなかった。 しかし子ども時代の「取り違え」が発覚し、子爵令嬢ロレッタとして“正しい場所”で生き直すことに。 そして妹ではなくなった彼女に、アリステアは求婚する。 運命のねじれは正されて、望んだとおりに最愛の人と結ばれた―― けれど――その「正しい運命」は、兄アリステアによって用意されたものだった―― ※「小説家になろう」にも投稿しています。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

夫が運命の番と出会いました

重田いの
恋愛
幼馴染のいいなづけとして育ってきた銀狼族の族長エーリヒと、妻ローゼマリー。 だがエーリヒに運命の番が現れたことにより、二人は離別する。 しかし二年後、修道院に暮らすローゼマリーの元へエーリヒが現れ――!?

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました

蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。 そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。 どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。 離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない! 夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー ※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。 ※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。

男嫌いな王女と、帰ってきた筆頭魔術師様の『執着的指導』 ~魔道具は大人の玩具じゃありません~

花虎
恋愛
魔術大国カリューノスの現国王の末っ子である第一王女エレノアは、その見た目から妖精姫と呼ばれ、可愛がられていた。  だが、10歳の頃男の家庭教師に誘拐されかけたことをきっかけに大人の男嫌いとなってしまう。そんなエレノアの遊び相手として送り込まれた美少女がいた。……けれどその正体は、兄王子の親友だった。  エレノアは彼を気に入り、嫌がるのもかまわずいたずらまがいにちょっかいをかけていた。けれど、いつの間にか彼はエレノアの前から去り、エレノアも誘拐の恐ろしい記憶を封印すると共に少年を忘れていく。  そんなエレノアの前に、可愛がっていた男の子が八年越しに大人になって再び現れた。 「やっと、あなたに復讐できる」 歪んだ復讐心と執着で魔道具を使ってエレノアに快楽責めを仕掛けてくる美形の宮廷魔術師リアン。  彼の真意は一体どこにあるのか……わからないままエレノアは彼に惹かれていく。 過去の出来事で男嫌いとなり引きこもりになってしまった王女(18)×王女に執着するヤンデレ天才宮廷魔術師(21)のラブコメです。 ※ムーンライトノベルにも掲載しております。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

愛する殿下の為に身を引いたのに…なぜかヤンデレ化した殿下に囚われてしまいました

Karamimi
恋愛
公爵令嬢のレティシアは、愛する婚約者で王太子のリアムとの結婚を約1年後に控え、毎日幸せな生活を送っていた。 そんな幸せ絶頂の中、両親が馬車の事故で命を落としてしまう。大好きな両親を失い、悲しみに暮れるレティシアを心配したリアムによって、王宮で生活する事になる。 相変わらず自分を大切にしてくれるリアムによって、少しずつ元気を取り戻していくレティシア。そんな中、たまたま王宮で貴族たちが話をしているのを聞いてしまう。その内容と言うのが、そもそもリアムはレティシアの父からの結婚の申し出を断る事が出来ず、仕方なくレティシアと婚約したという事。 トンプソン公爵がいなくなった今、本来婚約する予定だったガルシア侯爵家の、ミランダとの婚約を考えていると言う事。でも心優しいリアムは、その事をレティシアに言い出せずに悩んでいると言う、レティシアにとって衝撃的な内容だった。 あまりのショックに、フラフラと歩くレティシアの目に飛び込んできたのは、楽しそうにお茶をする、リアムとミランダの姿だった。ミランダの髪を優しく撫でるリアムを見た瞬間、先ほど貴族が話していた事が本当だったと理解する。 ずっと自分を支えてくれたリアム。大好きなリアムの為、身を引く事を決意。それと同時に、国を出る準備を始めるレティシア。 そして1ヶ月後、大好きなリアムの為、自ら王宮を後にしたレティシアだったが… 追記:ヒーローが物凄く気持ち悪いです。 今更ですが、閲覧の際はご注意ください。