持っていたのは魔力じゃなくて霊能力〜『真夜中の相談室』は死者限定

七夜かなた

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6 アディーナの日常

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アディーナの一日は太陽が空の真ん中に来る頃に始まる。

身支度を整え朝食兼昼食を食べ、小さな庭を散歩したり畑を手入れする。彼女の庭には季節の野菜が植えられている。

実は亡くなったカリスマ農夫の霊の指導の賜物で、彼の助言で土作りから拘った。
農法は先祖から受け継いで後世に伝えているものが多い。農夫の識字率は低く経験や口伝えでのみ伝えられるため、世間に伝わりにくい。
アディーナが出会った農夫の霊はまだ若く子どもがいなかかったため、親から引き継いだ農法を伝えることができなかった。
アディーナは彼から話を聞き、実際に畑を作り成功した。
それらを一冊の本にまとめ亡くなった農夫のカーサスを名乗り、彼が生前懇意にしていた農業組合に送った。
それが農業組合でもてはやされ、かなりの確率で質のいい野菜が収穫されるようになってきている。

農夫の霊はそれを見届け、成仏した。

それから刺繍をしたり本を読んだりして過ごすことが多い。時々気が向けばお菓子を焼いたりして過ごす。
お菓子も亡くなった王宮料理人の霊から教わり、かなりの腕前になっている。
時々たくさん作ったりしては神殿のバザーに出す。司祭はアディーナが誰かあえて訊いたことはないが、おそらく察しているだろう。
彼女の持ち込んだ焼き菓子は評判が良く、少々高値でも良く売れる。時折収穫した野菜も出す。その時の売り上げは次に納品した際に手渡される。一部を寄付するため大金にはならないが、焼き菓子の材料を買ったり、独り立ちしたときの資金にするつもりで残りは少しずつ貯めている。

かつては乳母が一緒にいたが、もう必要ないだろうと一年前に解雇された。
通いの使用人はいるが、彼らはアディーナと必要最低限のことしか話さない。

逆にアディーナが誰もいないのに一人でブツブツ話しているのを見て気味悪がって近づかないのもある。
アディーナの離れでの生活は、昼間はとても静かなものだった。

そして太陽が西に沈み、夜が訪れると途端に賑やかになる。

賑やかになると言っても、部屋にいるのはアディーナ一人。
他人から見ればアディーナが一人で話しているように見える。

実際は彼女の周りにはそれは大勢の霊たちが犇めいていた。

『夕べはご苦労じゃったな』
『そうよ、あんな治安の悪いところ大丈夫だった?』
「大丈夫です。騎士団出身のダニエルさんも付いてきてくれましたから」
『私は何も…実際は何もできませんから』

ダニエルさんが照れて話す。
がっちりとした体格のダニエルさんは五年前からここに来ている。彼はその筋では腕がいいことで有名だったが、泳ぎは下手だった。川に流された子どもを助けようとして、子どもは助かったものの自分は流れに浚われて溺死した。
昼間も彼らは側にいることはいるのだが、存在は薄い。太陽の光が弱まると姿かたちもはっきりしてくる。
力の弱い霊は大抵の場合、夜にしか現れない。

「それでもダニエルさんが殺気を発してくれていたお陰で、みんな怖がって近寄りませんでしたし、敵が潜んでいるのを教えてくれたので、逃げることができました」
『まあ、あれくらいの奴らなら、将軍の指導を受けたあなたなら難なく対応できたと思いますが』
『当然じゃ、我が血筋だけあって女と言えどアディーナは筋がいい』
「それでも、そういったことはできるだけない方がいいですから」

彼女の活動は非公式なもの。できるだけ大事になるようなことは避けたい。

『当たり前です。お義父様も、この子は淑女なのですから、あまり乱暴なことはやめてください』
「デビューもしてないのに、淑女も何もないでしょ」

この国では十二で貴族の子どもは男女とも一度社交界に出る。そこで将来の結婚相手に目を付けたり、実際に婚約したりする。
そして男女とも十六歳になったら成人として認められる。
今年十五歳になるアディーナは、本来なら三年前にデビューしていた筈だが、父親が彼女の年齢を忘れていたため、彼女のデビューは見送られてしまった。

『娘のデビューを忘れるなんて…』
『本当に、ワシらに実体があれば殴り付けてやるのに』
「私は気にしてません。どうせ出たところで変な目でみられるのがおちですから」
『今年はシャンティエのデビューでしょ?この前から商人が出たり入ったりしているみたいだわ』
『ならもう一人の娘のことも思い出してもいいだろうに。きっとわざとだ』
「本当に私は気にしていません。それより……」

アディーナは祖父たちの後ろにいる女性の霊に視線を移す。

「お子さん、無事にお父さんに引き取られましたよ」
『ありがとうございます』

女性は深々と頭を下げた。

彼女がアディーナの所を訪れたのは一週間前だった。

長い間の苦労が祟って、栄養不足もあり彼女は風邪であっけなく命を落とした。

気がかりなのは一人残された息子のこと。

息子の父親は貴族で、彼女はかつて彼の家で使用人として働いていた。
そこでその家の息子と恋に落ちたのだが、その父親にばれてしまい、彼が外国に行っている間に追い出されてしまった。

アディーナは彼女から聞いたことを手紙にしたため、その手紙を息子に届けた。

『これで心置きなくあの世に行けます』
「息子さんに伝言は?良かったら届けますが」
『いいえ、本当なら父親のことも知らずあそこで苦労していたところを、あなたのお陰で救われました。ありがとうございます』
「……わかりました。無事の旅路を」
『ありがとうございます』

次第に女性の姿が薄くなりやがて煙のように消え失せた。

この世から魂が完全にいなくなった瞬間だった。

大抵の魂は死んですぐにそうなるが、心残りがあるとこの世に留まる。

母や祖父はアディーナが気になって留まっている。きっと彼女がこの世を去るまで傍にいるだろう。

そして傍にいるのは彼らだけではない。

騎士のダニエルも。
彼がどんな思いがあって残っているのか。今はまだその重い口を開かない。

いずれ語ってくれるだろうとアディーナたちは敢えて聞かなかった。

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