8 / 22
8 第一王子アシェル
しおりを挟む
第一王子アシェル殿下はアディーナの一歳年上である。
アディーナはもちろん直に会ったことはないが、その魔力量の多さは噂になっていた。
アディーナの魔力鑑定の一年前に彼の鑑定の儀式があったが、そのあまりの魔力量の多さに神殿の一部が吹き飛んだ。
そして年々増大する魔力を押さえるため、体のあちこちに魔力封じの魔道具を身に付けている。
『両耳にそれぞれ五つ。両手の指の一本一本に2つずつ、両手首と両足首、それとチョーカー。今回は指輪のひとつが壊れたので、新しく作って欲しいと頼まれました』
「なんでそんな……不公平だね」
押さえ込まなければならないほどの魔力。自分には一片もない。ほんの少しでもあれば、自分の人生は違っていたと思う。
たとえ黒髪黒目でも、少しの魔力があれば……
『アディーナ……ごめんなさい。私がそんな風にあなたを……』
普段明るく振る舞っている娘の気持ちを聞いて母が自分のせいだと責める。
「お母様のせいじゃない。そんな風に思われるから今まで言えなかった……でもその代わりこうして死んだ人と話せる力があるから……私を生んで亡くなったお母様とも、私が生まれる前に亡くなっていたお祖父様とも話せるから……」
『ほんに、良い子じゃ……あのぼんくら息子にはもったいないほど良く出来た娘じゃ』
祖父は子育てに失敗したと嘆き続けている。
何をしても飽き性で堪えがない。なのに自分を正当化し取り繕う才には長けていた。
『お嬢さんは立派ですよ。本宅のお嬢さんなんてお嬢さんの足元にも及ばない』
『同じ孫だがあの子は本当に困った子だな……少しの魔力で何でも出きると思っておる。勉強もろくにせんと、金遣いばかり粗い。両親の悪いところを引き継いでおる』
シャンティエはもうすぐデビューだが、なかなかドレスも気に入らず、仕立て屋はしょっちゅう出入りしている。
「それで、その魔道具は、どうしてもアシェル殿下に渡さなくてはならないの?別に指輪のひとつくらい」
『いいえ、今は試作品のひとつをお渡ししていますが、いつまでもつか……封じきれない魔力が暴走して他人に危害を与えるかもしれません。既に殿下の魔力に当てられた者が何人かいて、王室は頭を抱えていると聞きます』
「ないのも困るけど、有りすぎても大変なんだ。でも、今回は何とかなってもこれからその殿下の魔道具が壊れたら誰が直すの?」
『私には優秀な弟子がおります。少々変わり者ですが、技術は間違いありません。ですが、殿下の魔力封じの魔道具を作るのに最低でも数ヶ月はかかります。今から取りかかっても間に合わないでしょう』
アディーナは暫く考え込んだ。
盗まれた指輪を取り戻せれば、その弟子に指輪を渡せば何とかなるだろう。
「わかった。指輪は取り戻す。でも、王宮にいる王子に渡すのは無理。あなたの弟子から渡してもらうわ。それでいい?」
『…はい。致し方ありません』
「なら、引き受けるわ。その代わり条件があるよ」
アディーナは引き受ける代わりに時々報酬を要求する。お金がない人からはもらわないが、王子の魔力封じの道具作製を任される位の人物なら、それなりに貰えると踏んだ。
『お金を取るんですか?』
「当たり前です。こっちも生きて行かなくちゃいけないんだから。有るところからは頂くことにしています」
『しっかりしたお嬢様ですね』
『ワシの教育の賜物だ』
ハニエルがどや顔で言った。
「お金はいいから、あなたの作った魔道具で魔力防御できるものはある?」
アディーナは、彼が魔道具師と聞いてからそのことを考えていた。王子の魔力を封じる程の魔道具を作るなら、魔力防御の道具もそこそこいいものを作れるのではないか。
『魔力防御の道具ですか……いくつか腕輪がありますが、そういったものは例の弟子が得意なので、よければその弟子に無償で作らせましょう』
「え、私専用につくってくれるの?」
『ええ……ですが、どのように伝えれば』
「それは大丈夫。その弟子の人宛に手紙を書くから。字は書ける?」
『はい。書けますが』
アディーナは紙とペンを持ってきて机に座った。
「えっと、じゃあ私の手に手を添える感じで出して貰える?」
『こうですか?』
「うん、そう……」
ハンスの霊がアディーナのペンを持つ手に触れると、すっと彼女の手の甲に溶け込んだ。
『え……』
「そのまま、手を動かして」
『はい』
彼が手を動かすと、それに合わせてアディーナの手も動く。
あっという間に彼の筆跡で書かれた手紙が書き上がった。
『すごい……こんなことができるなんて』
出来上がった手紙を彼はまじまじと眺めた。
「それで、殺した相手は?」
『同じ職人街に住んでいるジャクソンという人物です。かつて同じ師匠に師事しておりましたが、今は独立して別々の工房を営んでおります』
「そう……今からだと夜明けまでに帰ってくるのは難しいわね。明日でもいいかしら。もちろんあなたもついてくるのよ」
「ありがとうございます」
「お礼は成功してからね」
アディーナはもちろん直に会ったことはないが、その魔力量の多さは噂になっていた。
アディーナの魔力鑑定の一年前に彼の鑑定の儀式があったが、そのあまりの魔力量の多さに神殿の一部が吹き飛んだ。
そして年々増大する魔力を押さえるため、体のあちこちに魔力封じの魔道具を身に付けている。
『両耳にそれぞれ五つ。両手の指の一本一本に2つずつ、両手首と両足首、それとチョーカー。今回は指輪のひとつが壊れたので、新しく作って欲しいと頼まれました』
「なんでそんな……不公平だね」
押さえ込まなければならないほどの魔力。自分には一片もない。ほんの少しでもあれば、自分の人生は違っていたと思う。
たとえ黒髪黒目でも、少しの魔力があれば……
『アディーナ……ごめんなさい。私がそんな風にあなたを……』
普段明るく振る舞っている娘の気持ちを聞いて母が自分のせいだと責める。
「お母様のせいじゃない。そんな風に思われるから今まで言えなかった……でもその代わりこうして死んだ人と話せる力があるから……私を生んで亡くなったお母様とも、私が生まれる前に亡くなっていたお祖父様とも話せるから……」
『ほんに、良い子じゃ……あのぼんくら息子にはもったいないほど良く出来た娘じゃ』
祖父は子育てに失敗したと嘆き続けている。
何をしても飽き性で堪えがない。なのに自分を正当化し取り繕う才には長けていた。
『お嬢さんは立派ですよ。本宅のお嬢さんなんてお嬢さんの足元にも及ばない』
『同じ孫だがあの子は本当に困った子だな……少しの魔力で何でも出きると思っておる。勉強もろくにせんと、金遣いばかり粗い。両親の悪いところを引き継いでおる』
シャンティエはもうすぐデビューだが、なかなかドレスも気に入らず、仕立て屋はしょっちゅう出入りしている。
「それで、その魔道具は、どうしてもアシェル殿下に渡さなくてはならないの?別に指輪のひとつくらい」
『いいえ、今は試作品のひとつをお渡ししていますが、いつまでもつか……封じきれない魔力が暴走して他人に危害を与えるかもしれません。既に殿下の魔力に当てられた者が何人かいて、王室は頭を抱えていると聞きます』
「ないのも困るけど、有りすぎても大変なんだ。でも、今回は何とかなってもこれからその殿下の魔道具が壊れたら誰が直すの?」
『私には優秀な弟子がおります。少々変わり者ですが、技術は間違いありません。ですが、殿下の魔力封じの魔道具を作るのに最低でも数ヶ月はかかります。今から取りかかっても間に合わないでしょう』
アディーナは暫く考え込んだ。
盗まれた指輪を取り戻せれば、その弟子に指輪を渡せば何とかなるだろう。
「わかった。指輪は取り戻す。でも、王宮にいる王子に渡すのは無理。あなたの弟子から渡してもらうわ。それでいい?」
『…はい。致し方ありません』
「なら、引き受けるわ。その代わり条件があるよ」
アディーナは引き受ける代わりに時々報酬を要求する。お金がない人からはもらわないが、王子の魔力封じの道具作製を任される位の人物なら、それなりに貰えると踏んだ。
『お金を取るんですか?』
「当たり前です。こっちも生きて行かなくちゃいけないんだから。有るところからは頂くことにしています」
『しっかりしたお嬢様ですね』
『ワシの教育の賜物だ』
ハニエルがどや顔で言った。
「お金はいいから、あなたの作った魔道具で魔力防御できるものはある?」
アディーナは、彼が魔道具師と聞いてからそのことを考えていた。王子の魔力を封じる程の魔道具を作るなら、魔力防御の道具もそこそこいいものを作れるのではないか。
『魔力防御の道具ですか……いくつか腕輪がありますが、そういったものは例の弟子が得意なので、よければその弟子に無償で作らせましょう』
「え、私専用につくってくれるの?」
『ええ……ですが、どのように伝えれば』
「それは大丈夫。その弟子の人宛に手紙を書くから。字は書ける?」
『はい。書けますが』
アディーナは紙とペンを持ってきて机に座った。
「えっと、じゃあ私の手に手を添える感じで出して貰える?」
『こうですか?』
「うん、そう……」
ハンスの霊がアディーナのペンを持つ手に触れると、すっと彼女の手の甲に溶け込んだ。
『え……』
「そのまま、手を動かして」
『はい』
彼が手を動かすと、それに合わせてアディーナの手も動く。
あっという間に彼の筆跡で書かれた手紙が書き上がった。
『すごい……こんなことができるなんて』
出来上がった手紙を彼はまじまじと眺めた。
「それで、殺した相手は?」
『同じ職人街に住んでいるジャクソンという人物です。かつて同じ師匠に師事しておりましたが、今は独立して別々の工房を営んでおります』
「そう……今からだと夜明けまでに帰ってくるのは難しいわね。明日でもいいかしら。もちろんあなたもついてくるのよ」
「ありがとうございます」
「お礼は成功してからね」
10
あなたにおすすめの小説
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
義妹がピンク色の髪をしています
ゆーぞー
ファンタジー
彼女を見て思い出した。私には前世の記憶がある。そしてピンク色の髪の少女が妹としてやって来た。ヤバい、うちは男爵。でも貧乏だから王族も通うような学校には行けないよね。
心が折れた日に神の声を聞く
木嶋うめ香
ファンタジー
ある日目を覚ましたアンカーは、自分が何度も何度も自分に生まれ変わり、父と義母と義妹に虐げられ冤罪で処刑された人生を送っていたと気が付く。
どうして何度も生まれ変わっているの、もう繰り返したくない、生まれ変わりたくなんてない。
何度生まれ変わりを繰り返しても、苦しい人生を送った末に処刑される。
絶望のあまり、アンカーは自ら命を断とうとした瞬間、神の声を聞く。
没ネタ供養、第二弾の短編です。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
ネグレクトされていた四歳の末娘は、前世の経理知識で実家の横領を見抜き追放されました。これからはもふもふ聖獣と美食巡りの旅に出ます。
☆ほしい
ファンタジー
アークライト子爵家の四歳の末娘リリアは、家族から存在しないものとして扱われていた。食事は厨房の残飯、衣服は兄姉のお下がりを更に継ぎ接ぎしたもの。冷たい床で眠る日々の中、彼女は高熱を出したことをきっかけに前世の記憶を取り戻す。
前世の彼女は、ブラック企業で過労死した経理担当のOLだった。
ある日、父の書斎に忍び込んだリリアは、ずさんな管理の家計簿を発見する。前世の知識でそれを読み解くと、父による悪質な横領と、家の財産がすでに破綻寸前であることが判明した。
「この家は、もうすぐ潰れます」
家族会議の場で、リリアはたった四歳とは思えぬ明瞭な口調で破産の事実を突きつける。激昂した父に「疫病神め!」と罵られ家を追い出されたリリアだったが、それは彼女の望むところだった。
手切れ金代わりの銅貨数枚を握りしめ、自由を手に入れたリリア。これからは誰にも縛られず、前世で夢見た美味しいものをたくさん食べる生活を目指す。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる