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22 寝不足の原因
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「ふわぁ」
特大の欠伸が出てしまった。
『お疲れね』
『ひと晩に十人の話を聴いたのじゃから、無理もない』
母と祖父が涙目になるアディーナに同情の声をかける。
「皆、誰かと話をしたくて寂しい思いをしているから」
広場でアディーナを見かけてその夜訪れたのは総勢十人の霊たち。それから一週間経ち、ようやく昨夜最後の一人との話が終わったのは空が白み始めた頃だった。
そのまま寝台に入らず畑の手入れをして、採れたて野菜と前の日のパンで朝食を済ませたところだった。
「でも今日はバザーだから頑張らないと」
『日の経つのは早いものじゃな。日にちの感覚がまったくわからん』
『本当ですね。アディーナもこの前まで赤ん坊だったように思いますもの』
どうやら霊になると月日の流れがわかりにくくなるらしい。肉体というものを失くし、成長することも衰えること朽ちることもない。
普通は時の経過とともに自我を忘れていくものだが、アディーナとともにいることで、彼は常に彼女からの霊力を供給し続け、こうして存在できているらしい。
街に浮遊する霊は、それができないため、ともすれば悪霊に転じることもある。
秋のバザーとは時折焼いた菓子などを差し入れている教会の行事で、月に一回行われる小規模なものでなく、季節ごとに行われる大きなバザーのことだ。
王都で一番大きな教会で行われるため、規模もかなりのものになる。
教会に併設する孤児院の子どもたちが歌や踊り、寸劇などを披露したりして寄付を集めるだけでなく、近所の店舗を営む人たちが自分たちの売り物を格安な値段で提供し、子どもたちがそれを売って差額を収益にする。
実りの秋のバザーは来る冬に備えて石炭や薪、温かい毛布や衣服、そして食糧を買うために行われる。
それは厳しい冬を乗り越えるために必要なものだった。
アディーナも毎年収穫した野菜や焼き菓子を売っている。
ここ一週間はその準備のために日々を費やしていた。
「そろそろジャンさんの手紙も実家に届くころね」
『私の親はマイラと子どもを受け入れてくれるでしょうか』
『まだそんなこと言ってるのか』
この一週間、ジャンさんはずっと同じことを言い続けている。
手紙を送ってみたものの、両親が自分に見切りをつけ妻とお腹の子を受け入れてくれないのではと心配ばかりしている。
『あんたの両親は夫を亡くした身重で身寄りのない人を見捨てるような人間なのかい?』
そしてグレナダさんが叱責する。というやり取りを繰り返している。
『いえ、職人としては頑固ですが、そんな人間ではありません』
『だったらどんと構えて待ってな。それより嫁の状態はどうなんだ』
『それが、あまり良く眠れていないようで…』
『夫が死んで色々と気苦労が絶えないからね…』
ジャンさんはいつも奥さんに張り付いている。ここには毎朝きて奥さんの様子を知らせてくる。
「何かあったら知らせてね。私にできることはするから」
『ありがとうございます。アディーナさんがいてくれて心強いです。私では生きている人に助けを呼べませんから』
「私にはそれしかできないから」
『でも、それが私達には何より有り難いです』
『生きているうちに何もかも段取り出来ていればいいけど、そうはいかないからね』
『アディーナ、そろそろ行かないと』
「あ、そうだね」
教会まではいつも野菜を運んでくれる行商人のモビークという名の人物に乗せてもらう手配をしていた。
ある程度の荷物は昨日のうちに教会に運んであるので、今日は昨夜追加で作った分だけ運べばいい。
屋敷から教会までは馬車でゆっくり行って三十分。アディーナはカツラを被り、裏庭から屋敷を抜け出した。
特大の欠伸が出てしまった。
『お疲れね』
『ひと晩に十人の話を聴いたのじゃから、無理もない』
母と祖父が涙目になるアディーナに同情の声をかける。
「皆、誰かと話をしたくて寂しい思いをしているから」
広場でアディーナを見かけてその夜訪れたのは総勢十人の霊たち。それから一週間経ち、ようやく昨夜最後の一人との話が終わったのは空が白み始めた頃だった。
そのまま寝台に入らず畑の手入れをして、採れたて野菜と前の日のパンで朝食を済ませたところだった。
「でも今日はバザーだから頑張らないと」
『日の経つのは早いものじゃな。日にちの感覚がまったくわからん』
『本当ですね。アディーナもこの前まで赤ん坊だったように思いますもの』
どうやら霊になると月日の流れがわかりにくくなるらしい。肉体というものを失くし、成長することも衰えること朽ちることもない。
普通は時の経過とともに自我を忘れていくものだが、アディーナとともにいることで、彼は常に彼女からの霊力を供給し続け、こうして存在できているらしい。
街に浮遊する霊は、それができないため、ともすれば悪霊に転じることもある。
秋のバザーとは時折焼いた菓子などを差し入れている教会の行事で、月に一回行われる小規模なものでなく、季節ごとに行われる大きなバザーのことだ。
王都で一番大きな教会で行われるため、規模もかなりのものになる。
教会に併設する孤児院の子どもたちが歌や踊り、寸劇などを披露したりして寄付を集めるだけでなく、近所の店舗を営む人たちが自分たちの売り物を格安な値段で提供し、子どもたちがそれを売って差額を収益にする。
実りの秋のバザーは来る冬に備えて石炭や薪、温かい毛布や衣服、そして食糧を買うために行われる。
それは厳しい冬を乗り越えるために必要なものだった。
アディーナも毎年収穫した野菜や焼き菓子を売っている。
ここ一週間はその準備のために日々を費やしていた。
「そろそろジャンさんの手紙も実家に届くころね」
『私の親はマイラと子どもを受け入れてくれるでしょうか』
『まだそんなこと言ってるのか』
この一週間、ジャンさんはずっと同じことを言い続けている。
手紙を送ってみたものの、両親が自分に見切りをつけ妻とお腹の子を受け入れてくれないのではと心配ばかりしている。
『あんたの両親は夫を亡くした身重で身寄りのない人を見捨てるような人間なのかい?』
そしてグレナダさんが叱責する。というやり取りを繰り返している。
『いえ、職人としては頑固ですが、そんな人間ではありません』
『だったらどんと構えて待ってな。それより嫁の状態はどうなんだ』
『それが、あまり良く眠れていないようで…』
『夫が死んで色々と気苦労が絶えないからね…』
ジャンさんはいつも奥さんに張り付いている。ここには毎朝きて奥さんの様子を知らせてくる。
「何かあったら知らせてね。私にできることはするから」
『ありがとうございます。アディーナさんがいてくれて心強いです。私では生きている人に助けを呼べませんから』
「私にはそれしかできないから」
『でも、それが私達には何より有り難いです』
『生きているうちに何もかも段取り出来ていればいいけど、そうはいかないからね』
『アディーナ、そろそろ行かないと』
「あ、そうだね」
教会まではいつも野菜を運んでくれる行商人のモビークという名の人物に乗せてもらう手配をしていた。
ある程度の荷物は昨日のうちに教会に運んであるので、今日は昨夜追加で作った分だけ運べばいい。
屋敷から教会までは馬車でゆっくり行って三十分。アディーナはカツラを被り、裏庭から屋敷を抜け出した。
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