皎き忌み子と太陽の皇子

七夜かなた

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第一章 巡礼の街

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 アルブがイルジャを見つけた付近には、特に何も見つからなかった。

「確か…彼も武器を持っていたよね」

 一年前に彼と会った時の記憶を思い起こす。あの時イルジャは腰に剣を帯びていた。
 ちらりと見えただけだが、柄の先が丸くて彫刻が付いて、握りの部分が赤だったように思う。
 怪我をした時には持ちあわせていなかったという可能性もあるが、彼がただ一方的に斬られたとも考えにくい。
 もしくは、先に毒を盛られていて、斬られたかも知れない。
 アルブは暫く辺りを探った。
 ここでは争った痕跡がない。
 彼を見つけた辺りで怪我を負ったというよりは、別の場所で怪我を負い、そこから移動したと思われる。
 歩いて行くと、アルブの耳にカアカアと烏の鳴き声が聞こえた。

「どこから…」

 耳を澄まして、鬱蒼とした森の中で、辺りを探る。

「あっちだ」

 当たりを付けて、そちらに向かう。繁みを掻き分けると、そこは少し坂になっていた。

「あ……」

 そこには滅多に来ることが無かったため、坂になっていることに気づかず、おまけに昨日の雨で地面が泥濘ぬかるんでいて滑りやすくなっていた。
 アルブは転んで小さな水溜りに手をついた。
 ビシャリと泥が跳ねて顔に飛ぶ。

「……!!!」

 何かドス黒い液体が地面に染みを作っているのが見えた。
 それは血のようにも思える。  
 そして烏の声は、その向こうから聞こえてくる。

「あれは…」

 ごくりとツバを飲み込み、アルブは恐る恐る繁みを掻き分けて近づいた。
 時折肉食の獣に食い殺された、ウサギや鳥などの死体を見つけることがある。
 しかし、土についた染みの大きさから、ウサギなどよりもっと大きな生き物の血のようだ。

「う…」

 繁みの向こうには、凄惨な光景が広がっていて、アルブは体を強張らせた。
 そこにあったのは三人の人間の遺体。
 全員男だと思われる。
 しかし、その体は既に獣に食い荒らされていたため、殆ど骨と髪と衣服しか残っていない。
 今は烏が、骨に張り付いたその残片を啄んでいる。
 アルブは口元を覆い、込み上げる吐き気を堪えた。
 烏が顔から目玉をくり抜こうとしている男性を見ると、骨になったお腹の辺りに剣が突き刺さっている。
 いや、突き刺さっていたがすでに肉は無く、挟まっていると言えるかも知れない。
 明らかに戦った結果、死んだのだとわかる。
 周りには獣の足跡が数多く残っている。所々に肉片も残っている。

「ぐっ、がはっ、うえっ」

 地面に手を突いて、胃液を吐き出した。
 
「はあ、はあ、はあ」

 口元を拭ってから、気を取り直してもう一度、死体を見た。

 残された衣服も獣に噛み千切られて、ビリビリだ。
 しかし共通しているのは、どれも色が黒だということ。
 まるで闇に紛れる刺客のようだと思った。

「まさか、この人たちって、イルジャが?」

 彼らとイルジャに関係があるのか確証はない。
 でも傷を負ったイルジャと、同じく剣で殺された三人が、同じ頃に同じ森にいるのは偶然だろうか。

「しっ、しっ、お前たちあっちへ行け」

 アルブが近づくと、烏は嘴に目玉や肉片を咥えて飛び去った
 縁もゆかりも無い人たちだが、このまま放っておくのは可哀相だと思った。
 烏を追い払い、死体に突き刺さった剣を抜いた。それから遺体を集めた。
 きちんと穴を掘って埋めてやりたいところだが、アルブの力ではこの硬い土を掘り起こすのは無理だ。
 三人の遺体に両手を合わせ冥福を祈るのが精一杯だった。
 ラーシル教の洗礼は受けていないアルブの祈りは、師匠の受け売りだったので、それが正しいものかはわからない。
 しかし、どのような人物でもその死を悼んで、死出の旅路が恙無いことを祈った。
 それから遺品をかき集める。
 集めた遺品は、剣が四本と鞘がひとつ。他には何もない。
 剣には詳しくないが、見つけた剣の一本はイルジャが持っていた剣に似ている気もする。
 後の三本と柄の種類が明らかに違う。他の三本の柄はなんの飾り気もないが、この一本は柄の先端に彫刻が施されていて、材質も高級そうだ。
 見つかった鞘と柄の彫刻も同じだから、きっとこの剣の鞘だろう。
 そして、後の三本の剣の鞘は、男たちの腰にあった。
 血がついているのは二本だけ。彫刻が付いた剣と、遺体の三人のうちの誰かのだろう一本。
 もしこの剣に毒が付いていたらと、アルブは慎重に鞘に収めた。
 アルブは薬草を育て、簡単な薬なら作れる。しかし、毒かどうかを調べる方法は本で読んだが、家にはその道具もないので、はっきり調べることもできない。
 が、恐らくはイルジャが侵された毒だろうと、直感した。
 だが、わかったのはそれだけで、他にイルジャの身元を証明するようなものや、彼の物と思われるようなものは見つけられなかった。
 もともとイルジャのことは何も知らない。この中から、彼に繋がる何か見つけようと思うことが間違っていたのかもしれない。
 自分のことを思い出せないイルジャのために、何か見つかればいいなとは思っていた。
 取り敢えずは、この剣だけでよしとするしかない。

「これで何か思い出すかな…」

 イルジャの体はよく鍛えられていた。きっと真面目に鍛錬しているのだろう。
 これを見れば何か思い出すかも知れない。
 でも、それがイルジャにとって、いい記憶かどうかは、わからない。
 単なる物盗りか、それとも彼の命を狙ったものか。
 少なくとも、ここで命のやり取りが行われたのは間違いないのだ。
 
 
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