その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

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 もっともなシャンティエ嬢の問いかけに、一瞬怯んだものの、王太子はすぐに立ち直った。

「理由がわからないと?」
「はい。私がこのような場で殿下から前触れもなく、突然婚約破棄を宣言されるような何かをいたしましたか?」
「ほう…覚えがないと?」
「はい」
「何とも己の犯した所業に心当たりがないと言うのだな。では、教えてやろう。カトリーヌ、こちらへ」

 ひと際大きな声でアレッサンドロが同じ舞台の上にいる生徒会メンバーの一人である女生徒の名を呼んだ。

 生徒会では書記を勤めているその令嬢、カトリーヌ・ブーレット男爵令嬢は、ごてごてとした豪華な首飾りを身に着け、王都で一番有名な店で買ったと思われる華やかなグリーンのドレス姿を見せつけるようにしてアレッサンドロの隣に立った。

 ストロベリーブロンドをきれいにセットしたカトリーヌ嬢は、新緑の瞳をうるうると潤ませ、アレッサンドロを見つめる。

「殿下、私のことはいいのです。私さえ我慢すれば…このようなこと、シャンティエ様がお可哀想です」
「何を言う。そのようなこと、赦されるはずがないだろう。それに、悪行を犯したからには、それを明らかにして罪を認めさせ、償わせなければならない」

(言ったわね)
 
 期待通りの言葉を聞いて、ベルテは計画していたことを実行に移すべく、人影に隠れて舞台へと近づいていった。
 ベルテが動くのを、アレッサンドロたちの後ろに座っている男子生徒が目にし、静かに頷いた。

 他の生徒会の者たちも副生徒会長である、彼に続いてこちらを見た。

「彼女のことは知っているな?」

「カトリーヌ嬢。最近殿下が懇意にされている男爵令嬢ですわね」

 王太子の問いに、シャンティエが扇を口元に当てて答えた。

「懇意などと。彼女は同じ生徒会の一員だ。彼女に対してそなたが心無い仕打ちをしたと聞き及んでいるが、心当たりはあるか?」
「心無い仕打ちとは?」

 アレッサンドロの言葉に対して、シャンティエは質問で返す。

「とぼけるな、彼女一人に数人で寄ってたかって、生意気だの、不敬だの、ふしだらだのと責め立てたそうだな」
「それは、彼女が殿下はじめ、婚約者のいらっしゃるご令息たちに不用意に身体接触をしたり、二人きりで隠れて会っていらっしゃるので、慎むように注意したまでですわ」
「何とも控えめな言い方だな。彼女を取り囲んで追い詰め、怯えて逃げようとするところを腕を掴んで転倒させたと聞くぞ。池に私物を投げ込んだり、制服にわざとスープをかけたり、暗い物置に閉じ込めたりしたと聞くぞ」

 アレッサンドロが次から次へと並べ立てる、カトリーヌに対して行った所業の数々に、カトリーヌはうんうんと頷く。

「私もそのように聞きました」

 会場にいる他の令息たちからも声が上がる。

 それはカトリーヌと仲良くしていたと噂になった令息達だ。ぎっとそんな彼らを睨む令嬢達がいる。
 彼女達は令息達の婚約者だったが、皆最近婚約を解消している。
 その原因がカトリーヌだったことは、ベルテも聞き及んでいる。

「そのようなことをした覚えはございません。彼女の勘違いだと思いますわ」
「しらをきるのか! 不遜だな。カトリーヌは捻挫や打撲を負い、恐ろしさのあまり暫く食事も喉を通らなかったのだぞ」
「ですが、いつも殿下とお茶を楽しまれておりましたよね。一体いつの話でしょうか」
「それは私が落ち込んだ彼女を励まそうとしてしたことだ! いちいち突っかかるな。小賢しい女だな」

 シャンティエの反省すらしない態度に、アレッサンドロが苛立って更に声を荒げた。

「とにかく、泣きながら池に落ちた私物を拾っている彼女を、大勢の人間が見ているんだ。カトリーヌは優しいから私が犯人について問い質しても、何も言わなかった」
「アレッサンドロ様、私が悪いのです。私が・・婚約者がいらっしゃる方とわかっていながら、殿下のことを好きになってしまった私が・・うう」

 カトリーヌは手で顔を覆い、肩を振るわせて泣き始めた。

「カトリーヌ、ああ、可哀想に」

(まるで下手な三文芝居ね)

 ベルテは目の前で見つめ合う二人の様子に、鳥肌が立った。


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