その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

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「殿下が見たのは、池で私物を拾っている彼女ですよね。私や、私が指示した誰かが池に彼女の物を捨てるのを直にご覧になられたのですか?」
「そ、それは・・」

 またもやアレッサンドロは怯んだ。彼が話すのはすべてカトリーヌからの一方的な情報のみだ。だから簡単に論破されてしまう。
 浅はかとで、もはや残念な生き物としか言いようがない。

(あれが将来この国を背負って立つ国王になるのかと思うと恐ろしいわ)

 勉強が苦手なアレッサンドロは、それでも成績はいつも学年で上位に位置している。
 しかし、そこに理由があることをベルテは知っている。

「だ、だが、そなたがカトリーヌを諫めたのは事実だろ? 其方以外に誰がいるのだ」
「そ、そうです。それに私、昨日学園の階段で後ろから誰かに突き押されたのです。危うく転落は免れましたが、あの時一瞬逃げ去る人の白く輝く髪を見ました」
「なんだと!」

 カトリーヌの告白を聞いたアレッサンドロは、シャンティエを睨んだ。

「シャンティエ、お前、とうとうそんなことを。嫉妬でそこまでするとは」

 アレッサンドロはシャンティエをお前と呼ぶ。

「私はそのようなことしておりません。事実無根です。カトリーヌ嬢、いいかげんなことを仰らないください」

 さすがにそんな殺人未遂まで犯したと言われては、シャンティエも黙っていない。

「それに嫉妬などと…それでは私がまるで殿下のことを好ましく思っていると誤解されますわ」
「な、なんだと」

 はっきり好意がないと言い切られ、アレッサンドロは思惑が外れて怯む。
 自分を挟んで二人の令嬢が火花を散らす状況を想定していたのに、一方からまるで興味がないと言われてしまった。

「カトリーヌが嘘を言っているというのか」
「そう言わざるをえませんわ」
「そんな、私、殺されかけたのですよ」
「それも誰か現場を見たのですか。それに、昨日私は午後から早退して王宮で王太子妃教育を受けておりました。ご存知ですよね。殿下と婚約してからずっと週に一度私が王宮に通っているのを」
「ぐっ」

 言葉を詰まらせたアレッサンドロを見れば、そのことを失念していたのは間違いない。
 それを見て、シャンティエは深々とため息を吐いた。
 彼女がこれまでどんな努力を積み重ねてきたか、それをまったく理解してくれない相手とは、結婚してもむなしいだけだ。
 
「わかりました。そこまで仰るなら婚約破棄を受け入れましょう」

 シャンティエは持っていた扇をパチリと閉じた。

「ですが、このことは国王陛下や王妃様、そして私の父は存じているのですよね」

 鋭い視線で、彼女がアレッサンドロとカトリーヌを交互に見る。

「・・・ち、父上達は・・これから説得する。父上達もお前が特定の令嬢を標的にして、集団で苛めていたと聞けば、納得するだろう」
「ですから、それは事実無根です。婚約破棄は構いませんが、その点については承諾しかねますわ」
「ふてぶてしい。どうあがいても、認めないつもりか」
「ええ。第一、男爵令嬢ごときを私が苛めて、何の得があると言うのですか」
「ひ、ひどい・・確かに私の家は男爵ですが、爵位で人を蔑むなんて」
「カトリーヌ、泣くな。こんな酷い女とは思わなかった。やはりお前と結婚などできない」
「アレッサンドロ様、私、とても悲しいです。私はシャンティエ様に憧れ、親しくさせていただきたと思っておりますのに・・やはり婚約者のアレッサンドロ様の心を奪った私が許せないのですね」

 頭がお花畑の二人の話を、これ以上聞いていられないとベルテは思った。
 周りを見れば、シャンティエに同情的な視線を向けている者もいるが、この状況を面白がっている者が殆どだ。

(もういいかしら。もうあんな連中に一秒たりとも付き合っていられないわ)

 ベルテはこれ以上、この知能レベルの低いやりとりを聞いているのが耐えられなくなった。
 
「改めて言う。シャンティエ・ベルクトフ侯爵令嬢、そなたは私と仲が良いというだけで、嫉妬でカトリーヌを苛め、それを認め謝罪をするどころか、事実無根だと言い逃れをした。そんなそなたと夫婦になり共に国のために尽くすことなど、到底できない。よってそなたとの婚約は破棄す」
「異議あり!」

 アレッサンドロが全て言い切る前に、会場に響き渡る声でベルテは叫んだ。
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