その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

文字の大きさ
4 / 71
第一章 婚約破棄と断罪

1

しおりを挟む
 突然聞こえた第三者の声に、誰もがその声の主を振り返った。

(怯んだらだめ。自分で決めたんだから)

 皆の視線を集めながら、つかつかと胸を張ってベルテはシャンティエの隣に立った。

「ベルテ…殿下?」

 直接言葉を交わした回数はあまりないが、彼女が誰か知っているシャンティエは、ベルテの名を口にした。 

「なんだ、ベルテ。お前がしゃしゃり出てくる場所ではない。それに何だその格好は? 今日は何の日かわかっていなかったのか?」

 アレッサンドロは制服のまま現れたベルテを、眉間に皺を寄せ、不機嫌さを隠そうともせず睨みつけた。

「もちろん今日が生徒会主催のパーティーであることは存じております」
「なら場を弁えろ。参加する気がないなら、来る必要はない」
「わかっております。ですが、場を弁えていらっしゃらないのは、そちらではございませんか? 兄上|《・・》」

 アレッサンドロの右眉がピクリと動く。
 彼はベルテに兄と呼ばれるのが嫌いなのだ。もちろんベルテはそれを知っていて、わざとそう言ったのだ。

 アレッサンドロとベルテは血が繋がっている。
 
 ただし半分だけ。

 この国の王は法律で、三人まで妻を娶ることができる。正妃一名と側妃がニ名。もちろん、三人迎えないといけないわけではない。歴代の王の中には、正妃だけだった者もいる。途中で誰かが亡くなり、その代わりに新たに妃を迎え、結果的に四人以上娶った者もいる。

 アレッサンドロは正妃の子で、ベルテが第一側妃の子だ。正妃は今も健在だが、ベルテの生みの母である第一側妃は、ベルテが三歳の時に亡くなった。
 母親を亡くした幼いベルテを可愛がってくれたのは、父親である国王の祖父だった。地方貴族出身のベルテの母は、特に王宮内で力もなく、その娘のベルテもまた同じだった。一方正妃は王都でも力のある侯爵家の娘で、後宮内で圧倒的な勢力を持っている。
 それは今でも変わらないが、その後国王は第二側妃を迎えた。
 第一側妃の席が空席だったため、実質は第一側妃のようなものだ。
 ちょうどベルテを引き取ってくれた曽祖父が亡くなり、第二側妃がベルテの面倒を見ると言ってくれたため、彼女は王宮に戻った。
 第二側妃はベルテに取って、母と言うよりは姉のような存在だったが、彼女が産んだ異母弟と共にうまくやれている。
 しかしアレッサンドロとは、性別が違うというだけでなく、まったくそりがあわない。
 学園内でも絶対に話しかけるな。顔も見せるなと言われていた。
 ベルテも言うとおりにするのはしゃくだが、面倒だし、会いたくないのはお互い様なので、これまで関わったことはなかった。
 もともと王太子として注目を浴びていて、華やかな容姿のアレッサンドロと、目立つのが嫌いで濃いブロンズ色の三編み地味子のベルテが、兄弟だと見た目で気づく人はほとんどいない。

 シャンティエが彼女を殿下と呼んだのは、王宮で何度か顔を合わせたことがあるからだ。

 できればずっと兄のアレッサンドロとは関わらずにいたかったが、このまま彼の好きにさせていては、この国の将来が危ないということが明白の事実だった。
 そして彼女は、アレッサンドロが始めた婚約破棄のこの場を利用して、アレッサンドロとカトリーヌの罪を明るみにしとうと思った。

「それとも、この場で唐突にベルクトフ侯爵令嬢に婚約破棄を告げることが、パーティーの次第だったとでも? そのようなこと、ございませんよね」

 いくら生徒会主催のパーティーと言っても、風紀を著しく乱すような内容は認められない。

 そこはどういう流れでどういう演出で行われるのか、事前に学園側に申請をして、きちんと学園長はじめ、教師たちの許可を得ている。

「それで、先程の発言はどういう意味だ? まさかこの婚約破棄に異義を唱えるとでも言うのか?」

 ベルテが言い放った「異議あり」の言葉がどういう意味なのかと問い質した。

「いえ、婚約破棄自体は異議はありません。むしろ是非そうなさってください。その方が彼女のためです」

 ベルテはちらりとシャンティエを見た。

「では何に対しての『異議』だ」
「それは、そこのカトリーヌ嬢をシャンティエ嬢が虐げたということに対してです。私もシャンティエ嬢の言うとおり、それはまったくのでっち上げだと私も思います」
「そんな、私が嘘を言っているというの?」

 カトリーヌは瞬時に手で顔を覆い、酷いわと叫んだ。

「カトリーヌ、気にするな。ベルテ、私に何か恨みでもあるのか?」

 もの凄い剣幕でアレッサンドロはベルタに叫んだ。 


 
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...