その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

文字の大きさ
5 / 71
第一章 婚約破棄と断罪

2

しおりを挟む
「特に恨みはありません。でも、冤罪を見過ごせなかっただけです」
「冤罪?」
「そうです」

 パチンとベルテが指を鳴らすと、会場の照明が薄暗くなった。
 そして舞台上にスクリーンが降りてきて、映像が流れ出した。

 場所は池。それが学園内にある生徒達の憩いになっている庭だと、ここにいる誰もが知っている場所だ。

 ポチャン、ポチャンと、その池に何かを投げ入れている人物が映る。学園の制服を着たその女性はカトリーヌだ。

 そして投げ終わると、スカートの裾をたくし上げて靴と靴下を脱いで、今さっき放り投げた物を拾うために池に足を踏み入れた。

「う、嘘よ。ねつ造よ! こんなの止めて!」

 カトリーヌがベルテに叫んだ。

『カトリーヌ、何をしているんだ。それはどうした?』

 映像の中から声が聞こえてきた。映り込んでいるのはアレッサンドロだ。

『誰かが私の私物を池に・・グス』

 映像の中のカトリーヌはそうアレッサンドロに訴える。

「これは・・」

 シャンティエが呟く。

「池に私物を放り込んだのは、彼女自身?」
「自作自演か」
「それをシャンティエ嬢のせいに?」

 周りからそんな囁きが聞こえてくる。

「カトリーヌ、どういうことだ」
「ち、違うわ」

 アレッサンドロの問いかけに、カトリーヌが必死で否定する。

『本当にいいの?』
『ええ』

 場面が変わり、カトリーヌが他の女生徒と一緒に居る映像が現われた。
 場所は学園内の階段上。

『その代わり、誰にも内緒にしてね』
『わかっているわ。あなたも約束して』
『ええ。私が王太子妃になったら、あなたにもいい相手を見つけてあげるわ』

 そして次の瞬間、女生徒はカトリーヌを一二の三で軽く突き飛ばした。

 会場が一斉にざわついた。

「わざと?」
「それをシャンティエ嬢のせいに?」

 周りからまたもや囁きが聞こえる。

「カトリーヌ、どういうことだ?」
「違うわ! そんなの嘘よ。でっちあげよ!」

 さらに詰問するアレッサンドロに、カトリーヌはその場に座り込んだ。

「ベルテ、これは何だ?」
「これは私がここ数ヶ月カトリーヌ嬢を見張って撮影したものです」

 それから場面はまた変わる。

『わかっているだろ? 早く言われたとおりにしろ』
『も、もう許してください』

 今度映像に映し出されたのは、アレッサンドロと男子生徒だった。少し離れた所にカトリーヌも映っている。
 壁を背にして立つ男子生徒に、アレッサンドロが壁に手を突いて迫っている。

『そんなこと言っていいのか。お前の父親は宮廷勤めの騎士だろ。私のひとことで、地方勤務にもできるんだぞ』
『そ、それだけは殿下、おやめください』
『わかったなら、これ、明日までにやっておけ』

 何か封筒に入った物をアレッサンドロが男子生徒に渡した。

『あ、明日! そんな、無理です』
『わかっているだろ、ホレイショー先生は期限にうるさんだ。明日までにこの論文を出さないと、私はC評価になる。わかったら言われたとおりにしろ』

 アレッサンドロは封筒を男子生徒の胸に押しつけた。

『アレッサンドロ様、もうよろしいのですか?』

 男子生徒に背を向けたアレッサンドロの腕に、カトリーヌがしがみつく。

『ああ、待たせたな。課題は彼に押しつけた。さあ、生徒会室でお茶でも飲もう。おいしいケーキをいただいたんだ』
『嬉しい。あ、そう言えば、この前素敵なドレスを見つけたんです。今度開かれる生徒会主催のパーティで着られたらいいな』
『カトリーヌは何を着ても似合うが、そんなにそのドレスが気に入ったなら、私が買ってやろう』
『うれしい! あ、だったら一緒にそのドレスに合わせてネックレスも買わないと・・』
『宝石も・・しかしそれは・・私はまだ学生で私が自由に出来るお金にも限りがある。すでに今月支給された分は殆ど使ってしまった。来月にならないと無理だ』

 どうやら王太子と言えど、学生の間は小遣い制らしい。カトリーヌのおねだりにアレッサンドロは難色を示した。

『そうですよね。私の家はそれほど裕福ではないので、父達は母のお下がりを身につけろって言うんです。でも、それだとアレッサンドロ様の隣にいるのは似つかわしくありませんわ』

 今にも泣きそうな声でカトリーヌが呟いた。

『何を言う。私の隣にいて相応しいのはカトリーヌだ』
『シャンティエ嬢ではなく?』
『当たり前だ。あんな気取った女は、いくら美人でもこっちが萎える。女は昼は淑女、夜は娼婦がいいに決まっている』
 
 画面ではアレッサンドロがカトリーヌの胸を触っている。

『もう、アレッサンドロ様ったら。ネックレスは買ってくれると言うまでお預けですわ』

 その手をカトリーヌが軽く叩く。

『わかったよ。お金は何とかする』
『本当ですか!』
『ああ、生徒会主催のパーティー費用をいつものように拝借すれば何とかなるさ』
『うれしい』

 映像はそこで途切れた。

「え、どういうこと?」
「殿下はカトリーヌ嬢と?」
「それより、パーティの費用から拝借って・・」
「横領?」

 ヒソヒソと今の映像を見た者達から囁き声が聞こえる。

「な、なんだこれは。ベルテ! どういうことだ」

 振り返ったアレッサンドロが、唇を震わせながらベルテを振り返る。
 それに対してベルテはすっと肩をすくめた。

「カトリーヌ嬢を撮ろうとしたのですが、偶然兄上が映ってしまったようですね」

 にこりとベルテは微笑んだ。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...