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第二章 想像しなかったとばっちり
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「確かに、デルペシュ卿は独身だ。細君は数年前に亡くなっていたな」
デルペシュは一度結婚していたが、妻を病で亡くし、子供もいない。
既婚者ではないが。
「しかし、彼はシャンティエ嬢よりかなり歳上だぞ」
「はい。現在は三十七ですから、ちょうど二十歳離れております」
「いくら好きでも、歳が離れ過ぎていますし、そんなシャンティエをデルペシュ卿が相手にするとは思えません」
侯爵たちが渋い顔をしたのもわかる。
貴族同士の結婚には歳の差は関係ないとは言え、親としては自分たちとそれほど変わらない年齢の相手との結婚は、手放しでは喜べないだろう。
しかし、国王は骨を折ると約束した手前、頭ごなしに無理だとは言えず、また親として侯爵たちの複雑な心境も理解できるだけに、ムムムと眉間に皺を寄せて唸った。
「と、取りあえず、デルペシュ卿の意見も聞いてみよう。もし、まるっきり脈がなければ、諦めてくれるか?」
国王が命令すれば、余程のことがない限り、デルペシュも否とは言えない。
しかし、それで二人が幸せになるとは言えない。
「もちろんです。もしあの方に他に想いを寄せる方がいるなら、私も潔く諦めます。不幸にさせたいわけではありませんから」
「う、うむ、そうか。そうだな」
「ですが、もし宜しければ、場を設けて頂きましたら、私自身の口から伝えたいと思います」
「シャンティエ嬢から? しかし、それは……」
貴族の令嬢の方から想いを告げることは、あまり世間体的に好ましくないことだ。
それ故皆渋い顔をする。
「まあ、素敵ね。最近の若い方は積極的だわ」
エンリエッタだけが、楽しげに浮かれている。
「エンリエッタ、ややこしいから、そなたは黙っていなさい」
悪い人ではないし、彼女のお陰で場が和むことはあるが、空気が読めない時があるのが玉にキズだ。
「すでに婚約破棄を言い渡され、いまさら世間体も何もありません。それより陛下から打診されればあの方も無闇に断れないでしょう。断りたいのに、無理に迫れば、彼を追い込むことになります。それは私の本意ではございません」
「いいではないですか。当たって、もし砕けてもそれで後悔はしないと言っているのだから」
不意に口を開いたのは、ディランだった。
「ディラン殿下」
「ディラン、そなたはまだこういった話に口を出すのは早い」
「そうですよ」
国王とエンリエッタ二人にディランは窘められた。
「だったらどうして僕をここに呼んだのです。父上たちだけいればいいではないですか。姉上もこんなに着飾って立ち会う必要などなかったのではないですか?」
ディランが文句を言う。
確かに、関係があるようでない。
シャンティエとデルペシュが婚約するかどうかなど、結果だけ聞けばいいし、ベルテが化粧までして座っている意味などない。
「それは……あれだ。この後のもうひとつの案件のことでは、二人がいたほうが……」
ゴニョゴニョと国王が呟く。
「もうひとつの案件?」
ディランとベルテ二人で顔を見合わせる。
それからベルテは顔を上げ、エンリエッタから国王、ベルクトフ侯爵、侯爵夫人、シャンティエと顔を眺め、最後に一番短くさっとヴァレンタインを見た。
ディランとベルテ、そしてシャンティエだけが怪訝そうな顔をしていた。後は全員何のことを言っているのかわかっているふうだった。
「コホン、では、シャンティエ嬢とデルペシュとの件は、迅速に二人が話し合う場を設けよう。皆それで異論はないな」
「はい」
「承知しました」
「……わかりました」
「宜しくお願いいたします」
エンリエッタ、ヴァレンタイン、ベルクトフ侯爵、シャンティエの順に返事が返ってきて、侯爵夫人とディラン、ベルテは無言で頷いた。
「さて、もうひとつの案件だが……」
国王がベルテに視線を向ける。
何か嫌な予感しかしないベルテは、気色ばむ。
「王家のベルクトフとの此度の縁組について、再考した。侯爵とも話し合った結果、ヴァレンタイン小侯爵と、王女ベルテの縁組を新たに取り決める」
「えっ!!!!」
「まあ」
「えええええええーーー」
ディラン、シャンティエ、そして最後にベルテが反応した。
ベルテにいたっては同時に立ち上がり、座っている皆を一巡して見渡した。
ディランは驚きで目を見開き、口をポカンと開けている。
シャンティエは口元を手で覆い、目は嬉しそうに細められている。
そして最後にヴァレンタインに視線が止まる。
立っているベルテにしっかりと視線を合わせ、ヴァレンタインは優雅に微笑んだ。
「よろしく、ベルテ殿下」
ヴァレンタインが初めてベルテの名を呼んだ瞬間だった。
デルペシュは一度結婚していたが、妻を病で亡くし、子供もいない。
既婚者ではないが。
「しかし、彼はシャンティエ嬢よりかなり歳上だぞ」
「はい。現在は三十七ですから、ちょうど二十歳離れております」
「いくら好きでも、歳が離れ過ぎていますし、そんなシャンティエをデルペシュ卿が相手にするとは思えません」
侯爵たちが渋い顔をしたのもわかる。
貴族同士の結婚には歳の差は関係ないとは言え、親としては自分たちとそれほど変わらない年齢の相手との結婚は、手放しでは喜べないだろう。
しかし、国王は骨を折ると約束した手前、頭ごなしに無理だとは言えず、また親として侯爵たちの複雑な心境も理解できるだけに、ムムムと眉間に皺を寄せて唸った。
「と、取りあえず、デルペシュ卿の意見も聞いてみよう。もし、まるっきり脈がなければ、諦めてくれるか?」
国王が命令すれば、余程のことがない限り、デルペシュも否とは言えない。
しかし、それで二人が幸せになるとは言えない。
「もちろんです。もしあの方に他に想いを寄せる方がいるなら、私も潔く諦めます。不幸にさせたいわけではありませんから」
「う、うむ、そうか。そうだな」
「ですが、もし宜しければ、場を設けて頂きましたら、私自身の口から伝えたいと思います」
「シャンティエ嬢から? しかし、それは……」
貴族の令嬢の方から想いを告げることは、あまり世間体的に好ましくないことだ。
それ故皆渋い顔をする。
「まあ、素敵ね。最近の若い方は積極的だわ」
エンリエッタだけが、楽しげに浮かれている。
「エンリエッタ、ややこしいから、そなたは黙っていなさい」
悪い人ではないし、彼女のお陰で場が和むことはあるが、空気が読めない時があるのが玉にキズだ。
「すでに婚約破棄を言い渡され、いまさら世間体も何もありません。それより陛下から打診されればあの方も無闇に断れないでしょう。断りたいのに、無理に迫れば、彼を追い込むことになります。それは私の本意ではございません」
「いいではないですか。当たって、もし砕けてもそれで後悔はしないと言っているのだから」
不意に口を開いたのは、ディランだった。
「ディラン殿下」
「ディラン、そなたはまだこういった話に口を出すのは早い」
「そうですよ」
国王とエンリエッタ二人にディランは窘められた。
「だったらどうして僕をここに呼んだのです。父上たちだけいればいいではないですか。姉上もこんなに着飾って立ち会う必要などなかったのではないですか?」
ディランが文句を言う。
確かに、関係があるようでない。
シャンティエとデルペシュが婚約するかどうかなど、結果だけ聞けばいいし、ベルテが化粧までして座っている意味などない。
「それは……あれだ。この後のもうひとつの案件のことでは、二人がいたほうが……」
ゴニョゴニョと国王が呟く。
「もうひとつの案件?」
ディランとベルテ二人で顔を見合わせる。
それからベルテは顔を上げ、エンリエッタから国王、ベルクトフ侯爵、侯爵夫人、シャンティエと顔を眺め、最後に一番短くさっとヴァレンタインを見た。
ディランとベルテ、そしてシャンティエだけが怪訝そうな顔をしていた。後は全員何のことを言っているのかわかっているふうだった。
「コホン、では、シャンティエ嬢とデルペシュとの件は、迅速に二人が話し合う場を設けよう。皆それで異論はないな」
「はい」
「承知しました」
「……わかりました」
「宜しくお願いいたします」
エンリエッタ、ヴァレンタイン、ベルクトフ侯爵、シャンティエの順に返事が返ってきて、侯爵夫人とディラン、ベルテは無言で頷いた。
「さて、もうひとつの案件だが……」
国王がベルテに視線を向ける。
何か嫌な予感しかしないベルテは、気色ばむ。
「王家のベルクトフとの此度の縁組について、再考した。侯爵とも話し合った結果、ヴァレンタイン小侯爵と、王女ベルテの縁組を新たに取り決める」
「えっ!!!!」
「まあ」
「えええええええーーー」
ディラン、シャンティエ、そして最後にベルテが反応した。
ベルテにいたっては同時に立ち上がり、座っている皆を一巡して見渡した。
ディランは驚きで目を見開き、口をポカンと開けている。
シャンティエは口元を手で覆い、目は嬉しそうに細められている。
そして最後にヴァレンタインに視線が止まる。
立っているベルテにしっかりと視線を合わせ、ヴァレンタインは優雅に微笑んだ。
「よろしく、ベルテ殿下」
ヴァレンタインが初めてベルテの名を呼んだ瞬間だった。
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