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第三章 婚約の対価
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「な、ななな、ど、どうして、私が……この人と、こ、婚約なんて」
「素敵、それではベルテ殿下が私の義妹ではなく義姉上になるのですね」
義妹から義姉に関係性が変わってしまった。
単純に変わったとは言い難いかもしれない。
アレッサンドロとシャンティエの結婚に、ベルテはいてもいなくても、どっちでもいいし、どちらかと言えばいなくても成立する。
しかし義姉になるには、ベルテ自身がシャンティエの兄と結婚しないといけない。
「我々もベルテ殿下を家族にお迎えできて光栄です」
「もう一人娘ができて嬉しいですわ。三人で仲良くいたしましょう。あ、でもシャンティエももしかしたらすぐにお嫁に行ってしまうかもしれませんわね」
「もう、お母様ったら、まだ早いですわ」
「侯爵夫人、お茶会をするなら私も呼んでくださいませね。私も一応ベルテ様の義母ですから」
「まあ、もちろんですわ。エンリエッタ殿下。光栄です」
ベルテ以外の女性陣同士で、勝手に話が盛り上がっている。
「母上、シャンティエ、ベルテ様は私の花嫁になるのです。私より先に仲良くならないでください」
ヴァレンタインがそこに割って入る。
(え、なんでもう婚約決定みたいな話になっているの?)
「父上、姉上に拒否権はないのですか?」
ディランがその場の空気に割って入った。
(そうよ。今ここで嫌だとはっきり断ればいいのよ)
「そ、そうです。ち、父上、私はまだ承諾したわけでは……」
「拒否権? そんなものあるわけがなかろう」
微かな望みを国王はばっさりと断ち切った。
「な、なぜ……」
「彼では不服か? この国の若い貴公子の中で、一番の花婿候補だと思うが。これ以上の良縁はないぞ」
「ふ、不服とかそういうのではなく……」
「なら何が問題だ」
「わ、私は常々結婚はしないと……」
「ああ、あの世迷い言か。そんなこと、通用するはずがなかろう」
「よ、世迷い言……」
ベルテは父の言葉に衝撃を受けた。
曽祖父が生きていればとりなしてくれたかも知れないが、彼はもういない。
ベルテはこみ上げてくるものをぐっと堪えた。
「アレッサンドロがだめだったから、私と彼をなんて安直です」
「わかっているのか、此度のことでアレッサンドロは王太子を廃嫡された。自業自得ではあるが、それを告発したのが妹のそなたであるこということで、そなたのことを問題児だとする輩もおる。そんなそなたにこの先良い縁談が来ると思うか?」
「それなら、結婚しなくていいです。なんなら逆らった罪で、私も罰しますか」
「馬鹿も休み休みに言え! そなたは親心がわからぬのか!」
バンッと国王が肘掛けを右拳で叩き、窓ガラスに響くような大声を上げた。
ベルテはビクリと体を強張らせた。
「へ、陛下」
エンリエッタがその右拳をそっと撫でた。
「落ち着いてください。侯爵夫人やシャンティエ嬢が怯えていますわ」
見れば二人は青ざめて震えている。
「すまない」
国王は左手で額を押さえ謝った。
「陛下、お許しいただけるなら、ベルテ殿下と二人で話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
張り詰めた空気の中、そう言ったのはヴァレンタインだった。
(え、いきなり二人で?)
ベルテが驚いて彼を見ると、彼は優しげに微笑みかけてきた。
(う、ま、眩しい)
「小侯爵、二人でとな」
「はい。ベルテ殿下もいきなりのことで動転されていらっしゃるようですし、いずれは二人で話さなければならないことです」
「あらまあ、小侯爵ったら積極的ね」
エンリエッタがうっとりとして言った。
「よかろう」
「ありがとうございます。では……」
ヴァレンタインは許可をもらってお礼を言うと、すっと立ち上がってベルテに手を差し伸べた。
立ち上がった彼は、頭半分以上ベルテより背が高い。恐らく二十センチ近く違うのではないだろうか。
しかも顔もとても小さく、八頭身半のスタイルの良さだ。
(身分もあって顔も良くてスタイルもいいのに、なんでこの人これまで婚約者がいなかったのかしら)
そんな素朴な疑問が湧き上がった。
「まいりましょう殿下。私と庭園を散歩でもいかがですか?」
ベルテとしては断りたいところだが、ここでウダウダ言ってもまた父の怒りを買うだけだ。
それにベルテから断ることが出来ないなら、ヴァレンタインを説得して、彼からこの話はやっぱり受けられないと言ってもらったほうがいいと考えた。
「わかりました。まいりましょう」
あまりに自然な仕草だったので、べルテは思わずその手に応えてしまった。白い手袋越しに、ヴァレンタインに触れた。
「素敵、それではベルテ殿下が私の義妹ではなく義姉上になるのですね」
義妹から義姉に関係性が変わってしまった。
単純に変わったとは言い難いかもしれない。
アレッサンドロとシャンティエの結婚に、ベルテはいてもいなくても、どっちでもいいし、どちらかと言えばいなくても成立する。
しかし義姉になるには、ベルテ自身がシャンティエの兄と結婚しないといけない。
「我々もベルテ殿下を家族にお迎えできて光栄です」
「もう一人娘ができて嬉しいですわ。三人で仲良くいたしましょう。あ、でもシャンティエももしかしたらすぐにお嫁に行ってしまうかもしれませんわね」
「もう、お母様ったら、まだ早いですわ」
「侯爵夫人、お茶会をするなら私も呼んでくださいませね。私も一応ベルテ様の義母ですから」
「まあ、もちろんですわ。エンリエッタ殿下。光栄です」
ベルテ以外の女性陣同士で、勝手に話が盛り上がっている。
「母上、シャンティエ、ベルテ様は私の花嫁になるのです。私より先に仲良くならないでください」
ヴァレンタインがそこに割って入る。
(え、なんでもう婚約決定みたいな話になっているの?)
「父上、姉上に拒否権はないのですか?」
ディランがその場の空気に割って入った。
(そうよ。今ここで嫌だとはっきり断ればいいのよ)
「そ、そうです。ち、父上、私はまだ承諾したわけでは……」
「拒否権? そんなものあるわけがなかろう」
微かな望みを国王はばっさりと断ち切った。
「な、なぜ……」
「彼では不服か? この国の若い貴公子の中で、一番の花婿候補だと思うが。これ以上の良縁はないぞ」
「ふ、不服とかそういうのではなく……」
「なら何が問題だ」
「わ、私は常々結婚はしないと……」
「ああ、あの世迷い言か。そんなこと、通用するはずがなかろう」
「よ、世迷い言……」
ベルテは父の言葉に衝撃を受けた。
曽祖父が生きていればとりなしてくれたかも知れないが、彼はもういない。
ベルテはこみ上げてくるものをぐっと堪えた。
「アレッサンドロがだめだったから、私と彼をなんて安直です」
「わかっているのか、此度のことでアレッサンドロは王太子を廃嫡された。自業自得ではあるが、それを告発したのが妹のそなたであるこということで、そなたのことを問題児だとする輩もおる。そんなそなたにこの先良い縁談が来ると思うか?」
「それなら、結婚しなくていいです。なんなら逆らった罪で、私も罰しますか」
「馬鹿も休み休みに言え! そなたは親心がわからぬのか!」
バンッと国王が肘掛けを右拳で叩き、窓ガラスに響くような大声を上げた。
ベルテはビクリと体を強張らせた。
「へ、陛下」
エンリエッタがその右拳をそっと撫でた。
「落ち着いてください。侯爵夫人やシャンティエ嬢が怯えていますわ」
見れば二人は青ざめて震えている。
「すまない」
国王は左手で額を押さえ謝った。
「陛下、お許しいただけるなら、ベルテ殿下と二人で話をさせていただいてもよろしいでしょうか?」
張り詰めた空気の中、そう言ったのはヴァレンタインだった。
(え、いきなり二人で?)
ベルテが驚いて彼を見ると、彼は優しげに微笑みかけてきた。
(う、ま、眩しい)
「小侯爵、二人でとな」
「はい。ベルテ殿下もいきなりのことで動転されていらっしゃるようですし、いずれは二人で話さなければならないことです」
「あらまあ、小侯爵ったら積極的ね」
エンリエッタがうっとりとして言った。
「よかろう」
「ありがとうございます。では……」
ヴァレンタインは許可をもらってお礼を言うと、すっと立ち上がってベルテに手を差し伸べた。
立ち上がった彼は、頭半分以上ベルテより背が高い。恐らく二十センチ近く違うのではないだろうか。
しかも顔もとても小さく、八頭身半のスタイルの良さだ。
(身分もあって顔も良くてスタイルもいいのに、なんでこの人これまで婚約者がいなかったのかしら)
そんな素朴な疑問が湧き上がった。
「まいりましょう殿下。私と庭園を散歩でもいかがですか?」
ベルテとしては断りたいところだが、ここでウダウダ言ってもまた父の怒りを買うだけだ。
それにベルテから断ることが出来ないなら、ヴァレンタインを説得して、彼からこの話はやっぱり受けられないと言ってもらったほうがいいと考えた。
「わかりました。まいりましょう」
あまりに自然な仕草だったので、べルテは思わずその手に応えてしまった。白い手袋越しに、ヴァレンタインに触れた。
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