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第五章 思いがけない贈り物
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ヴァレンタインから贈り物が届いた翌々日、ベルテが学園に行くと、ルイーズが取り巻きの令嬢たち数人を引き連れて、詰め寄ってきた。
「ベルテ殿下、少しよろしいかしら?」
鼻息も荒く、彼女たちはベルテを取り囲んだ。
「授業があるので、手短にお願いできるかしら」
悪い予感しかしなかった。
二日前を除き、ルイーズがベルテと言葉を交わしたことは、学園に入学してから一度もなかったのだ。
「先日、食堂でベルクトフ嬢と私のお話を、殿下も側でお聞きになっていましたよね」
「あんな近くにいれば、当然聞こえています」
ベルテの屁理屈に、ルイーズの口元が歪められる。
「ベルクトフ嬢の兄上、ヴァレンタイン・ベルクトフ様の婚約について、私は話していたと思うのですが」
「記憶力はあります。確かにそんなことを話されておりましたね。シャンティエ様は肯定も否定もされませんでしたけど」
「どうして、ご自分がその相手だと仰らなかったのですか!」
先程より少し声を荒げて、ルイーズが言った。
「あなたが質問したのは、シャンティエ様にであって、私ではありませんでした。確かそのように記憶しておりますが、どうですか?」
ベルテの切り返しに、ルイーズはまたもや唇を噛む。
「私達の話、お聞きになっていましたよね」
「耳がついておりますし、今のところ機能しています」
「さぞや愉快だったでしょうね」
「愉快……とは?」
「私達がベルクトフ小侯爵様に憧憬の念を抱き、お姿を拝見するだけで喜んでいる話を聞いて、ご自分が権力を笠に着て、見事婚約者の座を射止めたのですから、心の中で私達を嘲笑っていたに違いありませんわ」
「あなたも貴族のご令嬢なら、ご存知ですよね。王家や貴族の婚約が、主に家長の判断で決められることを。これは私が自分から望んだ縁組ではありません」
「ま、まあ、では、この婚約が気に入らないと仰るの?」
「どちらかと言えば、そうかも知れません」
「な、なんて傲慢なの。ベルクトフ小侯爵が婚約者で、何が不服なの?」
ルイーズたちはまるで珍しい生き物を見るように、ベルテを見る。
「あなた方は、私に彼と婚約してほしいのですか、ほしくないのですか。私が婚約者なのが不満なのですよね」
彼と婚約したことを責めているのかと思えば、これはベルテが望んだ話でないと言うと、彼の何が気に入らないのかと責める。
矛盾している。
「も、もちろん、彼は私達『白薔薇を愛でる会』の象徴であり、我々にとっては不可侵のお方。特定の個人が特別になるのは、許せませんわ」
「あなたたちの理屈は少しも理解できません。彼は物ではありません。私のものでも、あなたたちのものでもない。彼も貴族の令息としていずれは結婚し、後継ぎを作る義務があります。そのことを理解されていますか?」
いくらヴァレンタイン・ベルクトフを愛でようと、彼にも果たすべき義務がある。
「そ、それは……ですが……まだそんな時期では……それに、ベルテ殿下は」
要するに、頭ではわかっていても、彼女たちはそれが今とは思っていなかった。
そして恐らくだが、相手がベルテなのが納得出来ないのだろう。
(私よりずっと美人で申し分ない令嬢がいるのはわかっているわ。彼がカッコ良いのは認めるけど、私だって、もっと普通が良かった)
「とにかく、これは王室と侯爵家が決めたこと。あなた達が何をどう思おうと、私一人ではどうすることもできません。もし不服なら上訴するなり、彼に直接私では不釣り合いだと仰ってはいかが?」
授業があるので、失礼。と言ってベルテは彼女たちを置いて立ち去った。
ヴァレンタイン・ベルクトフとベルテの婚約は、またたく間にロムル王国社交界に広まった。
それと共にヴァレンタインがベルテに贈り物をしたことも広まり、二人の婚約の話はロムル王国社交界を震撼させた。
白薔薇の君が、王家の圧力に屈し、ベルテ王女と婚約した。
そんなふうに尾ひれがついて。
その話は主に女性たちを中心に、まるで悪夢の出来事かのように言われている。
ベルテが兄のアレッサンドロを破滅に追いやり、シャンティエとの婚約を解消したらしめたのは、ベルテが布石を打ったから。
それは事実だが、それもこれも、ベルテがヴァレンタインとの婚約をするために、そうしたのだという話まで出回った。
つまりは、この婚約はベルテの策略だという話になり、そしてそれを殆どの人間が信じた。
ベルテが望んだのは、シャンティエがこのままアレッサンドロと結婚すれば不幸になるのがわかっていたからで、それを阻止するためだった。
そもそも悪事に手を染めたのはアレッサンドロ自身だ。
ベルテは他の人達と協力してそれを暴いたに過ぎない。
なのにヴァレンタインを手に入れるために、ベルテが策略を巡らせたとまで言われ、悪者扱いをされている。
「ベルテ殿下、少しよろしいかしら?」
鼻息も荒く、彼女たちはベルテを取り囲んだ。
「授業があるので、手短にお願いできるかしら」
悪い予感しかしなかった。
二日前を除き、ルイーズがベルテと言葉を交わしたことは、学園に入学してから一度もなかったのだ。
「先日、食堂でベルクトフ嬢と私のお話を、殿下も側でお聞きになっていましたよね」
「あんな近くにいれば、当然聞こえています」
ベルテの屁理屈に、ルイーズの口元が歪められる。
「ベルクトフ嬢の兄上、ヴァレンタイン・ベルクトフ様の婚約について、私は話していたと思うのですが」
「記憶力はあります。確かにそんなことを話されておりましたね。シャンティエ様は肯定も否定もされませんでしたけど」
「どうして、ご自分がその相手だと仰らなかったのですか!」
先程より少し声を荒げて、ルイーズが言った。
「あなたが質問したのは、シャンティエ様にであって、私ではありませんでした。確かそのように記憶しておりますが、どうですか?」
ベルテの切り返しに、ルイーズはまたもや唇を噛む。
「私達の話、お聞きになっていましたよね」
「耳がついておりますし、今のところ機能しています」
「さぞや愉快だったでしょうね」
「愉快……とは?」
「私達がベルクトフ小侯爵様に憧憬の念を抱き、お姿を拝見するだけで喜んでいる話を聞いて、ご自分が権力を笠に着て、見事婚約者の座を射止めたのですから、心の中で私達を嘲笑っていたに違いありませんわ」
「あなたも貴族のご令嬢なら、ご存知ですよね。王家や貴族の婚約が、主に家長の判断で決められることを。これは私が自分から望んだ縁組ではありません」
「ま、まあ、では、この婚約が気に入らないと仰るの?」
「どちらかと言えば、そうかも知れません」
「な、なんて傲慢なの。ベルクトフ小侯爵が婚約者で、何が不服なの?」
ルイーズたちはまるで珍しい生き物を見るように、ベルテを見る。
「あなた方は、私に彼と婚約してほしいのですか、ほしくないのですか。私が婚約者なのが不満なのですよね」
彼と婚約したことを責めているのかと思えば、これはベルテが望んだ話でないと言うと、彼の何が気に入らないのかと責める。
矛盾している。
「も、もちろん、彼は私達『白薔薇を愛でる会』の象徴であり、我々にとっては不可侵のお方。特定の個人が特別になるのは、許せませんわ」
「あなたたちの理屈は少しも理解できません。彼は物ではありません。私のものでも、あなたたちのものでもない。彼も貴族の令息としていずれは結婚し、後継ぎを作る義務があります。そのことを理解されていますか?」
いくらヴァレンタイン・ベルクトフを愛でようと、彼にも果たすべき義務がある。
「そ、それは……ですが……まだそんな時期では……それに、ベルテ殿下は」
要するに、頭ではわかっていても、彼女たちはそれが今とは思っていなかった。
そして恐らくだが、相手がベルテなのが納得出来ないのだろう。
(私よりずっと美人で申し分ない令嬢がいるのはわかっているわ。彼がカッコ良いのは認めるけど、私だって、もっと普通が良かった)
「とにかく、これは王室と侯爵家が決めたこと。あなた達が何をどう思おうと、私一人ではどうすることもできません。もし不服なら上訴するなり、彼に直接私では不釣り合いだと仰ってはいかが?」
授業があるので、失礼。と言ってベルテは彼女たちを置いて立ち去った。
ヴァレンタイン・ベルクトフとベルテの婚約は、またたく間にロムル王国社交界に広まった。
それと共にヴァレンタインがベルテに贈り物をしたことも広まり、二人の婚約の話はロムル王国社交界を震撼させた。
白薔薇の君が、王家の圧力に屈し、ベルテ王女と婚約した。
そんなふうに尾ひれがついて。
その話は主に女性たちを中心に、まるで悪夢の出来事かのように言われている。
ベルテが兄のアレッサンドロを破滅に追いやり、シャンティエとの婚約を解消したらしめたのは、ベルテが布石を打ったから。
それは事実だが、それもこれも、ベルテがヴァレンタインとの婚約をするために、そうしたのだという話まで出回った。
つまりは、この婚約はベルテの策略だという話になり、そしてそれを殆どの人間が信じた。
ベルテが望んだのは、シャンティエがこのままアレッサンドロと結婚すれば不幸になるのがわかっていたからで、それを阻止するためだった。
そもそも悪事に手を染めたのはアレッサンドロ自身だ。
ベルテは他の人達と協力してそれを暴いたに過ぎない。
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