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第六章 お迎え
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その後、ベルテはヴァンと別れて午後の授業に出た。
午後は実技で、基本的なポーションを、レシピを見ないで作った。
これまで何度も作ってきた回復ポーションだったが、やはりレシピなしだとなかなかうまくいかなかった。
それでも補習は免れ、時間通りに帰り支度をして迎えの馬車が待つ、馬車止まりまで向かった。
「ベルテ様、今お帰りですか?」
「シャンティエ様、はい、そうです」
「馬車までご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんです」
シャンティエもちょうど帰るところで、途中で声を掛けられた。
「今日は食堂にいらっしゃいませんでしたね」
「ええ、学園長に呼ばれていました。その後も用があったので」
相変わらずベルテとシャンティエを遠巻きに見る生徒の視線はあったが、今日のベルテはいつもより気分がよかった。
馬車止まりには、迎えの馬車が犇めき合っていた。
昔は王族や公爵家、それから侯爵家と身分順に停めていたが、それだと後から来た馬車と生徒を乗せた馬車がぶつかるため、今は規則で到着順で手前から停めるようになっている。
そのため自分の迎えの馬車が何処に止まっているか、探す必要がある。
「あら、何かしら?」
馬車止まりの真ん中辺りに、人だかりがあって、シャンティエがそれに気付いた。
「何か揉め事かしら?」
たまに家同士の仲が悪い者がかち合うと、場所取りで揉めることもある。
そう思ってベルテが呟いた。
「揉め事……にしては、黄色い声が飛び交っているようですけど」
二人でそれぞれの迎えの馬車を探しながら、シャンティエとベルテは人だかりを通り過ぎようとした。
「申し訳ない、通してもらえるかい? ベルテ様、シャンティエ」
人混みを掻き分けて、二人の名を呼ぶ声がして振り返った。
「まあ、お兄様」
「……!!!」
囲んでいた生徒たちを掻き分けて現れたのは、ヴァレンタイン・ベルクトフだった。
「こんにちは、ベルテ様」
「こ…んにちは」
にこりとヴァレンタインが笑顔をベルテに向けると、またもや周りから黄色い歓声が上がった。
「どうしてここに? 今日はお仕事はどうされたのですか?」
妹のシャンティエと並ぶと、そこだけが光り輝いて見え、周りから「尊い」「目が潰れる」「眩しい」「今日は最高の日だわ」などという呟きが聞こえる。
そんな二人の側に居て、ベルテは居心地の悪い思いをする。
婚約者の二人とその妹という関係だが、明らかにベルテは場違いに思えた。
「今日は非番だったから、迎えに来た」
ヴァレンタインは騎士服ではなかったが、非番だと言う割りにはきちんと正装をしている。
ベージュのジャケットに中のシャツは薄いブルー、下は黒のスラックスだ。
周りを取り囲んでいたのは殆どが女性だった。
彼女たちはヴァレンタインにうっとりと蕩けた視線を向けている。
その中にはルイーズや彼女の取り巻きのドルモア嬢たちもいる。
「迎えに?」
「そうだ」
「それじゃあ、シャンティエ様、また明日ね」
非番の日に妹を迎えに来るとは、仲がいいんだなと思い、ベルテはシャンティエに別れを告げ、自分の迎えの馬車を探した。
(早くこの場を去ろう)
「ベルテ様、王家の馬車は来ません。私はあなたを迎えに来たのですよ」
立ち去ろうとするベルテの手首を、ヴァレンタインが掴んで呼び止めた。
「え?」
振り返ったベルテに、ヴァレンタインが極上の笑みを向けた。
「キャー」
「うそ」
またもや黄色い声が上がる。
ヴァレンタインの笑顔を見て、その神々しさに度肝を抜かれ、ベルテを迎えに来たという言葉に衝撃を受けたのだった。
「わ、私?」
「ええ、陛下にも許可を得ています。シャンティエも一緒に」
驚くベルテに、ヴァレンタインが頷く。
「私はおまけですか?」
「婚約者殿と妹、どちらも大事ですよ」
ベルクトフ家の紋章が付いた馬車の扉を御者が開けた。
「さあ、どうぞ」
ヴァレンタインがベルテに手を差し出す。
周囲から「羨ましい」「素敵」「かっこいい」「ああ、ヴァレンタイン様」と溜め息混じりの声が聞こえ、一瞬、ベルテはこのままベルクトフ家の馬車に乗るか躊躇った。
そんなベルテの葛藤に気付いたのか、ヴァレンタインは意味ありげに微笑む。
「どうぞ」
再び言われて、仕方なくベルテは白い手袋を嵌めた彼の手を取った。
「あ、ありがとう」
一応お礼を言うと、彼はまたもやふっと微笑みを向けた。
皆には背を向けていたので、それを見たのはベルテだけだった。
ベルテの後に続き、シャンティエも乗ってきて、ベルテの向かい側に座った。
「それでは皆様、ごきげんよう」
ヴァレンタインが、馬車の前で集まった生徒たちに挨拶をすると、またもや黄色い声があがった。
「相変わらずね」
シャンティエが呆れたように呟く。
ベルテもそれには同意する。
声がまだ収まらないうちに、ヴァレンタインが中に入ってきた。
「先にベルクトフ家に」
ヴァレンタインはそう言って扉を閉じ、ベルテの隣に腰を降ろした。
「なぜこっちに座るの?」
「婚約者がいるのに、なぜ妹の隣に座らないといけないのですか?」
ベルテが尋ねると、当然だとばかりにヴァレンタインが言った。
午後は実技で、基本的なポーションを、レシピを見ないで作った。
これまで何度も作ってきた回復ポーションだったが、やはりレシピなしだとなかなかうまくいかなかった。
それでも補習は免れ、時間通りに帰り支度をして迎えの馬車が待つ、馬車止まりまで向かった。
「ベルテ様、今お帰りですか?」
「シャンティエ様、はい、そうです」
「馬車までご一緒してもよろしいですか?」
「もちろんです」
シャンティエもちょうど帰るところで、途中で声を掛けられた。
「今日は食堂にいらっしゃいませんでしたね」
「ええ、学園長に呼ばれていました。その後も用があったので」
相変わらずベルテとシャンティエを遠巻きに見る生徒の視線はあったが、今日のベルテはいつもより気分がよかった。
馬車止まりには、迎えの馬車が犇めき合っていた。
昔は王族や公爵家、それから侯爵家と身分順に停めていたが、それだと後から来た馬車と生徒を乗せた馬車がぶつかるため、今は規則で到着順で手前から停めるようになっている。
そのため自分の迎えの馬車が何処に止まっているか、探す必要がある。
「あら、何かしら?」
馬車止まりの真ん中辺りに、人だかりがあって、シャンティエがそれに気付いた。
「何か揉め事かしら?」
たまに家同士の仲が悪い者がかち合うと、場所取りで揉めることもある。
そう思ってベルテが呟いた。
「揉め事……にしては、黄色い声が飛び交っているようですけど」
二人でそれぞれの迎えの馬車を探しながら、シャンティエとベルテは人だかりを通り過ぎようとした。
「申し訳ない、通してもらえるかい? ベルテ様、シャンティエ」
人混みを掻き分けて、二人の名を呼ぶ声がして振り返った。
「まあ、お兄様」
「……!!!」
囲んでいた生徒たちを掻き分けて現れたのは、ヴァレンタイン・ベルクトフだった。
「こんにちは、ベルテ様」
「こ…んにちは」
にこりとヴァレンタインが笑顔をベルテに向けると、またもや周りから黄色い歓声が上がった。
「どうしてここに? 今日はお仕事はどうされたのですか?」
妹のシャンティエと並ぶと、そこだけが光り輝いて見え、周りから「尊い」「目が潰れる」「眩しい」「今日は最高の日だわ」などという呟きが聞こえる。
そんな二人の側に居て、ベルテは居心地の悪い思いをする。
婚約者の二人とその妹という関係だが、明らかにベルテは場違いに思えた。
「今日は非番だったから、迎えに来た」
ヴァレンタインは騎士服ではなかったが、非番だと言う割りにはきちんと正装をしている。
ベージュのジャケットに中のシャツは薄いブルー、下は黒のスラックスだ。
周りを取り囲んでいたのは殆どが女性だった。
彼女たちはヴァレンタインにうっとりと蕩けた視線を向けている。
その中にはルイーズや彼女の取り巻きのドルモア嬢たちもいる。
「迎えに?」
「そうだ」
「それじゃあ、シャンティエ様、また明日ね」
非番の日に妹を迎えに来るとは、仲がいいんだなと思い、ベルテはシャンティエに別れを告げ、自分の迎えの馬車を探した。
(早くこの場を去ろう)
「ベルテ様、王家の馬車は来ません。私はあなたを迎えに来たのですよ」
立ち去ろうとするベルテの手首を、ヴァレンタインが掴んで呼び止めた。
「え?」
振り返ったベルテに、ヴァレンタインが極上の笑みを向けた。
「キャー」
「うそ」
またもや黄色い声が上がる。
ヴァレンタインの笑顔を見て、その神々しさに度肝を抜かれ、ベルテを迎えに来たという言葉に衝撃を受けたのだった。
「わ、私?」
「ええ、陛下にも許可を得ています。シャンティエも一緒に」
驚くベルテに、ヴァレンタインが頷く。
「私はおまけですか?」
「婚約者殿と妹、どちらも大事ですよ」
ベルクトフ家の紋章が付いた馬車の扉を御者が開けた。
「さあ、どうぞ」
ヴァレンタインがベルテに手を差し出す。
周囲から「羨ましい」「素敵」「かっこいい」「ああ、ヴァレンタイン様」と溜め息混じりの声が聞こえ、一瞬、ベルテはこのままベルクトフ家の馬車に乗るか躊躇った。
そんなベルテの葛藤に気付いたのか、ヴァレンタインは意味ありげに微笑む。
「どうぞ」
再び言われて、仕方なくベルテは白い手袋を嵌めた彼の手を取った。
「あ、ありがとう」
一応お礼を言うと、彼はまたもやふっと微笑みを向けた。
皆には背を向けていたので、それを見たのはベルテだけだった。
ベルテの後に続き、シャンティエも乗ってきて、ベルテの向かい側に座った。
「それでは皆様、ごきげんよう」
ヴァレンタインが、馬車の前で集まった生徒たちに挨拶をすると、またもや黄色い声があがった。
「相変わらずね」
シャンティエが呆れたように呟く。
ベルテもそれには同意する。
声がまだ収まらないうちに、ヴァレンタインが中に入ってきた。
「先にベルクトフ家に」
ヴァレンタインはそう言って扉を閉じ、ベルテの隣に腰を降ろした。
「なぜこっちに座るの?」
「婚約者がいるのに、なぜ妹の隣に座らないといけないのですか?」
ベルテが尋ねると、当然だとばかりにヴァレンタインが言った。
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