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第六章 お迎え
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これまでベルテは、ヴァレンタインのことを称賛する声しか聞いてこなかった。
学園長も、彼は実のある人物だからと褒めていた。
学園長の場合は、人を褒めて伸ばすタイプなので、その人のいいところを強調するきらいはある。
でも、ヴァンは彼の方を貶した。
『どうしましたか?』
「えっと、彼の悪口を初めて聞いたから。ヴァンさんは彼のこと、知っているのですか?」
『人並みには知っています。でも、彼も人ですから、弱点というか、悪いところもあるでしょう。妹が婚約者だったアレッサンドロ様に蔑ろにされても、王家を恐れて何もしなかった』
「え、彼、知っていたの?」
シャンティエとアレッサンドロの仲が冷え切っていたことや、カトリーヌが二人の間に入り込んでいたことは、学園の生徒間では有名だったが、教授陣の中には知らなかった人は結構いた。
シャンティエは家族に話していなかったようだった。
だからヴァレンタインも知らないと思っていたが、ヴァンの口ぶりではそうではなかったらしい。
「ヴァンさん、どうして知っているの?」
騎士団の中には、生徒の身内もいる。もしかしたら、他の生徒からその家族伝いに伝わっていたかも知れない。何しろ彼は騎士団にいるのだから。
でも、ヴァンがそれを知っているとは意外だった。
『えっと、誰かは忘れましたが、そんな話を聞いたんです』
本当に忘れたのか、それともベルテには話すつもりはないのか。多分後者だろうとベルテは思った。
噂話の出処を明かすと、その人に迷惑をかけるとでも思ったのだろうか。
『と、とにかく、もしその小侯爵との婚約で、ベルテ様が謂れのない誹謗中傷を受けているなら、今度こそ庇うべきです。一人の人も護れないで、騎士などと名乗るなんて烏滸がましい』
「別に平気よ。そのうち収まるかも知れないし、それに…」
これは色恋など関係のない、取り引きの婚約。
互いの目的が達成されれば、効力を失う。
『それに?』
「本当に結婚するか、わからないわ」
『え? ベルテ様、それはどういう意味ですか?』
「今はアレッサンドロとシャンティエ様が婚約解消したばかりで、こっちもすぐに解消するのは、信用問題に関わるんですって。だから一応婚約は受け入れたけど、この先どうなるかわからないもの」
『それは、結婚しないと言うことですか?』
もし解消したなら、今の苦労は何だったのかと思わないでもないが、ヴァレンタイン・ベルクトフと結婚する自分が想像できない。
「あくまで選択肢はひとつじゃないわ。私が国家錬金術師になることを、今は彼も理解があるふりをしていても、考えが変わるかも知れない。私も国家錬金術師になれないかも知れない。彼にもしかしたら他に好きな人が出来るかも」
『ベルテ様にも……』
「う~ん、それはないかな」
ベルテにも好きな人が出来る可能性を示唆され、少し考えてベルテは否定する。
『なぜ?』
「なんとなく……」
『ベルテ様には、件のヴァレンタイン・ベルクトフの顔も肩書も魅力的には思えませんか?』
「顔はいいと思う。でもただ表面が綺麗なだけの顔なら、それだけでしょ」
それからベルテは手の中にある木彫りを見つめた。
「それより、この木彫りを作った人の方が気になるわ。どんな人なんだろう。これを造った時、何を考えていたのだろう」
『ベルクトフよりも?』
「ヴァレンタイン・ベルクトフなら、私が気にかけなくても、他に気にかけてくれる人がたくさんいますから」
『でも、婚約者ですよね。やはり婚約者は特別でしょう?』
「他の人はね」
『その木彫りの作家だって、会えば幻滅するかもしれませんよ。意外に平凡でつまらない人間かも』
「そんなこと絶対にありえません! 芸術家は変わり者が多いと聞きますから、生活力がなかったり、不潔だったりするかも知れませんけど、幻滅はしません」
『そこまで信頼してもらえて、何だかその作家が羨ましいです』
「羨ましい?」
何が羨ましいのだろうと、ベルテは首を傾げた。
学園長も、彼は実のある人物だからと褒めていた。
学園長の場合は、人を褒めて伸ばすタイプなので、その人のいいところを強調するきらいはある。
でも、ヴァンは彼の方を貶した。
『どうしましたか?』
「えっと、彼の悪口を初めて聞いたから。ヴァンさんは彼のこと、知っているのですか?」
『人並みには知っています。でも、彼も人ですから、弱点というか、悪いところもあるでしょう。妹が婚約者だったアレッサンドロ様に蔑ろにされても、王家を恐れて何もしなかった』
「え、彼、知っていたの?」
シャンティエとアレッサンドロの仲が冷え切っていたことや、カトリーヌが二人の間に入り込んでいたことは、学園の生徒間では有名だったが、教授陣の中には知らなかった人は結構いた。
シャンティエは家族に話していなかったようだった。
だからヴァレンタインも知らないと思っていたが、ヴァンの口ぶりではそうではなかったらしい。
「ヴァンさん、どうして知っているの?」
騎士団の中には、生徒の身内もいる。もしかしたら、他の生徒からその家族伝いに伝わっていたかも知れない。何しろ彼は騎士団にいるのだから。
でも、ヴァンがそれを知っているとは意外だった。
『えっと、誰かは忘れましたが、そんな話を聞いたんです』
本当に忘れたのか、それともベルテには話すつもりはないのか。多分後者だろうとベルテは思った。
噂話の出処を明かすと、その人に迷惑をかけるとでも思ったのだろうか。
『と、とにかく、もしその小侯爵との婚約で、ベルテ様が謂れのない誹謗中傷を受けているなら、今度こそ庇うべきです。一人の人も護れないで、騎士などと名乗るなんて烏滸がましい』
「別に平気よ。そのうち収まるかも知れないし、それに…」
これは色恋など関係のない、取り引きの婚約。
互いの目的が達成されれば、効力を失う。
『それに?』
「本当に結婚するか、わからないわ」
『え? ベルテ様、それはどういう意味ですか?』
「今はアレッサンドロとシャンティエ様が婚約解消したばかりで、こっちもすぐに解消するのは、信用問題に関わるんですって。だから一応婚約は受け入れたけど、この先どうなるかわからないもの」
『それは、結婚しないと言うことですか?』
もし解消したなら、今の苦労は何だったのかと思わないでもないが、ヴァレンタイン・ベルクトフと結婚する自分が想像できない。
「あくまで選択肢はひとつじゃないわ。私が国家錬金術師になることを、今は彼も理解があるふりをしていても、考えが変わるかも知れない。私も国家錬金術師になれないかも知れない。彼にもしかしたら他に好きな人が出来るかも」
『ベルテ様にも……』
「う~ん、それはないかな」
ベルテにも好きな人が出来る可能性を示唆され、少し考えてベルテは否定する。
『なぜ?』
「なんとなく……」
『ベルテ様には、件のヴァレンタイン・ベルクトフの顔も肩書も魅力的には思えませんか?』
「顔はいいと思う。でもただ表面が綺麗なだけの顔なら、それだけでしょ」
それからベルテは手の中にある木彫りを見つめた。
「それより、この木彫りを作った人の方が気になるわ。どんな人なんだろう。これを造った時、何を考えていたのだろう」
『ベルクトフよりも?』
「ヴァレンタイン・ベルクトフなら、私が気にかけなくても、他に気にかけてくれる人がたくさんいますから」
『でも、婚約者ですよね。やはり婚約者は特別でしょう?』
「他の人はね」
『その木彫りの作家だって、会えば幻滅するかもしれませんよ。意外に平凡でつまらない人間かも』
「そんなこと絶対にありえません! 芸術家は変わり者が多いと聞きますから、生活力がなかったり、不潔だったりするかも知れませんけど、幻滅はしません」
『そこまで信頼してもらえて、何だかその作家が羨ましいです』
「羨ましい?」
何が羨ましいのだろうと、ベルテは首を傾げた。
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