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第六章 お迎え
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違う人種という言葉を聞いて、ヴァンは意味がわからない、なぜそう思うのかと聞いてきた。
「彼の別名を聞いたことある? 『白薔薇の君』だって」
『はい、知っています。でも、それは彼が自分から言い出したわけではないですよね』
「当たり前よ。もし彼が自分をそう呼ぶよう影で糸を引いていたなら、絶対にお断り。他の人と既成事実を作ってでも、彼との婚約なんか有り得ないって、言うわ」
『既成……事実? ベルテ様、まさか……』
ベルテの言い放った言葉に、ヴァンが驚いている。
「え、ち、違うわよ。それは彼が自分で『白薔薇の君』だとか言う人間だったらってことで、違うとわかっているから」
ベルテは慌てて否定した。
『びっくりしました』
「ご、ごめんなさい」
『いえ、私も早合点しました。それで、その別名がどうかしましたか?』
気を取り直し、ヴァンが改めて質問する。
「その『白薔薇の君』には『白薔薇を愛でる会』というものも付いているそうなの。会員は老若男女問わず、かなりいるそうなの」
『それも、彼が作ったわけではないですよね?』
「そう思うけど、どこまで本人も実態を把握しているか知らない。でも父上たちも知っていたし、有名だったみたい。私は知らなかったけど」
自分に興味がないことは気にしないので、これまで気にかけたこともなかった。
『それで? それが気に入らないのですか?』
「気に入らないとか、それ以前に、それだけの信奉者がいる相手とでは、私は不釣り合いだと言うことよ」
『不釣り合い?』
「だって、王女だという身分がなかったら、私は彼とは婚約すら出来なかった。身分を盾に、婚約を強要した。そんなふうに言われる婚約が、良い婚約だと思う? 私だって、そう思うもの」
これまで積極的に誰かと仲良くしようとしなかったせいで、ベルテがどんな人間なのか、あまり知られていないせいもある。
だからそういう噂が流れるのも、やっかみもあるだろうが、自業自得だとも言える。
『なん……ですって?』
何故か周囲の木の枝がざわざわと揺れ出す。
「え、あの、ヴァン…さん?」
彼を見ると、体から何やら不穏な空気が立ち込め、芝生を風がザアーッと撫でていき、花が右に左になびいている。
彼の風魔法が起こしているのだと気付いた。
『ベルテ様が……身分を盾に、そんなことをする方だと? 誰がそのようなことを……』
「え、もしかして…ヴァンさん…」
(お、怒ってるの?)
彼からビンビン伝わる殺気に、ベルテはたじろいだ。
『白薔薇を愛でる会の奴らですか? 誰がそんな根も葉もないことを言っているんです?』
「だ、誰って……そう思っていないのは、シャンティエ様と学園長くらい」
パキッ!
「ひえっ」
近くの木の、比較的細い小枝が弾け飛んだ。
「ヴァ、ヴァンさん、だ、駄目です、落ち着いてください」
ベルテは慌てて彼を制するため、彼の二の腕に触れ顔を覗き込んだ。
(わ、庭師って、こんなに鍛えているものなの?)
ダッポリしたシャツを着ているのでわからなかったが、意外に彼の腕は太くて硬かった。
(う、何を考えているのよ)
ベルテは自分を心の中で叩いた。
「ヴァンさん、私は気にしていませんから、言いたいことは言わせておけばいいんです。だから落ち着いてください、ね?」
『しかし……』
スカーフの奥で、彼の口がモゴモゴと動く。声は出ないが口は動くので、深呼吸でもしているらしい。
ツバの影から、ちらりと濃い紺色らしい彼の目と視線が合った。
彼と出会ってから、目が合ったのは初めてだ。
彼もそれに気づいたのか、パッと顔を背けられた。
それがなぜか拒否された気持ちになり、ベルテは寂しく思った。
「私のために怒ってくれたんですね。ありがとう」
しかし、ベルテが周りから言われていることを聞いて怒ってはくれたのだから、ここはお礼を言うべきだろう。
『なぜ、怒らないのですか? そのような事実とはかけ離れた噂をされて、ひどいではないですか』
「でも、わかってほしい人にはわかってもらっています。学園長もこうやってお祝いをくれました。それに、興味がない人もいて、皆が皆、噂をしているわけではありませんから」
魔法科の生徒も、噂話に興じる人達はいる。しかし中には、研究にしか興味がない人達もいて、彼らはそういった噂話はしない。
彼らのことを変わり者だと他の科の人達は馬鹿にするが、ベルテはそこまで没頭することがある熱心な人達だと思っている。
『本当に? 大丈夫ですか?』
「ええ。噂話は事実無根だけど、周りがそう思うのは仕方がないことだもの。ヴァレンタイン・ベルクトフと私では、そんな風に思われても仕方がないわ」
『そんなことはありません、不釣り合いだと言うなら、あっちの方です。白薔薇だか何だか知りませんが、婚約者がそんなふうに言われて、何もしない男は最低です』
まさかヴァレンタインの方を罵る人間がいるとは思わず、ベルテは驚いた。
「彼の別名を聞いたことある? 『白薔薇の君』だって」
『はい、知っています。でも、それは彼が自分から言い出したわけではないですよね』
「当たり前よ。もし彼が自分をそう呼ぶよう影で糸を引いていたなら、絶対にお断り。他の人と既成事実を作ってでも、彼との婚約なんか有り得ないって、言うわ」
『既成……事実? ベルテ様、まさか……』
ベルテの言い放った言葉に、ヴァンが驚いている。
「え、ち、違うわよ。それは彼が自分で『白薔薇の君』だとか言う人間だったらってことで、違うとわかっているから」
ベルテは慌てて否定した。
『びっくりしました』
「ご、ごめんなさい」
『いえ、私も早合点しました。それで、その別名がどうかしましたか?』
気を取り直し、ヴァンが改めて質問する。
「その『白薔薇の君』には『白薔薇を愛でる会』というものも付いているそうなの。会員は老若男女問わず、かなりいるそうなの」
『それも、彼が作ったわけではないですよね?』
「そう思うけど、どこまで本人も実態を把握しているか知らない。でも父上たちも知っていたし、有名だったみたい。私は知らなかったけど」
自分に興味がないことは気にしないので、これまで気にかけたこともなかった。
『それで? それが気に入らないのですか?』
「気に入らないとか、それ以前に、それだけの信奉者がいる相手とでは、私は不釣り合いだと言うことよ」
『不釣り合い?』
「だって、王女だという身分がなかったら、私は彼とは婚約すら出来なかった。身分を盾に、婚約を強要した。そんなふうに言われる婚約が、良い婚約だと思う? 私だって、そう思うもの」
これまで積極的に誰かと仲良くしようとしなかったせいで、ベルテがどんな人間なのか、あまり知られていないせいもある。
だからそういう噂が流れるのも、やっかみもあるだろうが、自業自得だとも言える。
『なん……ですって?』
何故か周囲の木の枝がざわざわと揺れ出す。
「え、あの、ヴァン…さん?」
彼を見ると、体から何やら不穏な空気が立ち込め、芝生を風がザアーッと撫でていき、花が右に左になびいている。
彼の風魔法が起こしているのだと気付いた。
『ベルテ様が……身分を盾に、そんなことをする方だと? 誰がそのようなことを……』
「え、もしかして…ヴァンさん…」
(お、怒ってるの?)
彼からビンビン伝わる殺気に、ベルテはたじろいだ。
『白薔薇を愛でる会の奴らですか? 誰がそんな根も葉もないことを言っているんです?』
「だ、誰って……そう思っていないのは、シャンティエ様と学園長くらい」
パキッ!
「ひえっ」
近くの木の、比較的細い小枝が弾け飛んだ。
「ヴァ、ヴァンさん、だ、駄目です、落ち着いてください」
ベルテは慌てて彼を制するため、彼の二の腕に触れ顔を覗き込んだ。
(わ、庭師って、こんなに鍛えているものなの?)
ダッポリしたシャツを着ているのでわからなかったが、意外に彼の腕は太くて硬かった。
(う、何を考えているのよ)
ベルテは自分を心の中で叩いた。
「ヴァンさん、私は気にしていませんから、言いたいことは言わせておけばいいんです。だから落ち着いてください、ね?」
『しかし……』
スカーフの奥で、彼の口がモゴモゴと動く。声は出ないが口は動くので、深呼吸でもしているらしい。
ツバの影から、ちらりと濃い紺色らしい彼の目と視線が合った。
彼と出会ってから、目が合ったのは初めてだ。
彼もそれに気づいたのか、パッと顔を背けられた。
それがなぜか拒否された気持ちになり、ベルテは寂しく思った。
「私のために怒ってくれたんですね。ありがとう」
しかし、ベルテが周りから言われていることを聞いて怒ってはくれたのだから、ここはお礼を言うべきだろう。
『なぜ、怒らないのですか? そのような事実とはかけ離れた噂をされて、ひどいではないですか』
「でも、わかってほしい人にはわかってもらっています。学園長もこうやってお祝いをくれました。それに、興味がない人もいて、皆が皆、噂をしているわけではありませんから」
魔法科の生徒も、噂話に興じる人達はいる。しかし中には、研究にしか興味がない人達もいて、彼らはそういった噂話はしない。
彼らのことを変わり者だと他の科の人達は馬鹿にするが、ベルテはそこまで没頭することがある熱心な人達だと思っている。
『本当に? 大丈夫ですか?』
「ええ。噂話は事実無根だけど、周りがそう思うのは仕方がないことだもの。ヴァレンタイン・ベルクトフと私では、そんな風に思われても仕方がないわ」
『そんなことはありません、不釣り合いだと言うなら、あっちの方です。白薔薇だか何だか知りませんが、婚約者がそんなふうに言われて、何もしない男は最低です』
まさかヴァレンタインの方を罵る人間がいるとは思わず、ベルテは驚いた。
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