その断罪に異議あり! 断罪を阻止したらとんだとばっちりにあいました

七夜かなた

文字の大きさ
37 / 71
第六章 お迎え

6

しおりを挟む
「それはそうと、私に何か話すことはありませんか?」

 軽く腰に添えたままの手をどうするのかとベルテが考えていると、ヴァレンタインが質問した。

「話すこと?」

 何かあったかと、ベルテは思考を巡らせる。

「学園での生活はいかがですか?」

 ベルテが考えていると、今度は具体的に聞いてきた。

「えっと、授業は楽しいです。成績もなんとか上位を保っています」

 父やエンリエッタにも学園での授業や成績のことをたまに質問されるので、同じように答えた。
 それは良かった。と父たちはいつも言うので、同じ反応を想像していたが、なぜかヴァレンタインは笑いを必死で堪えている。

「どうされましたか?」

 さっきの微笑みと違い、何か馬鹿にされているような気分になり、つっけんどんに尋ねた。

「いえ、そうですか。楽しいなら良かった。成績も、素晴らしいです」
「言いたいことがあるなら、はっきり言ってください。そんな含み笑いをされるのは嫌いです」

 社交界での隠語を含んだ会話や、建て前や媚びへつらいでの付き合いが、ベルテは大嫌いだった。
 
「これは失礼しました。ベルテ様があまりに素直で可愛いので、つい」
「か、かわ……からかうのは止めてください」
「からかってもいませんし、思ってもいないことは口にしません。少なくともベルテ様の前では」

 ヴァレンタインは真面目ぶって言うが、ベルテは信用できなくて疑いの目で睨んだ。

「私が学園生活のことをお尋ねしたのは、私との婚約で、周りから色々言われてベルテ様が困っているのではと、心配したからです」
「あ……」

 当然そっちの話だと思い至ってもいいのに、すぐに思い浮かばなかったことに、ベルテははっとした。

「自分が世間からどういう目で見られているか、大体理解しております。これまで恋人も婚約者も作ってこなかったせいで、男色説まで流れたことがありました。その私がベルテ様と婚約したと発表されたら、何がしかの反応はあることはわかっていました」
「ま、まあ、色々と言われては、います」
「シャンティエからも話は聞いております。私の預かり知らないところで、奇妙な会があることも知っております」
「奇妙なって、『白薔薇を愛でる会』のことですよね。ヴァレンタイン様を『白薔薇』と言って、皆さんで見守っているらしいですよ」

 努めて控えめに『見守っている』と言ったが、抜け駆けしようとした者には集団で取り囲んでいると聞いている。

「あまり酷いなら、私からその方々に止めるよう進言してもよろしいですよ」
「あ、いえ、それはいいです。気持ちだけで充分です。というか、何もなさらないでください」

 たとえ苦情があったとしても、彼が出てくると余計にややこしくなる。
 
「なぜ?」
「私が王女だからか、特に何かしてくる人もいませんし、自然に収まるのを待ちます」
「私を頼ってはくれないのですか」
「あなたが彼らに何か言って黙らせたとしても、私があなたに頼ったという事実が、返って人々を刺激することになると思います。あなたに四六時中側にいてもらえるわけではないのですから」
「何だか、寂しいですね」
「私もその会のことを知らなかったわけですが、あなたも最初にわかっていたことですよね。ご自分の影響力を過信していたのですか?」
「そういうわけでは…いえ、そうですね」

 ヴァレンタインは否定しかけたが、すぐに思い直して事実を認めた。

「悪かったと思っています」
「謝る必要はありません。それに、あなたが責任を感じる必要はありません。『白薔薇を愛でる会』をあなたが作ったわけではないのですから」
「ですが…」
「もう止めましょう。望む望まないに関わらず、もう婚約は発表されてしまいました。当初の予定どおり、暫くは我慢するしかありません」

「我慢……ですか」

 ヴァレンタインの口調が重くなる。

「そんなに、私のことが気に入りませんか?」

 表情も曇り、まるでベルテに気に入られないことで、傷ついているみたいに見える。
 
(私に、気に入られないからと言うより、きっと自分を嫌う人間がいることが許せないのかも)

 そう思い直した。

「あなたがどうとかではなく、私に結婚が向いていないのだと思います」

 もし国家錬金術師になったら、きっと自分は研究に没頭するだろう。
 そうなったら、仕事以外のことなど、構っていられなくなる。自分自身のことすら満足に世話も出来ないで、他の人を気にかける余裕などなくなるに違いない。

「まだしてもいないのに、向いていないなどとわかるのですか?」

 鋭い指摘だが、間違ってはいない。

「私は器用な人間ではありません。ひとつのことに没頭したら、他は目に入らなくなります。きっとあなたのことも蔑ろにします」

 そもそも利害があって婚約するのだから、気に入る気に入らないはどうでもいいことだと思った。
しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います

りまり
恋愛
 私の名前はアリスと言います。  伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。  母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。  その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。  でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。  毎日見る夢に出てくる方だったのです。

「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。

パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、 クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。 「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。 完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、 “何も持たずに”去ったその先にあったものとは。 これは誰かのために生きることをやめ、 「私自身の幸せ」を選びなおした、 ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜

AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。 そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。 さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。 しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。 それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。 だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。 そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。 ※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...