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第七章 武闘大会
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武闘大会の話を聞いて、ベルテよりエンリエッタの方が盛り上がり、早速当日の衣装を注文すると言い出した。
今あるものでいいと、ベルテが言おうものなら、そんなわけにはいかないと、きつく叱られた。
「姉上、ああなっては誰にも止められません。諦めてください」
ディランが同情の目を向けて言った。
彼も王太子となって、初めての公式行事での顔見せということで、同じような目にあっていた。
学園は今日のために臨時休校となり、朝から支度に振り回され、既にベルテは疲れていた。
今日のためにエンリエッタが仕立てたベルテのドレスは、昼間の外出着ということで、裾は制服よりは長めで、踝が隠れる程度の長さだ。
色は相変わらず紫を基調としていて、いかにもな感じだ。
そして初めて婚約を告げられた時のように、髪もセットされ化粧も施された。
「可愛いわ。そう思いません? 陛下」
「そうだな。こうやってみると、なかなかだ」
「そうよね、小侯爵もきっと見惚れるわ」
会場に向かう馬車で向かいに座った国王とエンリエッタが、ベルテの着飾った姿を見て、ほれぼれと呟いた。
身内の欲目だとわかっているので、曖昧な笑顔で返した。
「そうそう、シャンティエ嬢も、デルペシュ卿と無事に婚約するそうね」
「ああ、デルペシュ卿も最初は年の差と、再婚であることを気にしていたが、意外にシャンティエ嬢が積極的で、彼を熱心に説得して、それを受け入れたらしい」
「ふふ、以前から可愛らしいと思っていたらしいですわね」
「縁とは不思議なものだな。彼女を娘とは呼べないのは残念だが、代わりに素晴らしい息子が出来るのだからな」
国王たちはいたくご満悦に微笑む。
シャンティエはデルペシュ卿と婚約することになったと、次の日迎えに来た際、とても嬉しそうに言っていた。
ベルテがお祝いを言うと、アレッサンドロと一緒の時には見られなかった笑顔で、シャンティエはベルテにお礼を言った。
それから彼女は、デルペシュ卿に誘われて今日の武闘大会にも行くと言っていた。
ただ彼は団長なので審査する側で、勇姿を見ることができなくて残念だと言っていた。
昔は毎回のように勝利を収め、殿堂入りになっている。
筋骨隆々として、体も大きいデルペシュ卿とシャンティエが並んだところを想像する。
顔はいかついが、ベルテにもとても親切だ。
部下からの人望も厚い。
アレッサンドロよりもっとずっと、彼女を幸せにしてくれるだろう。
「着いたようだな」
馬車が停まり、国王の声がベルテの物思いを破った。
「陛下、デルペシュです」
いつもは国王の警護に当たるデルペシュは、先に会場で待ち構えていた。
声をかけてから、扉が開いた。
「国王陛下に敬礼」
デルペシュの掛け声がして、ダンッと足を踏み鳴らす音がした。
「うむ、皆、ご苦労」
国王の後に続いて、エンリエッタ、そしてディランと続く。
最後にベルテが降りようとすると、さっと目の前に白い手袋を嵌めた手が伸びてきた。
「どうぞ、ベルテ様」
競技が始まる前に開かれる式典に出るため、祭礼用の式服に身を包んだヴァレンタインがそこにいた。
赤のラインで縁を彩り、金ボタンと勲章が漆黒の生地の上にひと際輝いている。
「あ、ありがとう」
「いえ、これも婚約者の勤めですから、一番近くで麗しいお姿を拝見できて光栄です」
また心にもないことを。と思ったが、心の中で思うだけにした。
「今日の衣装も素敵ですね。良くお似合いです」
馬車から降り立ったベルテの全身を眺め、眩しげに目を細めてヴァレンタインが言った。
「これもエンリエッタ様のご指示です」
自分の趣味ではないと、さりげなく伝える。
特に指定されていない限り、パートナーの瞳や髪の色を纏うのが、一般的なドレスコードだ。
「私も儀礼服を着ることが決められていなければ、インペリアルトパーズの瞳の色やダークブロンズの髪色に合わせたスーツを仕立てたのに」
「インペリアル…単なる濃いオレンジと地味なブロンズ色です。そんないいものではありません」
騎士に制服があって良かったと、ベルテはホッと胸を撫で下ろした。
「その美しい瞳の輝きは、まさにインペリアルトパーズの輝きにも勝ります」
「………」
「なかなか言うね」
そんなヴァレンタインの声が聞こえたのだろう。直ぐ前にいたディランが振り返ってこちらを見た。
「あの、そんな気を遣われる必要はありません。もっと普通にしてください」
「婚約者を褒めて何がいけないのですか?」
「わ、悪いとは……でも、明らかに不自然です。私は至って平凡で……」
「ベルテ様が平凡とは思いません。婚約出来て身に余る光栄だと思っています」
アレッサンドロとシャンティエが婚約解消にならなければ、無かった縁だ。
周りから見れば、ヴァレンタインにとっては不本意、ベルテにとっては幸運と言われているが、実際は婚約にノリノリなのはヴァレンタインで、ベルテはまだまだ現実味がない。
今あるものでいいと、ベルテが言おうものなら、そんなわけにはいかないと、きつく叱られた。
「姉上、ああなっては誰にも止められません。諦めてください」
ディランが同情の目を向けて言った。
彼も王太子となって、初めての公式行事での顔見せということで、同じような目にあっていた。
学園は今日のために臨時休校となり、朝から支度に振り回され、既にベルテは疲れていた。
今日のためにエンリエッタが仕立てたベルテのドレスは、昼間の外出着ということで、裾は制服よりは長めで、踝が隠れる程度の長さだ。
色は相変わらず紫を基調としていて、いかにもな感じだ。
そして初めて婚約を告げられた時のように、髪もセットされ化粧も施された。
「可愛いわ。そう思いません? 陛下」
「そうだな。こうやってみると、なかなかだ」
「そうよね、小侯爵もきっと見惚れるわ」
会場に向かう馬車で向かいに座った国王とエンリエッタが、ベルテの着飾った姿を見て、ほれぼれと呟いた。
身内の欲目だとわかっているので、曖昧な笑顔で返した。
「そうそう、シャンティエ嬢も、デルペシュ卿と無事に婚約するそうね」
「ああ、デルペシュ卿も最初は年の差と、再婚であることを気にしていたが、意外にシャンティエ嬢が積極的で、彼を熱心に説得して、それを受け入れたらしい」
「ふふ、以前から可愛らしいと思っていたらしいですわね」
「縁とは不思議なものだな。彼女を娘とは呼べないのは残念だが、代わりに素晴らしい息子が出来るのだからな」
国王たちはいたくご満悦に微笑む。
シャンティエはデルペシュ卿と婚約することになったと、次の日迎えに来た際、とても嬉しそうに言っていた。
ベルテがお祝いを言うと、アレッサンドロと一緒の時には見られなかった笑顔で、シャンティエはベルテにお礼を言った。
それから彼女は、デルペシュ卿に誘われて今日の武闘大会にも行くと言っていた。
ただ彼は団長なので審査する側で、勇姿を見ることができなくて残念だと言っていた。
昔は毎回のように勝利を収め、殿堂入りになっている。
筋骨隆々として、体も大きいデルペシュ卿とシャンティエが並んだところを想像する。
顔はいかついが、ベルテにもとても親切だ。
部下からの人望も厚い。
アレッサンドロよりもっとずっと、彼女を幸せにしてくれるだろう。
「着いたようだな」
馬車が停まり、国王の声がベルテの物思いを破った。
「陛下、デルペシュです」
いつもは国王の警護に当たるデルペシュは、先に会場で待ち構えていた。
声をかけてから、扉が開いた。
「国王陛下に敬礼」
デルペシュの掛け声がして、ダンッと足を踏み鳴らす音がした。
「うむ、皆、ご苦労」
国王の後に続いて、エンリエッタ、そしてディランと続く。
最後にベルテが降りようとすると、さっと目の前に白い手袋を嵌めた手が伸びてきた。
「どうぞ、ベルテ様」
競技が始まる前に開かれる式典に出るため、祭礼用の式服に身を包んだヴァレンタインがそこにいた。
赤のラインで縁を彩り、金ボタンと勲章が漆黒の生地の上にひと際輝いている。
「あ、ありがとう」
「いえ、これも婚約者の勤めですから、一番近くで麗しいお姿を拝見できて光栄です」
また心にもないことを。と思ったが、心の中で思うだけにした。
「今日の衣装も素敵ですね。良くお似合いです」
馬車から降り立ったベルテの全身を眺め、眩しげに目を細めてヴァレンタインが言った。
「これもエンリエッタ様のご指示です」
自分の趣味ではないと、さりげなく伝える。
特に指定されていない限り、パートナーの瞳や髪の色を纏うのが、一般的なドレスコードだ。
「私も儀礼服を着ることが決められていなければ、インペリアルトパーズの瞳の色やダークブロンズの髪色に合わせたスーツを仕立てたのに」
「インペリアル…単なる濃いオレンジと地味なブロンズ色です。そんないいものではありません」
騎士に制服があって良かったと、ベルテはホッと胸を撫で下ろした。
「その美しい瞳の輝きは、まさにインペリアルトパーズの輝きにも勝ります」
「………」
「なかなか言うね」
そんなヴァレンタインの声が聞こえたのだろう。直ぐ前にいたディランが振り返ってこちらを見た。
「あの、そんな気を遣われる必要はありません。もっと普通にしてください」
「婚約者を褒めて何がいけないのですか?」
「わ、悪いとは……でも、明らかに不自然です。私は至って平凡で……」
「ベルテ様が平凡とは思いません。婚約出来て身に余る光栄だと思っています」
アレッサンドロとシャンティエが婚約解消にならなければ、無かった縁だ。
周りから見れば、ヴァレンタインにとっては不本意、ベルテにとっては幸運と言われているが、実際は婚約にノリノリなのはヴァレンタインで、ベルテはまだまだ現実味がない。
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