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第八章 約束
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わあ~っという歓声と、きゃあ~、やめてぇという声が会場に溢れた。
「コホン、やけに積極的だな。婚約者だから、まあ…それも致し方ないか」
慌てて唇を外したベルテに、国王が言った。
「ち、ちが」
「ベルテ様」
焦って口元を拭おうとしたベルテの手首を、ヴァレンタインが掴んだ。
「駄目ですよ、そんなことをしては、皆が注目しています」
言われて周りを見渡すと、無数の目がこっちを見ていた。
彼はベルテが口元を拭うのを諦めたのを察すると、掴んでいた手を離した。
「わ、私……そんなつもりでは……」
顔を真っ赤にして、小声でベルテはヴァレンタインに訴えた。唇にキスするつもりはなかったのだと。
「わかっておりますが、これは失敗のうちに入りませんよ。陛下のおっしゃるとおり、私達は婚約者なのですからね」
にこりとヴァレンタインは笑い、とんでもないことを口走った。
「私にとっては、思いもかけないご褒美でしたけど」
「ご!」
ベルテはびっくりして言葉が出なかった。
「か、からかうのは…」
「からかってはおりません。私は…!!」
その時ヴァレンタインが低く呻き、そして手を覆い俄に咳き込みだした。
「ゴホッ!」
「ど、どう、! それは!」
どうしたのかと尋ねようとしたベルテは、口元を覆った彼の指の間から、赤い血が溢れるのを目にした。
「ヴァレンタイン様!」
ふらりと体が少し傾いだ。ベルテが慌てて彼の体を支える。
よく見ると真っ青になって震えている。
「だ、大……」
「大丈夫なわけありませんよ」
「どうか大事にしないでください。少々、魔力を使いすぎただけですから…」
「魔力を使いすぎたって……」
この顔色は少々どころではない。
「もしかして、途中からこんな状態だったのですか?」
途中、どこか違和感を感じた気がしたのは、気のせいではなかったのかもと、ベルテは思った。
「気づいていましたか? デルペシュ卿にも気づかれていたのですが、ベルテ様にも気づかれていたとは思いませんでした」
「前に授業で魔力切れになった人を見たことがあったから」
普通は魔力切れになるまで無理はしない。だが、その時、その生徒はポーションを作ろうとして、配合を間違えて錬成する際に魔力切れを起こしかけた。
「余計な騒ぎを起こしたくありませんから、お見逃しください」
「でも…」
「お願いします。ポーションを飲めばすぐ直りますから」
真剣な彼の表情に、ベルテは大事にしたくないという彼の願いを聞き入れるしかなかった。
「どうしたのだ?」
コソコソ話をしているベルテとヴァレンタインに国王が声をかけた。
「い、いえ、な、何でも」
「ベルテ様が、他に個人的に褒美をくださると仰っていただき、それでは二人で出掛けたいとお願いしていていたところです」
どう話せばいいかと戸惑うベルテに対し、ヴァレンタインがさらりと口から言葉が出た。
「えっ!」
「なるほど、それはいいことだ。婚約したばかりだから、互いを知るために時間を取ることはいいことだ」
驚いているベルテを尻目に、国王はそうかそうかとニコニコと頷いている。
それを見てベルテは違うと言えず、ヴァレンタインを睨んだ。
「ひとつ貸しですよ」
騎士として魔力切れまで戦うのは恥とでも思ったのだろうか。ベルテはふうっとため息を吐いた。
「どこでもベルテ様が行きたいところに、付き合います。したいこと、ほしいものを遠慮なく仰ってください」
「お前たち、いつまでイチャついている」
国王がまたもやからかってきた。
「イチャついてなど」
「申し訳ございません。優勝の喜びとベルテ様の祝福に感極まっておりました」
ヴァレンタインは少し持ち直したのか、すっと立ち上がった。
まだ少し顔色は悪いが、さっきよりは頬に赤味がさしている。
「ベルテ王女殿下」
そこへ惜しくも優勝を逃したバーラードがやってきた。
怪我も治り、衣服も綺麗に洗浄されている。
「何用だ、バーラード」
近づいてくるバーラードとベルテの間に、ヴァレンタインが立ちはだかり、彼の視線からベルテを隠す。
「そんな警戒をしなくてもいいだろう」
「お前は私に負けたのだ。ベルテ様からのキスは私のもの。今更何の用がある」
「確かに負けたが、ここまで頑張ったことを、少しは褒めていただこうと思ったんだ。それすらも許してもらえないのか。嫉妬深いと嫌われるぞ」
「ヴァレンタイン様、バーラード卿も頑張ったことな認めてあげましょう。お花、ありがとうございました」
ヴァレンタインは憮然とした表情だったが、そこから動くなと、牽制して渋々言葉を交わすことは認めた。
「とんでもございません。私もベルテ様に名前と顔を覚えていただけて、光栄でございます」
「すぐに忘れても構いませんよ」
すかさずヴァレンタインが応酬した。バーラードはピクッと右の眉を動かしたが、ふっと笑っただけで何も言わなかった。
「コホン、やけに積極的だな。婚約者だから、まあ…それも致し方ないか」
慌てて唇を外したベルテに、国王が言った。
「ち、ちが」
「ベルテ様」
焦って口元を拭おうとしたベルテの手首を、ヴァレンタインが掴んだ。
「駄目ですよ、そんなことをしては、皆が注目しています」
言われて周りを見渡すと、無数の目がこっちを見ていた。
彼はベルテが口元を拭うのを諦めたのを察すると、掴んでいた手を離した。
「わ、私……そんなつもりでは……」
顔を真っ赤にして、小声でベルテはヴァレンタインに訴えた。唇にキスするつもりはなかったのだと。
「わかっておりますが、これは失敗のうちに入りませんよ。陛下のおっしゃるとおり、私達は婚約者なのですからね」
にこりとヴァレンタインは笑い、とんでもないことを口走った。
「私にとっては、思いもかけないご褒美でしたけど」
「ご!」
ベルテはびっくりして言葉が出なかった。
「か、からかうのは…」
「からかってはおりません。私は…!!」
その時ヴァレンタインが低く呻き、そして手を覆い俄に咳き込みだした。
「ゴホッ!」
「ど、どう、! それは!」
どうしたのかと尋ねようとしたベルテは、口元を覆った彼の指の間から、赤い血が溢れるのを目にした。
「ヴァレンタイン様!」
ふらりと体が少し傾いだ。ベルテが慌てて彼の体を支える。
よく見ると真っ青になって震えている。
「だ、大……」
「大丈夫なわけありませんよ」
「どうか大事にしないでください。少々、魔力を使いすぎただけですから…」
「魔力を使いすぎたって……」
この顔色は少々どころではない。
「もしかして、途中からこんな状態だったのですか?」
途中、どこか違和感を感じた気がしたのは、気のせいではなかったのかもと、ベルテは思った。
「気づいていましたか? デルペシュ卿にも気づかれていたのですが、ベルテ様にも気づかれていたとは思いませんでした」
「前に授業で魔力切れになった人を見たことがあったから」
普通は魔力切れになるまで無理はしない。だが、その時、その生徒はポーションを作ろうとして、配合を間違えて錬成する際に魔力切れを起こしかけた。
「余計な騒ぎを起こしたくありませんから、お見逃しください」
「でも…」
「お願いします。ポーションを飲めばすぐ直りますから」
真剣な彼の表情に、ベルテは大事にしたくないという彼の願いを聞き入れるしかなかった。
「どうしたのだ?」
コソコソ話をしているベルテとヴァレンタインに国王が声をかけた。
「い、いえ、な、何でも」
「ベルテ様が、他に個人的に褒美をくださると仰っていただき、それでは二人で出掛けたいとお願いしていていたところです」
どう話せばいいかと戸惑うベルテに対し、ヴァレンタインがさらりと口から言葉が出た。
「えっ!」
「なるほど、それはいいことだ。婚約したばかりだから、互いを知るために時間を取ることはいいことだ」
驚いているベルテを尻目に、国王はそうかそうかとニコニコと頷いている。
それを見てベルテは違うと言えず、ヴァレンタインを睨んだ。
「ひとつ貸しですよ」
騎士として魔力切れまで戦うのは恥とでも思ったのだろうか。ベルテはふうっとため息を吐いた。
「どこでもベルテ様が行きたいところに、付き合います。したいこと、ほしいものを遠慮なく仰ってください」
「お前たち、いつまでイチャついている」
国王がまたもやからかってきた。
「イチャついてなど」
「申し訳ございません。優勝の喜びとベルテ様の祝福に感極まっておりました」
ヴァレンタインは少し持ち直したのか、すっと立ち上がった。
まだ少し顔色は悪いが、さっきよりは頬に赤味がさしている。
「ベルテ王女殿下」
そこへ惜しくも優勝を逃したバーラードがやってきた。
怪我も治り、衣服も綺麗に洗浄されている。
「何用だ、バーラード」
近づいてくるバーラードとベルテの間に、ヴァレンタインが立ちはだかり、彼の視線からベルテを隠す。
「そんな警戒をしなくてもいいだろう」
「お前は私に負けたのだ。ベルテ様からのキスは私のもの。今更何の用がある」
「確かに負けたが、ここまで頑張ったことを、少しは褒めていただこうと思ったんだ。それすらも許してもらえないのか。嫉妬深いと嫌われるぞ」
「ヴァレンタイン様、バーラード卿も頑張ったことな認めてあげましょう。お花、ありがとうございました」
ヴァレンタインは憮然とした表情だったが、そこから動くなと、牽制して渋々言葉を交わすことは認めた。
「とんでもございません。私もベルテ様に名前と顔を覚えていただけて、光栄でございます」
「すぐに忘れても構いませんよ」
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