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第八章 約束
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殆どの学園の生徒達が武闘大会を観覧していたため、ベルテとヴァレンタインのキスシーンは皆に見られたことになる。
(これって公開処刑よね)
武闘大会開けの学園で、ベルテはいつにも増して周りからの視線にさらされていた。
「ベルテ様、おはようございます」
「おはようございます。シャンティエ様」
遠巻きにベルテを見る人たちの中から、シャンティエが近づいてきた。
「昨日あれから、お兄様は大丈夫でしたか?」
「…? 大丈夫とは? あれから朝まで帰って来ませんでしたので、会っていませんの」
「朝まで? 何をして?」
「さあ? 祝杯でもあげたのでは? 仕事以外で家を開けるときは前からありますから、特に気にかけていません」
これがシャンティエなら大目玉だろうが、立派な大人の男性の行動に、いちいち監視などつけていないのだろう。
「よく外泊するの?」
「同じ家にいても、生活時間が違うので、あまり気にしたことはありませんけど、そう言われれば、そんな時もありますわね。昼間屋敷にいるところを見たことがありませんので」
改めて言われてシャンティエは少し考えて答えた。
「でも騎士団の任務で夜勤もありますし、勤務形態まで把握していませんから」
きっとヴァレンタインが朝帰りの常習だと思われないかと心配したのだろう。慌ててシャンティエが付け加えた。
非番の日はこれから毎回迎えに来ると言って、あれ以来二度彼は迎えに来ていた。
休みの日はどこで何をしているのか、どんな食べ物が好きで、何が嫌いなのかとか、ベルテは彼のことを一度も気にしたことがなかった。
なのに、今はなぜか気になる。
「おはようございます。シャンティエ様、ベルテ様」
そんな二人の前に、ルイーズたちが立ちはだかった。
「おはようございます。ビーチャム嬢」
また何を言われるのかと、ベルテは警戒しつつ挨拶を返す。
「昨日はご活躍でしたわね。たくさん花を贈られたようですし」
「私は何もしておりません」
「私たちベルテ様のことを誤解しておりましたわ」
「誤解?」
決していい意味でないことはわかる。
「ええ、殿方のことなど、興味ないふりをして『白薔薇の君』がいながら、他の男性にまで色目を使われるなど、あのアレッサンドロ様の他にも多くの男性を手玉にとったどこかの男爵令嬢と同じではありませんか」
「な……!」
あろうことかカトリーヌと同じ種類の女のように言われ、ベルテはポカンと口を開けた。
「ビーチャム嬢、失礼ですわ。あの人とベルテ様は違います」
「シャンティエ様、落ち着いてください」
シャンティエが代わりに反論しようとするのを、ベルテが制した。
「あなたもご存知でしょ? あの場で断るのは失礼にあたると。けっして私から求めたわけではありません」
「私達にそうおっしゃられても、信憑性はありませんわ」
ルイーズは意地悪くほほえみ、他の令嬢たちに同意を求めるべく、一人ひとりの顔を見る。
「それより私、面白い話を聞きましたの」
「面白い話?」
誰にとって面白い話なのか。少なくともベルテにとっての面白い話ではないだろう。
「ベルクトフ小侯爵様がベルテ様と婚約される前に、誰とも婚約されなかったのは、他に気になる方がいらっしゃったからだとか」
「えっ!」
「ビーチャム嬢、根も葉もないことを」
「あら、これは小侯爵様がお仲間の騎士たちに申されていたことだそうですわ。休みの日もいつも何処かにお出かけになられているとか。妹のシャンティエ様ならご存知ですよね」
「そ、それは…」
シャンティエの目が泳ぐ。
「きっとその方のもとへ通われているのだと、騎士団では噂されているそうですわ」
「そ、そんなの憶測ですわ」
「では、シャンティエ様は小侯爵様がどちらに行かれているのか、ご存知なのですか?」
そう切り替えされて、シャンティエはぐっと押し黙る。言えないのか知らないのか、どちらだろう。
「本当ですか?」
「はい。使用人の話では、休みの日でも朝から出かけているとか。どこに行っているかまでは、誰も知らないようですけど」
尋ねたベルテに、シャンティエが答える。
「でも、ビーチャム嬢が言うようなことではないと思います。父が以前どのような相手でも好きな方がいるなら、話してみろと言いましたが、そんな方はいないと、はっきり言っておりました。兄は嘘は申しません」
シャンティエ自身も嘘は言っていないだろう。ただ、真実を知らないだけなのかも知れないが。
「私が嘘を言っているとでも、仰るのですか?」
シャンティエの話が本当なら、ルイーズが聞いた話が嘘になる。
「あなたが嘘を言っているのではなく、嘘を教えられたということもありえますわ。裏づけのないことで、難癖をつけるのは止めてください。ベルテ様に何の恨みがあるのですか」
シャンティエがルイーズに食って掛かった。
氷の美姫と言われていたのは、どうやら仮面だったらしい。シャンティエは怒りを込めた眼差しをルイーズに向けた。
(これって公開処刑よね)
武闘大会開けの学園で、ベルテはいつにも増して周りからの視線にさらされていた。
「ベルテ様、おはようございます」
「おはようございます。シャンティエ様」
遠巻きにベルテを見る人たちの中から、シャンティエが近づいてきた。
「昨日あれから、お兄様は大丈夫でしたか?」
「…? 大丈夫とは? あれから朝まで帰って来ませんでしたので、会っていませんの」
「朝まで? 何をして?」
「さあ? 祝杯でもあげたのでは? 仕事以外で家を開けるときは前からありますから、特に気にかけていません」
これがシャンティエなら大目玉だろうが、立派な大人の男性の行動に、いちいち監視などつけていないのだろう。
「よく外泊するの?」
「同じ家にいても、生活時間が違うので、あまり気にしたことはありませんけど、そう言われれば、そんな時もありますわね。昼間屋敷にいるところを見たことがありませんので」
改めて言われてシャンティエは少し考えて答えた。
「でも騎士団の任務で夜勤もありますし、勤務形態まで把握していませんから」
きっとヴァレンタインが朝帰りの常習だと思われないかと心配したのだろう。慌ててシャンティエが付け加えた。
非番の日はこれから毎回迎えに来ると言って、あれ以来二度彼は迎えに来ていた。
休みの日はどこで何をしているのか、どんな食べ物が好きで、何が嫌いなのかとか、ベルテは彼のことを一度も気にしたことがなかった。
なのに、今はなぜか気になる。
「おはようございます。シャンティエ様、ベルテ様」
そんな二人の前に、ルイーズたちが立ちはだかった。
「おはようございます。ビーチャム嬢」
また何を言われるのかと、ベルテは警戒しつつ挨拶を返す。
「昨日はご活躍でしたわね。たくさん花を贈られたようですし」
「私は何もしておりません」
「私たちベルテ様のことを誤解しておりましたわ」
「誤解?」
決していい意味でないことはわかる。
「ええ、殿方のことなど、興味ないふりをして『白薔薇の君』がいながら、他の男性にまで色目を使われるなど、あのアレッサンドロ様の他にも多くの男性を手玉にとったどこかの男爵令嬢と同じではありませんか」
「な……!」
あろうことかカトリーヌと同じ種類の女のように言われ、ベルテはポカンと口を開けた。
「ビーチャム嬢、失礼ですわ。あの人とベルテ様は違います」
「シャンティエ様、落ち着いてください」
シャンティエが代わりに反論しようとするのを、ベルテが制した。
「あなたもご存知でしょ? あの場で断るのは失礼にあたると。けっして私から求めたわけではありません」
「私達にそうおっしゃられても、信憑性はありませんわ」
ルイーズは意地悪くほほえみ、他の令嬢たちに同意を求めるべく、一人ひとりの顔を見る。
「それより私、面白い話を聞きましたの」
「面白い話?」
誰にとって面白い話なのか。少なくともベルテにとっての面白い話ではないだろう。
「ベルクトフ小侯爵様がベルテ様と婚約される前に、誰とも婚約されなかったのは、他に気になる方がいらっしゃったからだとか」
「えっ!」
「ビーチャム嬢、根も葉もないことを」
「あら、これは小侯爵様がお仲間の騎士たちに申されていたことだそうですわ。休みの日もいつも何処かにお出かけになられているとか。妹のシャンティエ様ならご存知ですよね」
「そ、それは…」
シャンティエの目が泳ぐ。
「きっとその方のもとへ通われているのだと、騎士団では噂されているそうですわ」
「そ、そんなの憶測ですわ」
「では、シャンティエ様は小侯爵様がどちらに行かれているのか、ご存知なのですか?」
そう切り替えされて、シャンティエはぐっと押し黙る。言えないのか知らないのか、どちらだろう。
「本当ですか?」
「はい。使用人の話では、休みの日でも朝から出かけているとか。どこに行っているかまでは、誰も知らないようですけど」
尋ねたベルテに、シャンティエが答える。
「でも、ビーチャム嬢が言うようなことではないと思います。父が以前どのような相手でも好きな方がいるなら、話してみろと言いましたが、そんな方はいないと、はっきり言っておりました。兄は嘘は申しません」
シャンティエ自身も嘘は言っていないだろう。ただ、真実を知らないだけなのかも知れないが。
「私が嘘を言っているとでも、仰るのですか?」
シャンティエの話が本当なら、ルイーズが聞いた話が嘘になる。
「あなたが嘘を言っているのではなく、嘘を教えられたということもありえますわ。裏づけのないことで、難癖をつけるのは止めてください。ベルテ様に何の恨みがあるのですか」
シャンティエがルイーズに食って掛かった。
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