51 / 71
第八章 約束
6
しおりを挟む
「あなたたち、そこで何をしているのですか。もうすぐ授業が始まりますよ」
ベルテ達に教授のカーラ女史が声をかけた。
「ベルテ様、またあなたですか。最近、あなたの周りが騒がしいみたいですが、あまり学園の秩序を乱す行動をされますと、成績に響きますよ」
騒ぎの中心にベルテがいると知ると、女史は彼女を槍玉に挙げる。
女史は普通科で淑女教育なるものを教えているので、魔法科のベルテとは普段接点はないが、どうやら彼女も「白薔薇を愛でる会」のメンバーらしく、廊下などでベルテを見かけては難癖をつけてくる。
「申し訳ございません。今から授業に参ります」
「カーラ先生、申し訳ございませんでしたわ」
ベルテが頭を下げて謝るのに被せて、ルイーズが猫なで声で女史に謝った。
「ルイーズさん、あなたも気をつけてくださいね」
ルイーズに向ける表情に、ベルテに向けた厳しさは微塵も感じられない。
明らかにベルテを目の敵にしている態度に、指導者がこれでいいのかと思うが、波風立てたくないベルテは、うつむき加減にやり過ごした。
「失礼いたします」
女史の脇を通り過ぎるベルテに、冷たい視線が向けられる。
(鬱陶しい)
ヴァレンタイン個人にと言うより、こういうやり取りがベルテには鬱陶しかった。
ヴァレンタインはヴァレンタインで、やけに攻めて来たが、もしルイーズの言うことが本当なら、ベルテに向けた態度も、すべて計算づくだということだ。
(好きな相手がいるなら、どうして私との婚約を承諾したのよ)
以前にも言ったが、王族との話が断りにくかったとしても、アレッサンドロとシャンティエの婚約解消騒動の後なら、いくらでも断れた。
(それとも、その意中の相手とは結婚できない理由があるのかしら)
考えられるのは、相手が既婚者か婚約者がいるとか、もしかしたら、同性なのかも知れない。
同性愛は騎士団のような男社会ではよくあると聞くし、後継ぎでないなら、同性同士の結婚も認められている。
しかし、彼はベルクトフ家を継ぐ身だから、それを公に出来ないのかも。
両親にも誰にも言えず、叶わない恋に苦しんでいるかも知れない。
でもどうしたら、その相手との仲を取り持ってあげられるだろう。
ベルクトフ家としては、血筋を絶やすわけにはいかないだろうし、その相手が女性なら私が口利きしてあげれば、もしかしたらうまくその相手と結婚できるかも知れない。
(でも男性なら……)
どうすればいいだろうか。
男性が好きな人と結婚して、私が不幸になると思ったら、侯爵やお父様も諦めてくれるかもしれない。
(とにかく、彼が好きな人がどんな人かはっきりさせないと。でもどうしたらわかるかな)
さりげなく聞いてみると言っても、うまく聞けないかも知れない。
かと言って、ズバリ聞いて素直に教えてくれるだろうか。
「今度、聞いてみようかしら?」
シャンティエがいると話しづらいなら、二人きりになった時に聞いてみるしかない。
(そう言えば、今度どこかへ行こうとか、言っていたわね)
これまで彼とはほんの短い時間しか会話をしたことがない。もう少し長く一緒にいれば何となく彼のことがわかるかも知れない。
そう思ってベルテは次に彼に会った時に何が何でも聞いてみようと決意した。
ベルテ達に教授のカーラ女史が声をかけた。
「ベルテ様、またあなたですか。最近、あなたの周りが騒がしいみたいですが、あまり学園の秩序を乱す行動をされますと、成績に響きますよ」
騒ぎの中心にベルテがいると知ると、女史は彼女を槍玉に挙げる。
女史は普通科で淑女教育なるものを教えているので、魔法科のベルテとは普段接点はないが、どうやら彼女も「白薔薇を愛でる会」のメンバーらしく、廊下などでベルテを見かけては難癖をつけてくる。
「申し訳ございません。今から授業に参ります」
「カーラ先生、申し訳ございませんでしたわ」
ベルテが頭を下げて謝るのに被せて、ルイーズが猫なで声で女史に謝った。
「ルイーズさん、あなたも気をつけてくださいね」
ルイーズに向ける表情に、ベルテに向けた厳しさは微塵も感じられない。
明らかにベルテを目の敵にしている態度に、指導者がこれでいいのかと思うが、波風立てたくないベルテは、うつむき加減にやり過ごした。
「失礼いたします」
女史の脇を通り過ぎるベルテに、冷たい視線が向けられる。
(鬱陶しい)
ヴァレンタイン個人にと言うより、こういうやり取りがベルテには鬱陶しかった。
ヴァレンタインはヴァレンタインで、やけに攻めて来たが、もしルイーズの言うことが本当なら、ベルテに向けた態度も、すべて計算づくだということだ。
(好きな相手がいるなら、どうして私との婚約を承諾したのよ)
以前にも言ったが、王族との話が断りにくかったとしても、アレッサンドロとシャンティエの婚約解消騒動の後なら、いくらでも断れた。
(それとも、その意中の相手とは結婚できない理由があるのかしら)
考えられるのは、相手が既婚者か婚約者がいるとか、もしかしたら、同性なのかも知れない。
同性愛は騎士団のような男社会ではよくあると聞くし、後継ぎでないなら、同性同士の結婚も認められている。
しかし、彼はベルクトフ家を継ぐ身だから、それを公に出来ないのかも。
両親にも誰にも言えず、叶わない恋に苦しんでいるかも知れない。
でもどうしたら、その相手との仲を取り持ってあげられるだろう。
ベルクトフ家としては、血筋を絶やすわけにはいかないだろうし、その相手が女性なら私が口利きしてあげれば、もしかしたらうまくその相手と結婚できるかも知れない。
(でも男性なら……)
どうすればいいだろうか。
男性が好きな人と結婚して、私が不幸になると思ったら、侯爵やお父様も諦めてくれるかもしれない。
(とにかく、彼が好きな人がどんな人かはっきりさせないと。でもどうしたらわかるかな)
さりげなく聞いてみると言っても、うまく聞けないかも知れない。
かと言って、ズバリ聞いて素直に教えてくれるだろうか。
「今度、聞いてみようかしら?」
シャンティエがいると話しづらいなら、二人きりになった時に聞いてみるしかない。
(そう言えば、今度どこかへ行こうとか、言っていたわね)
これまで彼とはほんの短い時間しか会話をしたことがない。もう少し長く一緒にいれば何となく彼のことがわかるかも知れない。
そう思ってベルテは次に彼に会った時に何が何でも聞いてみようと決意した。
26
あなたにおすすめの小説
幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~
二階堂吉乃
恋愛
同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。
1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。
一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】どうやら私は婚約破棄されるそうです。その前に舞台から消えたいと思います
りまり
恋愛
私の名前はアリスと言います。
伯爵家の娘ですが、今度妹ができるそうです。
母を亡くしてはや五年私も十歳になりましたし、いい加減お父様にもと思った時に後妻さんがいらっしゃったのです。
その方にも九歳になる娘がいるのですがとてもかわいいのです。
でもその方たちの名前を聞いた時ショックでした。
毎日見る夢に出てくる方だったのです。
「お幸せに」と微笑んだ悪役令嬢は、二度と戻らなかった。
パリパリかぷちーの
恋愛
王太子から婚約破棄を告げられたその日、
クラリーチェ=ヴァレンティナは微笑んでこう言った。
「どうか、お幸せに」──そして姿を消した。
完璧すぎる令嬢。誰にも本心を明かさなかった彼女が、
“何も持たずに”去ったその先にあったものとは。
これは誰かのために生きることをやめ、
「私自身の幸せ」を選びなおした、
ひとりの元・悪役令嬢の再生と静かな愛の物語。
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる