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エピローグ
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しおりを挟む「え、なぜ、え、どうして…」
始めから彼だった? それとも今日だけ?
いつも顔がわからない格好だったから、はっきりわからない。
「これにも、認識阻害の魔法が掛かっているんです」
たった今外したスカーフをヴァレンタインが見せた。
「認識…阻害? でも、学園では」
許可なく魔法は使えない。それは魔道具も同じだ。
「許可があれば大丈夫です」
「許可…あ、学園長」
「そうです」
ベルテはまだ呆然として、ヴァレンタインを見つめる。
全て彼だった?
ベルテお気に入りの作品の作者も、時折おしゃべりをする庭師も、全てヴァレンタインだった?
「『ヴァン』と、あなたが思っていた人間は、ちゃんと存在します。彼は、事情があって顔を表にだせないんです」
それゆえ、顔を隠して働いているのだという。
「え、でも…どうして、あなたが今『ヴァン』さんなの?」
「木彫りが趣味で庭いじりが好きで、それなのに、世間は私の肩書と容姿だけを見て、理想を押し付けてくる。そんな生活が苦しくなって、一度学園長の前で倒れたことがあるんです」
「倒れ…」
倒れるほど辛かったということだろうか。
「そんな状況を見て、学園長と学園長と仲が良かった先々代の国王陛下が、私にこれを作ってくれて、時々『ヴァン』と交代していたんです」
スカーフをもう一度ヴァレンタインは見せた。
「大お祖父様が…」
「私に木彫りを教えてくれたのも、彼です。おかげで随分腕が上がりました」
彼の部屋で見た作品を思いだす。確かに急にうまくなっていた。
「じゃあ、私がずっと会っていたのは」
「それは本物の方です。学園を卒業してからは、これを利用することもなく、私がベルテ様とこの姿で会ったのは今日が初めてです」
彼がベルテの曽祖父と交流があったとは知らなかった。
そして今彼が話している話も、ベルテはまったく頭に入ってこない。
「学園長はこのことを?」
「今日、このことも、話しておくべきだと思って学園長にお願いして、本物の彼とも交代してもらいました。好きな人には何の秘密も持ちたくありませんから」
どうやら『ヴァン』という人物は、曽祖父と学園長にとても縁がある人のようだ。でも、今はまだそれを明かすつもりはないらしい。
いつか、ベルテにもその本当の姿を晒してくれるだろうか。
「好きな人」
「もちろん、ベルテ様です。先々代様から木彫りを教わりながら、色々とベルテ様の話を聞いて、妹と同じ年齢だなと思いながら、ベルテ様のことが気になっていました」
アレッサンドロとシャンティエが婚約する前から、彼はベルテを知っていたのだと言う。
「周りから思われている私と、本当の私はこんなにも違います。でも、これが私です。好きになってほしいと、無理強いするつもりはありません。ですが、婚約は続けてほしい」
「はい…」
「え?」
彼の願いに素直に頷いたのに、なぜか驚かれた。
「今、なんて?」
「だから、婚約を続けることに同意しました」
「ほ、本当に?」
「嘘は言い…」
不意にヴァレンタインが頬にキスをして、ベルテは言葉を失った。
「な、ななな」
あの日の口づけがベルテの頭の中で蘇る。
「好きです。ベルテ様。もう一度、口づけしてよろしいですか?」
いきなりするなと、前に言ったことを覚えているんだろう。
「そ、そんな…そんなこと…」
「だめですか?」
さらりとホワイトブロンドの髪が流れる。
「そ、それはそうと、どうして私はあなたが見えたの? 認識阻害の魔法って、この前みたいにお互いで魔道具を持ち合わないと…」
ベルテは甘い雰囲気に耐えきれず話題を変えた。
「ベルテ様は、先々代様の作られた魔道具をお持ちですよね」
「魔道具…あ、これ?」
ベルテは曽祖父がくれた万年筆を取り出した。
「多分それが影響しているのだと思います」
「そうなんだ」
不思議な縁だとベルテは万年筆を見る。
「ベルテ様」
「え、あ……」
顔を上げた瞬間、またもやヴァレンタインに唇を奪われる。
柔らかく湿った感触がベルテの唇に押し付けられる。
チュッとした音で唇が離れた。
しかし、ベルテが抵抗しないと知るや、ヴァレンタインはもう一度キスをした。
風がさっと吹いて花びらを散らす。花びらはくるくると舞いながら、二人の間をすり抜けて行った。
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