【完結】偏食ヴァンパイアはド田舎娘を所望する

七夜かなた

文字の大きさ
8 / 34

しおりを挟む
 聞き間違いかと、彼の無言の威圧に怯えつつ聞き返す。まるで蛇に睨まれた蛙。自分が追い詰められた獲物のように感じるのは、気のせいなんかじゃない。

「俺は同じことを二度言わされるのは嫌いだ。他の者なら今の時点で抹殺していたところだが、君は特別だから、今回は目を瞑ろう」
「ま、抹殺」
  
 抹殺とか、とても物騒な言葉が彼の口から発せられ、私の体はバイブのように震え、自分でもどうにも止められない。

「安心しろ。君は大事な花嫁だ。丁寧にもてなすつもりだ。ただ、俺に逆らうことは許さない」
「な、なじぇ…なぜ私があなたの…は、花嫁…花嫁って妻ってことでしゅよね。わ、私とあなたは、昨日会ったばかりで…」
「俺が普通の人間でないことは、察しているだろう?」
「そ、それは…」

 昨夜の出来事を思い出す。

「俺は吸血鬼ヴァンパイアだ」
「ヴァ……」

 普通でないということは理解していたし、そうかもとは思っていたが、いざ実際にそう言われても、すぐさま本気に出来ない。

「信じられないだろうが、本当だ」

 きっと信じられないという風に顔に書いてあったのだろう。彼がそう言うと、また瞳が金色に変わり牙が生え、全ての手の爪が伸びた。

「意外に肝が座っているのか、悲鳴でも上げるかと思ったが、何か言うことは?」

 あまりに非現実的過ぎて、どこから突っ込めばいいかわからないが、大きな会社の社長さんが、昼日中からわざわざ「自分が吸血鬼だ」と冗談を言う理由が見つからない。信じるしかないだろう。

「今、昼間よね。吸血鬼は日中は棺桶で眠っているんじゃ?」
「日光が苦手な者もいるし、夜の方が活動し易いが、行動を制限される程でも無く、それは大した弱点ではない。人でも日焼けを気にして、肌を覆ったり日傘を差したり色々対策はする。それと同じだ」
「ニンニクや十字架は?」
「臭いのは嫌いだが、それだけだ。見ただけでは怯えない。人間だって、苦手な者もいるだろえ。十字架はそもそもキリスト教徒の持ち物だ。仏教徒やイスラム教徒には関係ないことだ。そんなのが弱点になると?」
 
 日光もニンニクも十字架も、吸血鬼の苦手なものだと聞いたものは、弱点ではなかった。じゃあ、他に弱点は?

「言っておくが、木の杭で心臓を貫かれたら、どんな生き物も死ぬ」

 次に何か言う前に、先回りして言われた。確かにそうだ。心臓を貫かれて生きている方が化け物だ。
 
「私の血を……吸うの?」
「君の血は確かに美味だった。この俺が思わず我を忘れるほどに。俺は偏食家で、これまで生きてきた中で、生き血を美味しいと思ったのは初めてだ」 

 生き血を全て奪われて、ミイラになった自分の死体を想像してぞっとする。

「大丈夫だ。襲いかかって血をすべて飲み干すような野蛮なことはしない。そんなのは愚か者のすることだ。血は必要最小限摂取するだけで、普通の食事も食べる。ただし俺は好みにうるさくて、オーガニックでなければ駄目だし、口にするもの全てに拘りがある」

 偏食家の吸血鬼だか何だか知らないが、そう言われてもちっとも安心出来ない。何しろ相手は吸血鬼。私にとっては未知の生き物だ。何が本当で嘘かわからない。

「花嫁にして殺すの?」
「殺すためにわざわざ花嫁にするバカがいるか」
「じゃあどうして、私を花嫁なんて…」
 
 血を吸うつもりがないのに、私の血が美味しいと言う。でも、殺すつもりもないと言う。恋人もいたことがないが、結婚にそれなりに夢も希望もある。命令口調で「花嫁になれ」と言われて、「はいそうですか」と言えるわけがない。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ王子を闇落ちから救ったら愛執まみれの独占欲に囚われました

大江戸ウメコ
恋愛
幼い頃に精霊の祝福である未来視の力が開花し、「夫である第二王子ナハルドに殺される」という己の運命を知った伯爵令嬢ツィーラ。この悲惨な未来を変えるべく、ツィーラは彼を避けようとしたが、ひょんなことから婚約者に選ばれてしまった! ならば、ナハルドが将来闇落ちしないよう、側で彼を支えることを決意する。そんな努力の甲斐あって、ツィーラへの好意を隠さず伝えてくるほど、ナハルドとの関係は良好になった。だけど、彼の並々ならぬ執着心のすべてを、ツィーラはまだ知らなくて――

苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」 母に紹介され、なにかの間違いだと思った。 だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。 それだけでもかなりな不安案件なのに。 私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。 「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」 なーんて義父になる人が言い出して。 結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。 前途多難な同居生活。 相変わらず専務はなに考えているかわからない。 ……かと思えば。 「兄妹ならするだろ、これくらい」 当たり前のように落とされる、額へのキス。 いったい、どうなってんのー!? 三ツ森涼夏  24歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務 背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。 小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。 たまにその頑張りが空回りすることも? 恋愛、苦手というより、嫌い。 淋しい、をちゃんと言えずにきた人。 × 八雲仁 30歳 大手菓子メーカー『おろち製菓』専務 背が高く、眼鏡のイケメン。 ただし、いつも無表情。 集中すると周りが見えなくなる。 そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。 小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。 ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!? ***** 千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』 ***** 表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

お兄ちゃんはお兄ちゃんだけど、お兄ちゃんなのにお兄ちゃんじゃない!?

すずなり。
恋愛
幼いころ、母に施設に預けられた鈴(すず)。 お母さん「病気を治して迎えにくるから待ってて?」 その母は・・迎えにくることは無かった。 代わりに迎えに来た『父』と『兄』。 私の引き取り先は『本当の家』だった。 お父さん「鈴の家だよ?」 鈴「私・・一緒に暮らしていいんでしょうか・・。」 新しい家で始まる生活。 でも私は・・・お母さんの病気の遺伝子を受け継いでる・・・。 鈴「うぁ・・・・。」 兄「鈴!?」 倒れることが多くなっていく日々・・・。 そんな中でも『恋』は私の都合なんて考えてくれない。 『もう・・妹にみれない・・・。』 『お兄ちゃん・・・。』 「お前のこと、施設にいたころから好きだった・・・!」 「ーーーーっ!」 ※本編には病名や治療法、薬などいろいろ出てきますが、全て想像の世界のお話です。現実世界とは一切関係ありません。 ※コメントや感想などは受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 ※孤児、脱字などチェックはしてますが漏れもあります。ご容赦ください。 ※表現不足なども重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけたら幸いです。(それはもう『へぇー・・』ぐらいに。)

あやかし帝都の婚姻譚 〜浄癒の花嫁が祓魔の軍人に溺愛されるまで〜

鳴猫ツミキ
キャラ文芸
【完結】【第一章までで一区切り】時は大正。天羽家に生まれた桜子は、特異な体質から、家族に虐げられた生活を送っていた。すると女学院から帰ったある日、見合いをするよう命じられる。相手は冷酷だと評判の帝国陸軍あやかし対策部隊の四峰礼人だった。※和風シンデレラ風のお話です。恋愛要素が多いですが、あやかし要素が主体です。第9回キャラ文芸大賞に応募しているので、応援して頂けましたら嬉しいです。【第一章で一区切りで単体で読めますので、そこまででもご覧頂けると嬉しいです】。

黒騎士団の娼婦

星森
恋愛
夫を亡くし、義弟に家から追い出された元男爵夫人・ヨシノ。 異邦から迷い込んだ彼女に残されたのは、幼い息子への想いと、泥にまみれた誇りだけだった。 頼るあてもなく辿り着いたのは──「気味が悪い」と忌まれる黒騎士団の屯所。 煤けた鎧、無骨な団長、そして人との距離を忘れた男たち。 誰も寄りつかぬ彼らに、ヨシノは微笑み、こう言った。 「部屋が汚すぎて眠れませんでした。私を雇ってください」 ※本作はAIとの共同制作作品です。 ※史実・実在団体・宗教などとは一切関係ありません。戦闘シーンがあります。

ハイスぺ幼馴染の執着過剰愛~30までに相手がいなかったら、結婚しようと言ったから~

cheeery
恋愛
パイロットのエリート幼馴染とワケあって同棲することになった私。 同棲はかれこれもう7年目。 お互いにいい人がいたら解消しようと約束しているのだけど……。 合コンは撃沈。連絡さえ来ない始末。 焦るものの、幼なじみ隼人との生活は、なんの不満もなく……っというよりも、至極の生活だった。 何かあったら話も聞いてくれるし、なぐさめてくれる。 美味しい料理に、髪を乾かしてくれたり、買い物に連れ出してくれたり……しかも家賃はいらないと受け取ってもくれない。 私……こんなに甘えっぱなしでいいのかな? そしてわたしの30歳の誕生日。 「美羽、お誕生日おめでとう。結婚しようか」 「なに言ってるの?」 優しかったはずの隼人が豹変。 「30になってお互いに相手がいなかったら、結婚しようって美羽が言ったんだよね?」 彼の秘密を知ったら、もう逃げることは出来ない。 「絶対に逃がさないよ?」

処理中です...