【完結】偏食ヴァンパイアはド田舎娘を所望する

七夜かなた

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「疑っているのか? 夕べ俺は君の落としたおにぎりを止めた。こうして君の体の自由も奪っている。そんな力、普通の人間がもっていると思うか」

 彼が口を僅かに開けると、そこには八重歯より鋭い牙が二つ覗く。

「………鏡に写るか写らないかなど、自分の力で何とでもなる。写らないという話、あれも眉唾だ」
「そ、そんな……」

 自分が知っていた常識は、ことごとく覆された。
 もう何を信じていいのかわからない。

「条件を呑むということでいいな」

 なぜか決めつけられ、拒否権がない。

「拒否権」
「この期に及んで、まだ拒むのか」

 さすがに彼もいらついている。ここは密室。これ以上彼の提案を拒み続けて、無事でいられる保証はない。

「月に一度血を渡して、一日二回あなたに電話すればいいのですね」

 血を渡すことには今も抵抗はあった。でもそれでここから解き放ってくれるなら、背に腹は代えられない。

「質問……していいですか?」
「……なんだ? ちなみに着信拒否は許さない。もししたとしても、そんなもの無駄だ。あまり俺をみくびるな」
「そんなことしません。血はどうやって渡すのですか? そもそもそれって、法律とか大丈夫なのですか? 電話する時間は決まっていますか?」
「血は君の家まで熾が貰いに行く。熾は医師免許も持っている。何か言われても往診という形であれば問題ない」
「そ、そうですか……」

 あの熾という人も吸血鬼なんだろうか。

「熾も吸血鬼だ」

 また心の声を口にしてしまっていたようだ。

「ちなみに、俺に隠し事は無駄だ。人の内なる思考も読めるからな」
「え!!」

 まさかさっきまでの思考も読まれていたのかと、驚く。

「まあ、大抵は術で自白させることが多い。人の思考など、呼んでもうるさいだけだからな。いつもは意図して遮断している」
「術……今でも私にかけているんですか?」
「いいや、術はかけていない。大勢の思考を読むのは疲れるが、今は君一人を相手にしているだけだから、それほど手間はかからない。それに、術をかけたら、相手に負担がかかるから」
「ふ、負担?」
「意図に反して口を割らせるんだ。普通は抵抗するもの。そして抵抗が強いと、精神に負担がかかる」
「どうして、私にはしないの?」
「やり過ぎると、人の心と頭を壊す。君にはそんなことはしたくない」

 これは気遣ってくれている。ということでいいのだろうか。

「花嫁に対する最大限の気遣いだ」

 また思考を読まれてしまった。花嫁になるなんてひと言も言っていないのに。
 彼が私の考えを読んでいることをわかって、わざと頭の中でそう言った。
 
「ふふ、今のはわざとだな。思考を読まれていると知って、動揺せずそうやって切り替えるとは、なかなか肝が据わっている。さすが俺の花嫁」

 いや、花嫁と決めつけないで。

「知っているか。吸血鬼は昔から獲物を求めるハンターだ。追うのはお手の物。ただ素直に受け入れるより、そうやって反抗するのもおもしろい。どこまで続くか、お手並み拝見だな」

 逆に彼の闘争心を煽ったようだ。

「もうひとつの質問は、時間だったな。君が昼間と夜の仕事に行く前でいい」
「……わかりました」

 そう言った瞬間、体を拘束していた力が抜けたのがわかった。
 どうやら用は済んだみたいだ。
 窓の外を見ると、いつの間にか働いているスーパーのすぐ近くまで来ていた。

「えっと、じゃあ……」

 もう帰っていいのよね。そう思いながらドアに手を掛けた。

「雪緒」
「え?」

 声を掛けられ、振り向こうとした時、背後から長い腕が伸びてきて、私を抱きしめた。

「え、あ、あの……」

 自分をすっぽり包み込む大きな体。吸血鬼って体温はどうだったっけ。
 服の布地越しに体温は感じられない。聞こえるのは自分の鼓動のみ。

 
 
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