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23 熾
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世間では閨様の祖父とされている月夜見 朧は、閨様が人の世で生きるために作られた偶像で、父親とされている月夜見霄も同じ。
彼らは閨様の家族という役割を与えられた人間で、閨様の身内に見えるように、姿形を変えた者たちだ。
彼らは閨様の能力で、その役割を演じているに過ぎない。
閨様の本当の家族は、ヨーロッパにいる。
名前や立場や、年齢に応じ姿形を変え人の世に混じって生きている。
アジアにいる吸血鬼の中で、トップに立つのが閨様だ。
私の家は、昔から閨様の一族に仕えてきた。
閨様がアジアに居を構えると決められたとき、日本は戦国時代を迎えようとしていた。
人の人生で考えると五度ほど生まれ変わったくらいの年月、私は閨様と共に時を過ごしてきた。
その敬愛する主人、月夜見閨様は、とにかく偏食だった。
普通の食べ物はもちろん、吸血鬼にとって力の源となる血液も、かなり好みが偏っていた。
世間で出回るどんな高貴な人間の血であろうとも、心から美味しいと味合われたことはない。
それでも血を定期的に摂取しなければ、吸血鬼としての力が弱まる。
なんとか閨様の好みに合うように、あの手この手と工夫を凝らして血液を調合しきたが、なかなかお口に合う血を提供することはできなかった。
血を呑むということは、吸血鬼にとっては生きるため。そのために閨様は辛い思いをして、毎回血を呑まれる。
何十年、何百年と閨様のために血を求め続けた。
しかし食品添加物や化学物質で、人の体に変化が現れ、閨様はますます血に対し偏食を拗らせた。
普段食べるものは、無農薬、有機栽培で育てた作物。ストレスのない環境で育てられた動物でなんとかなったが、血はどうにもならなかった。
その人間が何を食べて、どんな環境で育ったかまでは管理できないからだ。
まさかそのために人を育てるわけにもいかない。
いかに人間より遥かに長命で特殊能力がある吸血鬼と言えども、人を飼うという行為は倫理に反する。
吸血鬼はフィクションなどで描かれるような、鬼畜などではない。
遥か昔から、人は己と違うものを排除してきた。
魔女狩りもそのひとつ。
自分より少し優れているものを妬み、自分たちに都合よく理由を付けては排除する。
優れた吸血鬼が十人もいて、本気を出せば国ひとつ簡単に滅ぼすことができる。
それほどに我らの力は人間を凌駕する。
しかし、寿命が長いからか元来、吸血鬼は温厚で争いを好まない生き物だ。
人の世界に混じり、その類まれな頭脳で財を築き、生きている。
二十一世紀になり、もう純粋に閨様のお好みにあう血を持つものなど、砂漠に落ちた針を探すより困難ではと思い始めた。
「極上の血を見つけた」
瞳を金色に輝かせ、閨様がそう言った。
日向雪緒
それがその血の持ち主の名前だった。
閨様の命を受け、彼女を調べた。
しかし殆ど天涯孤独と言っていい彼女は、あろうことか閨様を拒んだ。
あり得ない。赦されないことだ。
だがなぜか、閨様は最初から彼女に寛容だった。
あの女の血は、私にも他の者とは違うということはわかる。
確かに美味だろう。
だが、それだけだ。
なのに閨様は僅かに漏れる香りだけで、まるで猫がマタタビを与えられたかのように、頬を赤らめ恍惚な表情を浮かべられた。
これほどに閨様が求めているのに、なぜ、彼女は閨様を拒む?
閨様の花嫁など、望んでなれるものではない。
人間の中で生きていくため、結婚を偽装し表向きの妻がいたことはあっても、真実「花嫁」と呼ばれる女性は、過去一人もいなかった。
この先もそんな栄誉を賜る存在がいるとは限らない。
自分がどれほど恵まれているか、この女はわかっていない。
それが腹立たしく、つい言葉に棘が混じった。
当然それは閨様にもわかり、これまでないほどの叱責を受けた。
これまで閨様を護るため、怪我を負ったことはあるが、閨様から罰を言い渡されたは初めてのことだった。
逆鱗に触れたのだから、甘んじてその罰を受ける覚悟だった。
しかしあの女……日向雪緒は、罰を受ける私を庇った。
自分のことで誰かが傷つくのは、寝覚めが悪いと思ったようだ。
閨様が下す罰ならば、それも従者として受け入れる覚悟はあった。
腕が折れても、痛みは感じるが、すぐに治る。
そのままにしておけというなら、何日でも何ヶ月でも折れたままでいいとさえ思う。
ただ折れたままでは閨様の手足として動くには少々不便ではある。
私を助ける代わりに、あの女は閨様の望みをきく。
閨様は偏食であり、繊細な方。
常に付き従い、お世話してきた私でも、休む際には同じ部屋、同じ階で過ごしたことはない。
そんな閨様が、彼女との同居を望まれた。
まだ少々不本意ではあるが、閨様の望みを叶えるため、あの女を説得する。
私のためにと心を砕いてくれた恩もある。
日向雪緒
閨様の唯一にして無二の存在たる女。
閨様がこの女をご所望だというなら、私は私の出来ることをしよう。
彼らは閨様の家族という役割を与えられた人間で、閨様の身内に見えるように、姿形を変えた者たちだ。
彼らは閨様の能力で、その役割を演じているに過ぎない。
閨様の本当の家族は、ヨーロッパにいる。
名前や立場や、年齢に応じ姿形を変え人の世に混じって生きている。
アジアにいる吸血鬼の中で、トップに立つのが閨様だ。
私の家は、昔から閨様の一族に仕えてきた。
閨様がアジアに居を構えると決められたとき、日本は戦国時代を迎えようとしていた。
人の人生で考えると五度ほど生まれ変わったくらいの年月、私は閨様と共に時を過ごしてきた。
その敬愛する主人、月夜見閨様は、とにかく偏食だった。
普通の食べ物はもちろん、吸血鬼にとって力の源となる血液も、かなり好みが偏っていた。
世間で出回るどんな高貴な人間の血であろうとも、心から美味しいと味合われたことはない。
それでも血を定期的に摂取しなければ、吸血鬼としての力が弱まる。
なんとか閨様の好みに合うように、あの手この手と工夫を凝らして血液を調合しきたが、なかなかお口に合う血を提供することはできなかった。
血を呑むということは、吸血鬼にとっては生きるため。そのために閨様は辛い思いをして、毎回血を呑まれる。
何十年、何百年と閨様のために血を求め続けた。
しかし食品添加物や化学物質で、人の体に変化が現れ、閨様はますます血に対し偏食を拗らせた。
普段食べるものは、無農薬、有機栽培で育てた作物。ストレスのない環境で育てられた動物でなんとかなったが、血はどうにもならなかった。
その人間が何を食べて、どんな環境で育ったかまでは管理できないからだ。
まさかそのために人を育てるわけにもいかない。
いかに人間より遥かに長命で特殊能力がある吸血鬼と言えども、人を飼うという行為は倫理に反する。
吸血鬼はフィクションなどで描かれるような、鬼畜などではない。
遥か昔から、人は己と違うものを排除してきた。
魔女狩りもそのひとつ。
自分より少し優れているものを妬み、自分たちに都合よく理由を付けては排除する。
優れた吸血鬼が十人もいて、本気を出せば国ひとつ簡単に滅ぼすことができる。
それほどに我らの力は人間を凌駕する。
しかし、寿命が長いからか元来、吸血鬼は温厚で争いを好まない生き物だ。
人の世界に混じり、その類まれな頭脳で財を築き、生きている。
二十一世紀になり、もう純粋に閨様のお好みにあう血を持つものなど、砂漠に落ちた針を探すより困難ではと思い始めた。
「極上の血を見つけた」
瞳を金色に輝かせ、閨様がそう言った。
日向雪緒
それがその血の持ち主の名前だった。
閨様の命を受け、彼女を調べた。
しかし殆ど天涯孤独と言っていい彼女は、あろうことか閨様を拒んだ。
あり得ない。赦されないことだ。
だがなぜか、閨様は最初から彼女に寛容だった。
あの女の血は、私にも他の者とは違うということはわかる。
確かに美味だろう。
だが、それだけだ。
なのに閨様は僅かに漏れる香りだけで、まるで猫がマタタビを与えられたかのように、頬を赤らめ恍惚な表情を浮かべられた。
これほどに閨様が求めているのに、なぜ、彼女は閨様を拒む?
閨様の花嫁など、望んでなれるものではない。
人間の中で生きていくため、結婚を偽装し表向きの妻がいたことはあっても、真実「花嫁」と呼ばれる女性は、過去一人もいなかった。
この先もそんな栄誉を賜る存在がいるとは限らない。
自分がどれほど恵まれているか、この女はわかっていない。
それが腹立たしく、つい言葉に棘が混じった。
当然それは閨様にもわかり、これまでないほどの叱責を受けた。
これまで閨様を護るため、怪我を負ったことはあるが、閨様から罰を言い渡されたは初めてのことだった。
逆鱗に触れたのだから、甘んじてその罰を受ける覚悟だった。
しかしあの女……日向雪緒は、罰を受ける私を庇った。
自分のことで誰かが傷つくのは、寝覚めが悪いと思ったようだ。
閨様が下す罰ならば、それも従者として受け入れる覚悟はあった。
腕が折れても、痛みは感じるが、すぐに治る。
そのままにしておけというなら、何日でも何ヶ月でも折れたままでいいとさえ思う。
ただ折れたままでは閨様の手足として動くには少々不便ではある。
私を助ける代わりに、あの女は閨様の望みをきく。
閨様は偏食であり、繊細な方。
常に付き従い、お世話してきた私でも、休む際には同じ部屋、同じ階で過ごしたことはない。
そんな閨様が、彼女との同居を望まれた。
まだ少々不本意ではあるが、閨様の望みを叶えるため、あの女を説得する。
私のためにと心を砕いてくれた恩もある。
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