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時間は数日前に遡る。
あの日、流された感はいなめないけど、とにかく私は月夜見さんからの同居の提案を受け入れた。
都会で誰も頼る人がいない状況で、人恋しかったこともあるかもしれない。
彼らを「人」と呼んでいいのかわからないけど。
東京には生まれたときから東京にいる人以外に、地方から出てきた人も何なら日本の外から来た人も多い。
そんな中、私は吸血鬼と同居することになった。
「えっと……じゃあ、熾さんへの罰は『なし』でいいですよね」
一応確認してみる。
「雪緒に嘘はつかない。約束も守る」
どこまで信用していいかわからないけど、ひとまずそれを聞いてほっとして、熾さんを見る。
「良かった」
「ただし」
けれどそこで月夜見さんは私の顔を両手で挟んで、自分の方に向ける。
「これきりだ。もう俺より熾を気に掛けるな。雪緒のことを一番に考えるのも、雪緒のことを一番大切にするのも、俺だ」
「……ひょ、ひょれは」
ほっぺをぎゅっと挟まれて、口がひょっとこみたいになる。
「俺以外の男を二度と気に掛けるな」
ちょっと独占欲が過ぎる。うまくしゃべれなくて、私は月夜見さんの手首を掴み、顔から離す。
「じゃあ、私のことで二度と誰かを傷つけようとしないと約束してください」
「……それは難しい。熾については長年俺に仕えてきた者だから、今回は赦す。だが、今後雪緒を傷つけようとする者が出てきたら、相手に対し容赦はしない」
本気で言っているのがわかる。
「私が傷ついたとか、どうやって判断するの?」
「俺が判断する」
「それ、答えになっていないと思いますけど」
「では、不本意だが、雪緒が頼んだときだけにする」
「本当に?」
私が誰かを傷つけてと、頼むことなんてないと思う。
でもそれなら、誰彼構わず何かすることはなさそうだ。
少なくとも、私が望まなければ。
「月夜見閨の真名に誓って」
「閨様、そのように軽々しく誓われてよろしいのですか?」
熾さんがなぜか慌てている。
「黙れ熾、これは花嫁となる雪緒に対する俺の覚悟だ」
「あ、あの、今のって……」
名前に誓って、という言葉は初めて聞いたが、それほど慌てることなんだろうか。そういえば、「真名」とか言っていた気がする。月夜見閨が名前だと知っているが、「真名」というのさなんだろう。
「我々吸血鬼の名には、二つある。表向きに使う名前と、本質を表現する『真名』だ」
「……どう違うんですか? たとえば芸名やペンネームと本名、みたいな感じですか?」
最近では一般人でも結婚しても、仕事では旧姓を使ったりしている。仕事で使う名前と、戸籍に載っている名前とを使い分けるのは珍しいことぇはない。
「『真名』とは、そんな簡単なものではありまけん」
熾さんが険しい表情を見せる。
「『真名』は、その者の本質、魂の名前。それを知られるということは、相手にすべてをさらけ出し支配されることを意味します」
「支配……って」
「『真名』を知られた相手には、術が効きません。それどころか、その相手に力がなくても、その相手の命令には逆らえません」
「えっと、たとえば私がつ……閨さんを支配することも可能ということ?」
彼ら吸血鬼には、相手の思考を支配したり、意のままに操る力がある。
当然私にはない。
でももし私が月夜見さんの「真名」を知ってしまったら、私が彼を操ったり従わせたりできるということだろうか。
「術などより、もっと強力です。たとえば術では生命を奪うことはできません。相手に自殺願望や、どうでもいいと本気で思っている場合は別ですが、死にたくないと思っている。もしくは、生きることに執着している者には効きません」
熾さんが術について説明する。
「生への執着が強ければ、最後には術は効力を失います」
そこは抵抗できるんだ。そうだよね。と私は納得する。
「ですが、『真名』で支配された相手からの命令は、逆らえないのです。『死ね』と言われれば、その命令が魂に刻まれ、死ぬしかない。本当に心臓が停止してしまうのです」
「え!!」
それは言葉だけで殺人が出来てしまうということ。その重さに私はブルリと震える。
「俺は熾の『真名』を知っているが、俺の『真名』は知らない」
「えっと……じゃあ『真名』に誓う、という意味は……」
「我々吸血鬼にとっては、生命を差し出すに等しい」
まだ彼の『真名』を聞いたわけではない。でも彼らの話を聞く限り、『真名』に誓うという行為は、それくらい本気だと明言していることだと理解できた。
あの日、流された感はいなめないけど、とにかく私は月夜見さんからの同居の提案を受け入れた。
都会で誰も頼る人がいない状況で、人恋しかったこともあるかもしれない。
彼らを「人」と呼んでいいのかわからないけど。
東京には生まれたときから東京にいる人以外に、地方から出てきた人も何なら日本の外から来た人も多い。
そんな中、私は吸血鬼と同居することになった。
「えっと……じゃあ、熾さんへの罰は『なし』でいいですよね」
一応確認してみる。
「雪緒に嘘はつかない。約束も守る」
どこまで信用していいかわからないけど、ひとまずそれを聞いてほっとして、熾さんを見る。
「良かった」
「ただし」
けれどそこで月夜見さんは私の顔を両手で挟んで、自分の方に向ける。
「これきりだ。もう俺より熾を気に掛けるな。雪緒のことを一番に考えるのも、雪緒のことを一番大切にするのも、俺だ」
「……ひょ、ひょれは」
ほっぺをぎゅっと挟まれて、口がひょっとこみたいになる。
「俺以外の男を二度と気に掛けるな」
ちょっと独占欲が過ぎる。うまくしゃべれなくて、私は月夜見さんの手首を掴み、顔から離す。
「じゃあ、私のことで二度と誰かを傷つけようとしないと約束してください」
「……それは難しい。熾については長年俺に仕えてきた者だから、今回は赦す。だが、今後雪緒を傷つけようとする者が出てきたら、相手に対し容赦はしない」
本気で言っているのがわかる。
「私が傷ついたとか、どうやって判断するの?」
「俺が判断する」
「それ、答えになっていないと思いますけど」
「では、不本意だが、雪緒が頼んだときだけにする」
「本当に?」
私が誰かを傷つけてと、頼むことなんてないと思う。
でもそれなら、誰彼構わず何かすることはなさそうだ。
少なくとも、私が望まなければ。
「月夜見閨の真名に誓って」
「閨様、そのように軽々しく誓われてよろしいのですか?」
熾さんがなぜか慌てている。
「黙れ熾、これは花嫁となる雪緒に対する俺の覚悟だ」
「あ、あの、今のって……」
名前に誓って、という言葉は初めて聞いたが、それほど慌てることなんだろうか。そういえば、「真名」とか言っていた気がする。月夜見閨が名前だと知っているが、「真名」というのさなんだろう。
「我々吸血鬼の名には、二つある。表向きに使う名前と、本質を表現する『真名』だ」
「……どう違うんですか? たとえば芸名やペンネームと本名、みたいな感じですか?」
最近では一般人でも結婚しても、仕事では旧姓を使ったりしている。仕事で使う名前と、戸籍に載っている名前とを使い分けるのは珍しいことぇはない。
「『真名』とは、そんな簡単なものではありまけん」
熾さんが険しい表情を見せる。
「『真名』は、その者の本質、魂の名前。それを知られるということは、相手にすべてをさらけ出し支配されることを意味します」
「支配……って」
「『真名』を知られた相手には、術が効きません。それどころか、その相手に力がなくても、その相手の命令には逆らえません」
「えっと、たとえば私がつ……閨さんを支配することも可能ということ?」
彼ら吸血鬼には、相手の思考を支配したり、意のままに操る力がある。
当然私にはない。
でももし私が月夜見さんの「真名」を知ってしまったら、私が彼を操ったり従わせたりできるということだろうか。
「術などより、もっと強力です。たとえば術では生命を奪うことはできません。相手に自殺願望や、どうでもいいと本気で思っている場合は別ですが、死にたくないと思っている。もしくは、生きることに執着している者には効きません」
熾さんが術について説明する。
「生への執着が強ければ、最後には術は効力を失います」
そこは抵抗できるんだ。そうだよね。と私は納得する。
「ですが、『真名』で支配された相手からの命令は、逆らえないのです。『死ね』と言われれば、その命令が魂に刻まれ、死ぬしかない。本当に心臓が停止してしまうのです」
「え!!」
それは言葉だけで殺人が出来てしまうということ。その重さに私はブルリと震える。
「俺は熾の『真名』を知っているが、俺の『真名』は知らない」
「えっと……じゃあ『真名』に誓う、という意味は……」
「我々吸血鬼にとっては、生命を差し出すに等しい」
まだ彼の『真名』を聞いたわけではない。でも彼らの話を聞く限り、『真名』に誓うという行為は、それくらい本気だと明言していることだと理解できた。
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