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第1章 酒は飲んでも飲まれるな
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初めて朝帰りなるものをしてしまった。
(お父さんごめんなさい)
マリベルは心の中で父に謝った。
でも何も悪いことはしていません。
ちゃんとお礼も言ったし。
まだ引っ越したばかりで荷物も整理しきれていない慌てて探した今の部屋は、ドリトシュ夫婦が営む三階建てアパート。一階は、老夫婦の部屋と共同スペースになっている。二階には部屋が四つあり、三階は部屋が三つ。マリベルは角部屋で、その隣が新婚夫婦。あとの一つは王都に住んでいる夫婦の息子夫婦が、ここへ帰ってきた時に使うために空き部屋になっている。
夫妻は自分たちが暮らせるだけの収入があればいいからと、格安料金で部屋を貸してくれて、マリベルは大いに助かっている。
彼らに朝帰りするふしだらな子だと思われないかと、見つからないようコッソリ裏から部屋へと向かった。
そして次の日、仕事へと出かけるために外へ出ると、隣の新婚夫婦のルシアナさんがマリベルに声をかけた。
「実は今日、引っ越すことになったの」
「え!」
突然のことに驚いた。旦那さんは腕のいい大工で、せっかくいい人が隣人で喜んでいたのに。
「王都にいい仕事が見つかってね」
「せっかく仲良くしてもらおうと思ったのに」
心の底から残念がると、ルシアナさんもごめんねと謝った。
「もう次の人も決まっているらしいわ」
「そうなんですね」
人見知りはしないマリベルだったが、次の人も出来ればルシアナさんたち夫婦のような、自分と歳の近い人だといいなと思った。
ギルドの受付は朝九時から夕方六時までの九時間勤務。途中昼食と小休憩を挟んでの勤務となる。
年中無休で基本は週休二日で勤務交代する。
ベテランのミチルダさんを筆頭に二年先輩のアミリタさんや同期のキャシーと一年目のエレンとわたしの五人が今日の受付だった。
朝出勤し、いつものように開業前の準備をする。
掃除や依頼のチェック、冒険者の登録状況の確認など。
フェルの登録有効期限が明後日までになっているのも確認する。
ざっと見た限り彼のレベルで請け負える依頼で、一日二日で終わりそうなものはなさそうだった。
すぐに達成できない依頼を受ける場合は、依頼を受けて達成するまでは登録期間は延長されるので、今日辺り依頼を受ければ何とかなるだろう。
「ねえ、それより聞いた? 『狐の尻尾亭』のプリシラ、A級冒険者のエミリオと結婚するそうよ。何でも、昨日発表したらしいわ」
「そ、そう…」
昨日の今日でいきなり二人の名前を聞いて動転する。
「マリベルは二人のこと知ってた?」
「え、ど、どうして?」
「だって、プリシラってあなたの幼馴染みでしょ? はっきり言ってわたしは好きじゃないけど。男と女でまるっきり態度が違うんだもの。まあ、居酒屋で働くならそれでもいいけど」
「そうなんだ…」
プリシラに女の知り合いが少ないのは知っていたし、マリベルも昔から知っていると言うだけで、特別親しかったわけではない。
それでも、ずっと裏切られていたことにモヤモヤとした思いを抱いた。
「エミリオもあなたに良く声をかけてたから、てっきりあなたに気があるのかと思っていたわ」
「そ、そんなわけないじゃない、わたしと彼はただのギルドの受付と冒険者という関係よ」
実は自分もそう思っていたとは言えない。一人で恋人気取りでいた馬鹿な自分を、心の中で罵った。
(お父さんごめんなさい)
マリベルは心の中で父に謝った。
でも何も悪いことはしていません。
ちゃんとお礼も言ったし。
まだ引っ越したばかりで荷物も整理しきれていない慌てて探した今の部屋は、ドリトシュ夫婦が営む三階建てアパート。一階は、老夫婦の部屋と共同スペースになっている。二階には部屋が四つあり、三階は部屋が三つ。マリベルは角部屋で、その隣が新婚夫婦。あとの一つは王都に住んでいる夫婦の息子夫婦が、ここへ帰ってきた時に使うために空き部屋になっている。
夫妻は自分たちが暮らせるだけの収入があればいいからと、格安料金で部屋を貸してくれて、マリベルは大いに助かっている。
彼らに朝帰りするふしだらな子だと思われないかと、見つからないようコッソリ裏から部屋へと向かった。
そして次の日、仕事へと出かけるために外へ出ると、隣の新婚夫婦のルシアナさんがマリベルに声をかけた。
「実は今日、引っ越すことになったの」
「え!」
突然のことに驚いた。旦那さんは腕のいい大工で、せっかくいい人が隣人で喜んでいたのに。
「王都にいい仕事が見つかってね」
「せっかく仲良くしてもらおうと思ったのに」
心の底から残念がると、ルシアナさんもごめんねと謝った。
「もう次の人も決まっているらしいわ」
「そうなんですね」
人見知りはしないマリベルだったが、次の人も出来ればルシアナさんたち夫婦のような、自分と歳の近い人だといいなと思った。
ギルドの受付は朝九時から夕方六時までの九時間勤務。途中昼食と小休憩を挟んでの勤務となる。
年中無休で基本は週休二日で勤務交代する。
ベテランのミチルダさんを筆頭に二年先輩のアミリタさんや同期のキャシーと一年目のエレンとわたしの五人が今日の受付だった。
朝出勤し、いつものように開業前の準備をする。
掃除や依頼のチェック、冒険者の登録状況の確認など。
フェルの登録有効期限が明後日までになっているのも確認する。
ざっと見た限り彼のレベルで請け負える依頼で、一日二日で終わりそうなものはなさそうだった。
すぐに達成できない依頼を受ける場合は、依頼を受けて達成するまでは登録期間は延長されるので、今日辺り依頼を受ければ何とかなるだろう。
「ねえ、それより聞いた? 『狐の尻尾亭』のプリシラ、A級冒険者のエミリオと結婚するそうよ。何でも、昨日発表したらしいわ」
「そ、そう…」
昨日の今日でいきなり二人の名前を聞いて動転する。
「マリベルは二人のこと知ってた?」
「え、ど、どうして?」
「だって、プリシラってあなたの幼馴染みでしょ? はっきり言ってわたしは好きじゃないけど。男と女でまるっきり態度が違うんだもの。まあ、居酒屋で働くならそれでもいいけど」
「そうなんだ…」
プリシラに女の知り合いが少ないのは知っていたし、マリベルも昔から知っていると言うだけで、特別親しかったわけではない。
それでも、ずっと裏切られていたことにモヤモヤとした思いを抱いた。
「エミリオもあなたに良く声をかけてたから、てっきりあなたに気があるのかと思っていたわ」
「そ、そんなわけないじゃない、わたしと彼はただのギルドの受付と冒険者という関係よ」
実は自分もそう思っていたとは言えない。一人で恋人気取りでいた馬鹿な自分を、心の中で罵った。
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