11 / 47
第1章 酒は飲んでも飲まれるな
10
しおりを挟む
「さあ、皆さん、今日も一日よろしくお願いしますね」
「「「「よろしくお願いします」」」」
ミチルダさんの点呼の後、仕事が始まった。
「あら、噂をすればね」
キャシーが耳打ちしてきて、顔を上げると満面の笑みを浮かべながらプリシラが入ってきた。
「やあプリシラ、今度また店に行くよ」
「サービスしてくれよ」
ギルドに来ていた男性冒険者たちがプリシラに声をかける。
彼女が振り向くと豊かな胸がプルプルと震える。腰がキュッと締まってお尻もむっちりとしていて、出るところは出て、という感じだ。
彼女に比べればマリベルの胸などまだまだ発展途上だ。
「おはようマリベル」
「プリシラ、どうしたの?」
彼女は真っ直ぐにマリベルに向かって歩いてきて、受付のカウンターに大きな胸を乗せた。
隣にいる男性冒険者の視線が、そこに釘付けになる。
「あなたに報告しておくべきかと思って。わたし、エミリオと婚約したの」
勝ち誇ったようにドヤ顔でプリシラが言った。
「……おめでとう」
プリシラは自分とエミリオの関係を知っていて、わざわざそのことを報告に来たのだ。
「その言葉はあなたの本当の気持ちと思っていいかしら?」
「どういう意味?」
「わたし、知っているのよ。エミリオがわたしに相談してくれたの。マリベルが受付の特権を利用して、エミリオに楽な依頼を回すから、自分と付き合えって迫ってきて困ってるって」
わざとらしく少し声量を上げて周りに聞こえるようにプリシラは言った。
「A級になったのは自分のお陰だから、感謝しろ、格下げになりたくなかったら、言うことを聞けって脅迫もしてきたって」
「そ、そんなの嘘よ」
「でも、エミリオに依頼を回してくれたのは事実でしょ?」
「…そ、それは、彼が…」
それは事実なので否定は出来ない。言葉を濁したマリベルに、更にプリシラが言い放った。
「エミリオは公平にしてくれ、俺は嫌だと言ったのに、わたしの父親はギルド長なんだから、言うことをきかないと不利になるのはエミリオだって言ったらしいわね」
「そんなことわたしは・・」
「本当なの?」
「まさか、本当なら職権乱用もいいところだ」
否定するマリベルの声は、ざわざわと二人の会話を耳にした人たちの囁きにかき消されていく。
「マリベル、大丈夫?」
「キャシー」
「プリシラ、その話は本当なの」
ミランダさんが担当していた冒険者に断りを入れて、こちらにやって来た。
「ミランダさん、わたしは、そんなこと言っていません。父の力を使って何かを強制したりしたことはありません」
事実無根だと訴えると、ミランダさんはそうねぇ、あなたはそんなことしないと思うけどと、一応は信じてくれたようだが、完全にはそう思っていないことがわかった。
「嘘つきね、そんなの今まで隠していただけで、裏ではそうだったって言っているのよ。エミリオも怖くて言えなかっただけよ、ねえエミリオ」
プリシラが振り返ると、入口にエミリオが立った。
「俺がA級以上にならないと父親が納得しない。手助けしてやるからって、レベル上げは俺にも願ったりだから頑張ったけど、ごめん。俺はプリシラが好きなんだ。諦めてくれ。黙っていようと思ったが、それをネタに迫られたら俺も困る」
「そんな…迫ったことなんて…あなたが先に…」
「妄想はやめてよ。わたしとエミリオはもう二年前から付き合っているのよ」
「二年前…」
計算が合わない。エミリオがマリベルに告白したのが一年前、ということは、最初から二股だったのだ。
「「「「よろしくお願いします」」」」
ミチルダさんの点呼の後、仕事が始まった。
「あら、噂をすればね」
キャシーが耳打ちしてきて、顔を上げると満面の笑みを浮かべながらプリシラが入ってきた。
「やあプリシラ、今度また店に行くよ」
「サービスしてくれよ」
ギルドに来ていた男性冒険者たちがプリシラに声をかける。
彼女が振り向くと豊かな胸がプルプルと震える。腰がキュッと締まってお尻もむっちりとしていて、出るところは出て、という感じだ。
彼女に比べればマリベルの胸などまだまだ発展途上だ。
「おはようマリベル」
「プリシラ、どうしたの?」
彼女は真っ直ぐにマリベルに向かって歩いてきて、受付のカウンターに大きな胸を乗せた。
隣にいる男性冒険者の視線が、そこに釘付けになる。
「あなたに報告しておくべきかと思って。わたし、エミリオと婚約したの」
勝ち誇ったようにドヤ顔でプリシラが言った。
「……おめでとう」
プリシラは自分とエミリオの関係を知っていて、わざわざそのことを報告に来たのだ。
「その言葉はあなたの本当の気持ちと思っていいかしら?」
「どういう意味?」
「わたし、知っているのよ。エミリオがわたしに相談してくれたの。マリベルが受付の特権を利用して、エミリオに楽な依頼を回すから、自分と付き合えって迫ってきて困ってるって」
わざとらしく少し声量を上げて周りに聞こえるようにプリシラは言った。
「A級になったのは自分のお陰だから、感謝しろ、格下げになりたくなかったら、言うことを聞けって脅迫もしてきたって」
「そ、そんなの嘘よ」
「でも、エミリオに依頼を回してくれたのは事実でしょ?」
「…そ、それは、彼が…」
それは事実なので否定は出来ない。言葉を濁したマリベルに、更にプリシラが言い放った。
「エミリオは公平にしてくれ、俺は嫌だと言ったのに、わたしの父親はギルド長なんだから、言うことをきかないと不利になるのはエミリオだって言ったらしいわね」
「そんなことわたしは・・」
「本当なの?」
「まさか、本当なら職権乱用もいいところだ」
否定するマリベルの声は、ざわざわと二人の会話を耳にした人たちの囁きにかき消されていく。
「マリベル、大丈夫?」
「キャシー」
「プリシラ、その話は本当なの」
ミランダさんが担当していた冒険者に断りを入れて、こちらにやって来た。
「ミランダさん、わたしは、そんなこと言っていません。父の力を使って何かを強制したりしたことはありません」
事実無根だと訴えると、ミランダさんはそうねぇ、あなたはそんなことしないと思うけどと、一応は信じてくれたようだが、完全にはそう思っていないことがわかった。
「嘘つきね、そんなの今まで隠していただけで、裏ではそうだったって言っているのよ。エミリオも怖くて言えなかっただけよ、ねえエミリオ」
プリシラが振り返ると、入口にエミリオが立った。
「俺がA級以上にならないと父親が納得しない。手助けしてやるからって、レベル上げは俺にも願ったりだから頑張ったけど、ごめん。俺はプリシラが好きなんだ。諦めてくれ。黙っていようと思ったが、それをネタに迫られたら俺も困る」
「そんな…迫ったことなんて…あなたが先に…」
「妄想はやめてよ。わたしとエミリオはもう二年前から付き合っているのよ」
「二年前…」
計算が合わない。エミリオがマリベルに告白したのが一年前、ということは、最初から二股だったのだ。
2
あなたにおすすめの小説
婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました
由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。
彼女は何も言わずにその場を去った。
――それが、王太子の終わりだった。
翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。
裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。
王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。
「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」
ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~
遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。
「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」
彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。
瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット!
彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる!
その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。
一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。
知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!
『影の夫人とガラスの花嫁』
柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、
結婚初日から気づいていた。
夫は優しい。
礼儀正しく、決して冷たくはない。
けれど──どこか遠い。
夜会で向けられる微笑みの奥には、
亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。
社交界は囁く。
「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」
「後妻は所詮、影の夫人よ」
その言葉に胸が痛む。
けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。
──これは政略婚。
愛を求めてはいけない、と。
そんなある日、彼女はカルロスの書斎で
“あり得ない手紙”を見つけてしまう。
『愛しいカルロスへ。
私は必ずあなたのもとへ戻るわ。
エリザベラ』
……前妻は、本当に死んだのだろうか?
噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。
揺れ動く心のまま、シャルロットは
“ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。
しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、
カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。
「影なんて、最初からいない。
見ていたのは……ずっと君だけだった」
消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫──
すべての謎が解けたとき、
影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。
切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。
愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる
お飾り王妃の死後~王の後悔~
ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。
王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。
ウィルベルト王国では周知の事実だった。
しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。
最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。
小説家になろう様にも投稿しています。
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる