恋人は謎多き冒険者

七夜かなた

文字の大きさ
23 / 47
第3章 討伐依頼

しおりを挟む
取り敢えずマリベルたち回復術士が出来ることは全てやった。
気になってマリベルがギルドへと向かうと、案の定ギルドの方もウルフキングの出現に大騒ぎだった。

「今すぐラセルダ中のB級以上の冒険者を集めろ!C級でも実力のある者なら構わないぞ。急ぎでない依頼は一旦停止しろ」

ギルド長が陣頭指揮を執り、一階は上を下への大騒ぎになっていた。

「マリベル、医務室へ来た人たちは大丈夫だった?」

キャシーがマリベルが来たのを見て訊ねた。

「うん、命に別状はないわ。でも私たちの力では足りなくて、エクストラヒールが使える人がいたら・・」
「エクストラヒールって、王室直轄の魔導騎士団にしかいないじゃない」
「うん、だからあれ以上はもう」

自分の力が及ばないことが悔しくて、マリベルは唇を噛みしめる。

その時、入り口の辺りからざわめきが起こった。

人でごった返し慌ただしいギルドの一階の広場。その先、入り口に見えたのは頭一つ人より飛び抜けたアッシュブロンドの頭だった。

「おい、まさか…」

人混みの向こう、マリベルたちのいる受付の辺りから見えたのは頭のてっぺんだけ。だけどそれが誰なのかマリベルにはわかった。

「フェルさん」

でも、マリベルとフェルの間にいる人たちが驚いたのは、彼に対してではなかった。
アッシュブロンドの頭が動き、こちらへと歩いてくる。すると自然と人々が動いて、彼のために通路を開けていく。

フェルは誰かを背負い、しっかりとした足取りでマリベルに向かって歩いてきた。

「フェルさん。その人は?」
「魔物に魘われていたから、助けました」

彼の背中にいる人物が「ううん…」と呻き声を上げて、顔を上げた。

「バーツ! お前、バーツじゃないか。無事だったのか」

先程マリベルが治療した冒険者のガービーが医務室から出てきたところだった。

「え、シーカーの?」
「そうだ、ああ、良かった。あんたがバーツを助けてくれたのか?」

それに対し彼は無言で頷いた。

「とにかく話はあとだ、誰か彼を医務室へ運んでくれ」

ギルド長の命令でギルドの職員たちが走ってきて、フェルの背中からバーツを引き取り医務室へと連れて行った。ガービーもそれについていく。

「一体どうやって、彼を? 君はどこか怪我は?」

ギルド長がそう尋ねるとよく見れば衣服のあちこちに血が付いていた。

「フェルさん、大丈夫ですか?」

先に質問したのはギルド長なのに、フェルはマリベルの方を向いて大丈夫だと答えた。

「これはさっきの人の血と、ベアドウルフの血だ。俺はかすり傷ひとつない」

そう言った後、一瞬にして彼の衣服にこびり着いた血の痕がキレイサッパリ消え去った。
それはいわゆる洗浄魔法。風魔法と水魔法の併せ技だった。

「君が大丈夫なのはわかった。君はウルフキングを見たのか? 彼らはベアドウルフ討伐に行って、ウルフキングを見たと言っているが」

ギルド長がそう聞いてきた。
依頼に失敗した冒険者が、依頼を達成出来なかったことを正当化するため、時に大げさに何があったか吹聴する時がある。
ウルフキングはS級クラスの討伐対象だから、B級の冒険者には手に余る相手だ。
ギルド長は彼らの証言についての裏付けをフェルに求めた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

婚約破棄された翌日、兄が王太子を廃嫡させました

由香
ファンタジー
婚約破棄の場で「悪役令嬢」と断罪された伯爵令嬢エミリア。 彼女は何も言わずにその場を去った。 ――それが、王太子の終わりだった。 翌日、王国を揺るがす不正が次々と暴かれる。 裏で糸を引いていたのは、エミリアの兄。 王国最強の権力者であり、妹至上主義の男だった。 「妹を泣かせた代償は、すべて払ってもらう」 ざまぁは、静かに、そして確実に進んでいく。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。 「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」 彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。 瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット! 彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる! その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。 一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。 知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!

『影の夫人とガラスの花嫁』

柴田はつみ
恋愛
公爵カルロスの後妻として嫁いだシャルロットは、 結婚初日から気づいていた。 夫は優しい。 礼儀正しく、決して冷たくはない。 けれど──どこか遠い。 夜会で向けられる微笑みの奥には、 亡き前妻エリザベラの影が静かに揺れていた。 社交界は囁く。 「公爵さまは、今も前妻を想っているのだわ」 「後妻は所詮、影の夫人よ」 その言葉に胸が痛む。 けれどシャルロットは自分に言い聞かせた。 ──これは政略婚。 愛を求めてはいけない、と。 そんなある日、彼女はカルロスの書斎で “あり得ない手紙”を見つけてしまう。 『愛しいカルロスへ。  私は必ずあなたのもとへ戻るわ。          エリザベラ』 ……前妻は、本当に死んだのだろうか? 噂、沈黙、誤解、そして夫の隠す真実。 揺れ動く心のまま、シャルロットは “ガラスの花嫁”のように繊細にひび割れていく。 しかし、前妻の影が完全に姿を現したとき、 カルロスの静かな愛がようやく溢れ出す。 「影なんて、最初からいない。  見ていたのは……ずっと君だけだった」 消えた指輪、隠された手紙、閉ざされた書庫── すべての謎が解けたとき、 影に怯えていた花嫁は光を手に入れる。 切なく、美しく、そして必ず幸せになる後妻ロマンス。 愛に触れたとき、ガラスは光へと変わる

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

処理中です...