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第3章 討伐依頼
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「まるで新婚の夫を見送る新妻ね」
フェルの行動がよく分からずボーっとしていると、キャシーが横から話しかけた。
「え、し、新婚って、そんな」
動揺すると、キャシーが更に身を寄せてきた。
「今朝は仲良く歩いていたし、マリベルもやるわね。彼って顔はいいけど話しかけても殆ど無視されるって評判だったわよ。昨日からすごく喋るし、マリベルを見る目がとっても優しいわ」
「そんなこと…た、たまたま彼が契約したのが私と同じアパートの隣だったから…」
「え、確かお隣って新婚さんだったんじゃ…」
「それが王都でいい仕事が見つかったって昨日引っ越ししてしまって、空いた部屋に越してきたのが彼なの」
「へえ、でもマリベルがそこに住んでいるって、彼も知っていたんでしょ?」
「え、う、ううん…何処に住んでいるかは、彼にはまだ話してなかったから…」
「恋人なのに?」
キャシーに言われてマリベルは押し黙った。
恋人ならどこに住んでいるか知っていても可笑しくないが、フェルとは話の流れで恋人を演じているだけなのだ。
当然、彼に住処を教えてはいなかったから、彼が隣人になったのはあくまで偶然のことだ。
「引っ越したと言ったけど、彼とはまだ付き合い始めたばかりで、場所までは言ってなかったの」
「そうなのね」
「マリベル、キャシー、おしゃべりはそこまでよ。マリベルは今日は午後から医務室でしょ、仕事は山積みなんだからね」
ミランダがおしゃべりをしていた二人に物腰柔らかく注意する。
「はあい」
「すみません、ミランダさん」
それからマリベルは午前中いっぱい受付で仕事をして、午後からギルド直営の医務室で勤務した。
回復術士はギルドに十人いる。五人は正規の回復術士として常勤で勤務していて、後の五人は非常勤だ。マリベルは受付でもあるため、非常勤の方だった。
彼女の術士としてのレベルは中の上。魔力量はそこそこあるが、まだまだ見習いのレベルを出ない。
医務室では冒険者の怪我だけでなく、一般の人たちも治療する。その日の患者は荷運びをしていて荷物を足の上に落とした人や、依頼の途中で高い所から落ちた冒険者などだった。
今日もそろそろ終わりかなと思っているところへ「術士はいるか!」と扉を勢いよく開けて人が入ってきた。
「は、はい」
慌てて診察室を出ると、待合室に男性が二人いた。
一人は額から血を流していて、もうひとりはその男性の首に腕を回して抱えられながら、ぐったりと項垂れている。よく見れば右手首から先が変色している。
「マリベル、休憩室にいるジョーダンたちを呼んできて」
「は、はい!」
他の術士たちを呼んで共に戻ってくると、医務室の中は大騒ぎになっていた。
「一体なにが」
「ベアドウルフだ」
「え?」
「おれたちは、ベアドウルフ退治に向かったんだ」
「それって、今朝エミリオが言っていた?」
「そう、おれたちはあいつに声をかけられて、一緒に森へ行ったんだ。だが、思っていた以上にいて、しかもウルフキングもいたんだ」
「ウルフキング!」
その場にいた全員が驚きの声を上げる。
ウルフキングはベアドウルフの最上位種。個体の強さもさることながら、それが一体いるだけで群れの強さは格段に上がる。ウルフキングの遠吠えで強さのステータスは爆発的に跳ね上がる。
「しかも群れの数も十匹どころか五十匹近くもいた。転移魔法を使えるやつがいなけりゃ全滅だった」
「殆どB級ばかりで、A級はエミリオだけだったのに、エミリオのやつ」
「形勢が不利だとわかると、おれたちを盾に一番先に逃げたんだ。A級が聞いて呆れる」
憎々しげに彼らはエミリオへの恨みを吐き出した。
「それで、他の人達は? 逃げ遅れた人たちはいないの?」
メンバーはエミリオを入れて六人。一人は彼らが逃げる直前に亡くなったそうだ。でも戻ってきたのは二人。エミリオともう一人、偵察役のシーカーが戻ってきていないという。
「もう、きっとだめだ。俺たちだって逃げるのに精一杯だったのに」
「そんな…」
医務室には重苦しい空気が立ち込めた。
右手が変色した冒険者は、ベアドウルフの冷気にやられていた。もう少し早く処置できれば何とかなったが、親指と人差し指は神経もやられていて、最上位の回復魔法エクストラヒールでなければ回復は見込めない。
しかし、ここにいる術士が使えるのはハイヒールまで。エクストラヒールを使う術士は王都の魔導騎士団にしかいない。
「ごめんなさい、わたしたちの力が足りなくて」
「いや、命が助かっただけでもおれたちはまだましだ。それに指の一本や二本くらいなら、何とかランクが落ちても冒険者としてやっていける」
額と肩に傷を負ったガービーが役不足を詫びるマリベルたちに言った。
フェルの行動がよく分からずボーっとしていると、キャシーが横から話しかけた。
「え、し、新婚って、そんな」
動揺すると、キャシーが更に身を寄せてきた。
「今朝は仲良く歩いていたし、マリベルもやるわね。彼って顔はいいけど話しかけても殆ど無視されるって評判だったわよ。昨日からすごく喋るし、マリベルを見る目がとっても優しいわ」
「そんなこと…た、たまたま彼が契約したのが私と同じアパートの隣だったから…」
「え、確かお隣って新婚さんだったんじゃ…」
「それが王都でいい仕事が見つかったって昨日引っ越ししてしまって、空いた部屋に越してきたのが彼なの」
「へえ、でもマリベルがそこに住んでいるって、彼も知っていたんでしょ?」
「え、う、ううん…何処に住んでいるかは、彼にはまだ話してなかったから…」
「恋人なのに?」
キャシーに言われてマリベルは押し黙った。
恋人ならどこに住んでいるか知っていても可笑しくないが、フェルとは話の流れで恋人を演じているだけなのだ。
当然、彼に住処を教えてはいなかったから、彼が隣人になったのはあくまで偶然のことだ。
「引っ越したと言ったけど、彼とはまだ付き合い始めたばかりで、場所までは言ってなかったの」
「そうなのね」
「マリベル、キャシー、おしゃべりはそこまでよ。マリベルは今日は午後から医務室でしょ、仕事は山積みなんだからね」
ミランダがおしゃべりをしていた二人に物腰柔らかく注意する。
「はあい」
「すみません、ミランダさん」
それからマリベルは午前中いっぱい受付で仕事をして、午後からギルド直営の医務室で勤務した。
回復術士はギルドに十人いる。五人は正規の回復術士として常勤で勤務していて、後の五人は非常勤だ。マリベルは受付でもあるため、非常勤の方だった。
彼女の術士としてのレベルは中の上。魔力量はそこそこあるが、まだまだ見習いのレベルを出ない。
医務室では冒険者の怪我だけでなく、一般の人たちも治療する。その日の患者は荷運びをしていて荷物を足の上に落とした人や、依頼の途中で高い所から落ちた冒険者などだった。
今日もそろそろ終わりかなと思っているところへ「術士はいるか!」と扉を勢いよく開けて人が入ってきた。
「は、はい」
慌てて診察室を出ると、待合室に男性が二人いた。
一人は額から血を流していて、もうひとりはその男性の首に腕を回して抱えられながら、ぐったりと項垂れている。よく見れば右手首から先が変色している。
「マリベル、休憩室にいるジョーダンたちを呼んできて」
「は、はい!」
他の術士たちを呼んで共に戻ってくると、医務室の中は大騒ぎになっていた。
「一体なにが」
「ベアドウルフだ」
「え?」
「おれたちは、ベアドウルフ退治に向かったんだ」
「それって、今朝エミリオが言っていた?」
「そう、おれたちはあいつに声をかけられて、一緒に森へ行ったんだ。だが、思っていた以上にいて、しかもウルフキングもいたんだ」
「ウルフキング!」
その場にいた全員が驚きの声を上げる。
ウルフキングはベアドウルフの最上位種。個体の強さもさることながら、それが一体いるだけで群れの強さは格段に上がる。ウルフキングの遠吠えで強さのステータスは爆発的に跳ね上がる。
「しかも群れの数も十匹どころか五十匹近くもいた。転移魔法を使えるやつがいなけりゃ全滅だった」
「殆どB級ばかりで、A級はエミリオだけだったのに、エミリオのやつ」
「形勢が不利だとわかると、おれたちを盾に一番先に逃げたんだ。A級が聞いて呆れる」
憎々しげに彼らはエミリオへの恨みを吐き出した。
「それで、他の人達は? 逃げ遅れた人たちはいないの?」
メンバーはエミリオを入れて六人。一人は彼らが逃げる直前に亡くなったそうだ。でも戻ってきたのは二人。エミリオともう一人、偵察役のシーカーが戻ってきていないという。
「もう、きっとだめだ。俺たちだって逃げるのに精一杯だったのに」
「そんな…」
医務室には重苦しい空気が立ち込めた。
右手が変色した冒険者は、ベアドウルフの冷気にやられていた。もう少し早く処置できれば何とかなったが、親指と人差し指は神経もやられていて、最上位の回復魔法エクストラヒールでなければ回復は見込めない。
しかし、ここにいる術士が使えるのはハイヒールまで。エクストラヒールを使う術士は王都の魔導騎士団にしかいない。
「ごめんなさい、わたしたちの力が足りなくて」
「いや、命が助かっただけでもおれたちはまだましだ。それに指の一本や二本くらいなら、何とかランクが落ちても冒険者としてやっていける」
額と肩に傷を負ったガービーが役不足を詫びるマリベルたちに言った。
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