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第5章 父が遺したもの
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国中から冒険者たちが続々と集まってきた。
ギルド長の通達で、冒険者達の取り纏めは軍が行うこと。魔導騎士団はその支援と別働隊とに別れて行動することが告げられた。
「心配ね。近しい人が出陣するなら尚更」
「でも、私だけじゃないわ。同じ想いをしている人は五万といるもの」
自分だけが心配に押し潰されているわけじゃない。出陣した人たちは皆、誰かの子で親で兄弟で、恋人で伴侶だ。たとえフェルのように孤児だったとしても、無事を願う人はいるのだ。
魔物は夜になると活発になる。だから討伐は主に昼の時間帯に行われる。
結界を得意とする者が張った結界内に天幕を張り、暫くは野営をしながら交代で渓谷へと向かう。
回復術士や治療魔法を得意とする冒険者は後方支援にまわる。
マリベルも回復術士だったが、普段から兼務だったこともあり、医務室での待機だ。
もし回復術士の補充が必要となった場合は、要請がかかるかもしれない。
渓谷のことはまだ何の情報も入っていない。連絡がないことはいいことだと、待機している者同士励ましあっていた。
「マリベル、ちょっといいかしら?」
「はい」
そろそろ今日の勤務は終わりだと言う頃、事務職のサリーがマリベルを訪ねてきた。
「ちょっとお使いを頼まれてほしいの」
「お使い…ですか?」
「ええ、ここに行って、この手紙を渡してきてほしいの。あなたの家の方向でしょ?」
そう言って住所を書いたメモと手紙を渡された。
そこは大通りから少し外れた裏通りに面した場所だった。
マリベルの住むアパートに行く途中ではあるが、そういう場所なので行ったことはなかった。
「ここへ…これを?」
「ええ、ギルド長の知り合いみたいなんだけど、ギルド長はほら、今すぐに行けないでしょ、お願いね。あ、渡したらそのまま帰っていいから」
ギルド長の? 自分が行けないからと代理を立てるのはわかるが、どうしてマリベルに頼むのか。
「わかりました」
それでもマリベルはギルド長のことは信頼していた。彼の経歴は父と似ていて、人としてもとても好感が持てる。
「ここ?」
土地勘はあったので迷わなかったが、書かれた住所に立つ建物は手入れがまったく行き届いていない、ボロボロの廃屋のようだった。
とりあえず扉の横のノッカーを叩くと、中から男性が現れた。
「何しに来た?」
見かけだけで人を判断してはいけない。そう思いながらも、現れた男性はいかにも怪しげな雰囲気を醸し出していた。
背はマリベルより少し高い。麻のシャツと革のベスト。同じく茶色の革のズボンを履いていて、腕はマリベルの倍はありそうだ。
「ギルドから来ました。これ…」
「入れ」
マリベルが手紙を見せようとしたが、男は全て言い切る前にマリベルを中へ入れた。
「あの、ギルド長から…」
「わかっているから、黙ってついてこい!」
有無を言わさない言い方に、エミリオに似ていると思った。背格好も違うのに、往々にして似た感じの人は多いんだろう。
「悪いが、返事を書くから暫く待ってもらえるかな」
「あ、はい」
入ってすぐの部屋にマリベルを通すと、男はどこかへ行ってしまった。
ほどなく若い女性がお茶をお茶を運んできた。
「ありがとうございます」
建物の場所がちょっと物騒な雰囲気の所だっただけに、マリベルは最初警戒していたが、思ったような感じでは無く、少しほっとしていた。
お茶を置くと女性はさっさと部屋を出て行った。
喉が渇いていたので、マリベルは少し冷めてからお茶を飲んだ。お茶は味が薄くて、飲んだ後少し胃がキリキリした。
マリベルがここに通されてから三十分ほど経ったが、さっきの男性は一向に戻って来ない。
そこへお茶を出してくれた女性が戻ってきた。
「!!」
女性はなぜかマリベルを見て驚いた顔をした。
「あの、先ほどの方はどちらに? まだかかるんでしょうか」
変に思いながらもマリベルが訊ねると、女性は何も言わず慌てて部屋を出て行った。
(嫌な感じね)
そう思いながら待っていると、さっきの女性がまたお茶を持って、戻ってきた。
「あの、もう少しお待ちくださいとのことです。それから、お茶のおかわりです」
「ありがとうございます」
しかし今度はマリベルは特に喉も渇いていなかったし、さっき飲んだときお腹が痛くなったので、飲まないでおこうと思った。
「あのお茶を・・」
「ありがとうございます。でも、先ほどいただいたばかりですし・・」
「飲んでください。飲んでくれないと、こっちが困るんです」
「じゃ、じゃあ、いただきます」
語気も荒く言われた。
なぜ客である自分が強制されて飲まなければいけないのか。そう思いながらも、マリベルは仕方なく少しだけ飲むことにした。
でもさっきの怒り方、この前のプリシラに似ているな。
「ご、ごちそうさま」
「全部、全部飲んで」
女性はさらにマリベルに詰め寄る。
なぜそこまでして飲ませたいのかわからないが、言われるままマリベルはお茶を飲んで、「飲みました。ごちそうさまでした」と、空になったカップを彼女に見せた。
「・・・・・あの、何か?」
今度もまたすぐに出て行くだろうと思っていた女性は、しかし部屋に留まったままで、じっとマリベルの様子を見つめている。
「なんで?」
「え?」
「まだとはどういうことだ! ちゃんと飲ませたんだろうな!」
その時、廊下の方から声が聞こえた。
その声には聞き覚えがあった。
「副ギルド長?」
ギルド長の通達で、冒険者達の取り纏めは軍が行うこと。魔導騎士団はその支援と別働隊とに別れて行動することが告げられた。
「心配ね。近しい人が出陣するなら尚更」
「でも、私だけじゃないわ。同じ想いをしている人は五万といるもの」
自分だけが心配に押し潰されているわけじゃない。出陣した人たちは皆、誰かの子で親で兄弟で、恋人で伴侶だ。たとえフェルのように孤児だったとしても、無事を願う人はいるのだ。
魔物は夜になると活発になる。だから討伐は主に昼の時間帯に行われる。
結界を得意とする者が張った結界内に天幕を張り、暫くは野営をしながら交代で渓谷へと向かう。
回復術士や治療魔法を得意とする冒険者は後方支援にまわる。
マリベルも回復術士だったが、普段から兼務だったこともあり、医務室での待機だ。
もし回復術士の補充が必要となった場合は、要請がかかるかもしれない。
渓谷のことはまだ何の情報も入っていない。連絡がないことはいいことだと、待機している者同士励ましあっていた。
「マリベル、ちょっといいかしら?」
「はい」
そろそろ今日の勤務は終わりだと言う頃、事務職のサリーがマリベルを訪ねてきた。
「ちょっとお使いを頼まれてほしいの」
「お使い…ですか?」
「ええ、ここに行って、この手紙を渡してきてほしいの。あなたの家の方向でしょ?」
そう言って住所を書いたメモと手紙を渡された。
そこは大通りから少し外れた裏通りに面した場所だった。
マリベルの住むアパートに行く途中ではあるが、そういう場所なので行ったことはなかった。
「ここへ…これを?」
「ええ、ギルド長の知り合いみたいなんだけど、ギルド長はほら、今すぐに行けないでしょ、お願いね。あ、渡したらそのまま帰っていいから」
ギルド長の? 自分が行けないからと代理を立てるのはわかるが、どうしてマリベルに頼むのか。
「わかりました」
それでもマリベルはギルド長のことは信頼していた。彼の経歴は父と似ていて、人としてもとても好感が持てる。
「ここ?」
土地勘はあったので迷わなかったが、書かれた住所に立つ建物は手入れがまったく行き届いていない、ボロボロの廃屋のようだった。
とりあえず扉の横のノッカーを叩くと、中から男性が現れた。
「何しに来た?」
見かけだけで人を判断してはいけない。そう思いながらも、現れた男性はいかにも怪しげな雰囲気を醸し出していた。
背はマリベルより少し高い。麻のシャツと革のベスト。同じく茶色の革のズボンを履いていて、腕はマリベルの倍はありそうだ。
「ギルドから来ました。これ…」
「入れ」
マリベルが手紙を見せようとしたが、男は全て言い切る前にマリベルを中へ入れた。
「あの、ギルド長から…」
「わかっているから、黙ってついてこい!」
有無を言わさない言い方に、エミリオに似ていると思った。背格好も違うのに、往々にして似た感じの人は多いんだろう。
「悪いが、返事を書くから暫く待ってもらえるかな」
「あ、はい」
入ってすぐの部屋にマリベルを通すと、男はどこかへ行ってしまった。
ほどなく若い女性がお茶をお茶を運んできた。
「ありがとうございます」
建物の場所がちょっと物騒な雰囲気の所だっただけに、マリベルは最初警戒していたが、思ったような感じでは無く、少しほっとしていた。
お茶を置くと女性はさっさと部屋を出て行った。
喉が渇いていたので、マリベルは少し冷めてからお茶を飲んだ。お茶は味が薄くて、飲んだ後少し胃がキリキリした。
マリベルがここに通されてから三十分ほど経ったが、さっきの男性は一向に戻って来ない。
そこへお茶を出してくれた女性が戻ってきた。
「!!」
女性はなぜかマリベルを見て驚いた顔をした。
「あの、先ほどの方はどちらに? まだかかるんでしょうか」
変に思いながらもマリベルが訊ねると、女性は何も言わず慌てて部屋を出て行った。
(嫌な感じね)
そう思いながら待っていると、さっきの女性がまたお茶を持って、戻ってきた。
「あの、もう少しお待ちくださいとのことです。それから、お茶のおかわりです」
「ありがとうございます」
しかし今度はマリベルは特に喉も渇いていなかったし、さっき飲んだときお腹が痛くなったので、飲まないでおこうと思った。
「あのお茶を・・」
「ありがとうございます。でも、先ほどいただいたばかりですし・・」
「飲んでください。飲んでくれないと、こっちが困るんです」
「じゃ、じゃあ、いただきます」
語気も荒く言われた。
なぜ客である自分が強制されて飲まなければいけないのか。そう思いながらも、マリベルは仕方なく少しだけ飲むことにした。
でもさっきの怒り方、この前のプリシラに似ているな。
「ご、ごちそうさま」
「全部、全部飲んで」
女性はさらにマリベルに詰め寄る。
なぜそこまでして飲ませたいのかわからないが、言われるままマリベルはお茶を飲んで、「飲みました。ごちそうさまでした」と、空になったカップを彼女に見せた。
「・・・・・あの、何か?」
今度もまたすぐに出て行くだろうと思っていた女性は、しかし部屋に留まったままで、じっとマリベルの様子を見つめている。
「なんで?」
「え?」
「まだとはどういうことだ! ちゃんと飲ませたんだろうな!」
その時、廊下の方から声が聞こえた。
その声には聞き覚えがあった。
「副ギルド長?」
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