転生して要人警護やってます

七夜かなた

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42 兄と弟

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公爵邸での侵入者事件を受けて、王宮では今後の方針についての話し合いが行われていた。

出席者は国王イースフォルド、宰相、第二、第三近衛騎士団の団長及び副団長。そしてキルヒライル。

「それで、こちらには被害はなかったのだな」

国王が確認する。

「はい。優秀な者たちを手配していただいたおかげで」

キルヒライルはちらりと兄と宰相に視線を向ける。

特に隠そうとしたわけではないが、あっさりと見破られていたことに、二人は苦笑いしている。

「手引きした者について、現在その背後を探っておりますが、それについては私の調査不足と言えます。申し訳ありません」

敷地内に仲間を引き込んだ門番。今回一番重症だった男についても、宰相はきちんと身元を確認していた。
始めからそのつもりで潜り込んだのか、それとも雇った後に懐柔されたのかも含め、今宰相邸で尋問を行っている。
何か新たな事実がわかり次第、こちらへ連絡が入ることになっている。

宰相のジーク・テインリヒ伯爵の家系は、宰相を多く排出してきた傍ら、国の暗部について采配をふるってきた。
例え近衛騎士団と言えど、捕縛することをためらう高位の貴族が犯罪に手を染めた際に、先祖代々王からの勅命を受けて対応してきた。

その地下には王宮のものよりも強固な牢屋や尋問部屋があると噂だ。

「ところで、今回の件ですが……」

ハレス子爵が切り出す。

「公爵様のお命を狙ったにしては、いささか侵入者の腕が劣るのではないでしょうか?もちろん、邸にいた者が侵入者を上回る腕前だったとしても」

「それは、某も同意見です」

そう言ったのは第三近衛騎士団団長ハロルド・ウォリスだった。
貴族出身者が殆どの第一、第二近衛騎士団と違い、その殆どが平民の出で構成される第三近衛騎士団にあって、彼ももとは商家の出だ。

爵位は与えれることはないが、近衛騎士団において大隊長の地位までになると、準貴族という身分が与えられる。世襲の貴族と違い一代だけの身分のため、息子がその身分を継承することはないが、身分を与えられた者がその地位にいる限りは家族も同列に扱われる。
そして親が準貴族となった子どもたちは爵位を継ぐことはなくても、平民と貴族の身分差は大目に見てもらえるので、王の許可があれば生粋の貴族と婚姻を結んだり、軍部の会議でも貴族と同じだけの権力と発言権が認められている。

したがって、彼やその部下である第三近衛騎士団副団長のアルフレッド・ボイルが王や王弟が参加する会議に出席し、意見を述べることを咎めることはない。

「今回捕らえた輩は、王都でも有名な札付きですが、喧嘩なれして腕が立つと言っても、正式に訓練を積んでいるわけでないでしょう。なのに、今回の襲撃の一員に抜擢された」

「何か裏があると?」

そう問いかけたのは第二近衛騎士団団長ユリアス・ソーヤ伯爵で、ハレス子爵の上官だ。

「考えられる可能性はいくつかあります」

「それは何だ?ジーク」

それまで黙って話を聞いていた王が続きを促す。

それに対して宰相が上げた可能性は次のようなものだった。

1 単に動かせる駒が彼らしかいなかった。

2 今回はあくまで狙われているぞ、という脅し。

3 一度失敗しているので、暫く襲ってくることはないだろうと油断させる。または、警戒を強めさせる。

4 公爵が狙われていると思わせて、こちらの警戒が公爵に集中するように仕向け、本当のターゲットは別にいる。

5 すぐに襲ってくると思わせてこちらの警戒が長引けば、そのうち疲弊して、こちらから陥落するようにさせる。

「ざっと思い付くのは、こんなものでしょうか」

思い付いた案について発言する度に指を一本一本たて、右手の五本指全部を立てて、宰相がそう言う。

「どれも一理あるが、一番最初の案は、些か安直ではないか?」

「あくまで可能性ですので、陛下のご指摘はごもっともだと思います」

「二つ目の案は、普通なら脅しもきくでしょうが、キルヒライル様があの程度のことで尻尾を撒いて引きこもるお方でないと、殿下のことを存じ上げている者ならわかるでしょう」

「それは、私を誉めてくれているのか、ソーヤ伯爵」

国王と同じ年で学友でもあるソーヤ伯爵は、王弟であるキルヒライルのこともよく知っている。

「殿下は昔から兄上であるイース様大好き人間ですからね。王の手足となるため、武術も勉強も人一倍努力されてこられたのを存じ上げております。殿下が尻尾を撒いて逃げれば、陛下やそのご家族に危険が及ぶ確率があがる可能性がある限り、そのようなことはなさらないかと」

ソーヤ伯爵の言葉に誰もが納得したが、一人兄である国王は気に入らない様子だった。

「国王としては何にも変えがたい忠義だが、兄としては受け入れがたい。もう少し自分を大事にしろ。お前の体に傷が増える度に、私はいたたまれない気持ちになる。弟は兄の代用品でも下僕でもない」

「わかっています。私が兄上を尊敬し、勝手にそうしているのです」

強制ではない。好きでやっている。これは自分の意思だと言われれば、それ以上何も言えない。
ここまで弟に慕われて喜ばないわけにいかない。
照れ隠しに王は弟が唯一嫌がる話題を持ち出した。

「お前ももう二十八だ。そろそろ、身を固める覚悟もしておけ。この前の宴でも年配の既婚者や結婚の決まっている女性ばかりと踊って、年頃のご令嬢とはまったくだったではないか」

「今は、それどころではありません。マイン国の王とも不戦の条約は締結しましたが、それとて一代限りのものかも知れませんし、この国内にいる黒幕の存在も、まだ掴みきれていないのですから」

先ほどの余裕のある態度とは変わり、図星を刺されて途端に慌てて反論する。

「覚悟をしておけと言っているのだ。何も今すぐとは言っていない。マイン国でもいい相手は見つからなかったのか?」

王の質問に、その場にいた全員が興味津々に自分を見たため、ますます焦る。

「遊びに行っていたわけではないのです」

なんだ、と皆ががっかりした。

「どうしてそっちの話になるんですか、今はそのために集まっているわけではないでしょう」

無理矢理話を戻そうとするが、自分以外は全員妻帯者であるため、一番年若いキルヒライルの抗議などまるで取り合ってくれない。

「それで、どんな女性が好みなのだ?まさか、男が好みとか?」

「兄上!」

「宴と言えば、この前の宴で破れた衣装の踊り子にさっとご自分のご衣装を差し出された対応は、なかなかでしたね」

あの場にいたソーヤ伯爵がそう言うと、キルヒライルだけでなく、宰相とハレス子爵もぎくりとした。

王とソーヤ伯爵、ボイルもキルヒライルの顔色をうかがっていたので、宰相たちが目配せしあったのには気づかなかった。

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