178 / 266
177 占い師の正体
しおりを挟む
襲撃犯たちはただ金で雇われただけで、どんなに拷問しても何の情報も得られなかった。
それを思えば今回の三人は、彼らよりフィリップ司祭たちの近くいて、これまで得られなかった事実が次々と明るみになり、事態はかなり進展したと言える。
「デリヒの娘についても、やはり彼らの仕業か?」
ウィリアムさんが訊ねる。
「昨夜捕らえた中にレベロという名の人物がいます。彼は古くからフィリップ司祭たちの側に居たようです。同じように彼らの側にマヤと言う女がいるそうです。レベロが白状したところによると、その女が消えたメイというメイドだと」
「では、そのメイドが手引きしてデリヒの娘に引き合わせた占い師については?」
メイというメイドが彼らの仲間の一人と言うなら、アネット嬢が言う占い師も実際に存在した可能性が高い。
「それが……」
クリスさんとレイさんが顔を見合せ、笑いをこらえたように口許を歪める。
「何だ?何かあるのか?」
「取り調べでアネット嬢は占い師について男か女かも覚えていないと言っていましたが、それはあながち嘘ではありませんでした」
クリスさんが先に口を開き、隣でレイさんが堪えきれず笑い声をクスクス洩らす。
「占い師は女装したレベロ自身だそうです。目から下をベールで被って裏声で話しただけなので、完璧とは言えなかったそうですが、自分が興味のないことには全く注意を払わないアネット嬢にはそれで十分だったみたいです」
「それは………」
レベロの変装がどの程度のものだったか想像するしかないが、それで騙されるアネット嬢もかなりのものだ。
皆が苦笑混じりに互いを見合う。
「彼女は、父親の死を知っているのか?」
殿下の問いにまたもや二人は顔を見合せ、今度はレイさんが答える。
「はい……引き取ったデリヒの遺体を確認した使用人が彼女に面会した際に話をしました。奥方は知らせを聞いてその場で倒れたと。遺体の確認にやって来た家令が申しておりました」
「かなり取り乱したでしょうね」
同じように父を亡くした私は彼女の気持ちに、自分の気持ちを重ねる。
ジャックさんたちを送り出してから詰所に行っていたクリスさんたちは、私の事情を知らない。
私の言葉は身内を亡くした者に対する単なる同情に聞こえたかも知れない。
けれど、私が同じように父を殺された事情を聞いていた殿下たちは、私の言葉に込められた感情に気づいたようだ。
「まあ、かなり取り乱しはしたみたい……だな」
歯切れの悪いクリスさんの言い方が予想とは違ったことに違和感を覚えた。
「取り乱しはした。だが、それは父親が殺されたからではない。ただ自分のこれからの身を愁いてのことだ」
「俺たちが行った時もまだ喚いていた。殿下に会わせろと。もはや殿下に対する礼儀もない」
「あれは完全に育て方を間違えたな」
父の死を悲しむでもなく、それを受け止める度量もない。ただ我が身の境遇にしか関心がないアネットに対し、クリスさんたちからは侮蔑の表情しか見えない。
「なかなか……おもしろいお嬢さんのようですね。余程大切に育てられたのでしょう」
彼女を直接知らないアリアーデ先生以外は、クリスさんたちの話を聞いて皮肉を込めた言い方をした。
「ところで、メイというメイドのことも、占い師のことも一応は彼女の言うとおりでした。もう彼女に対する取り調べは不要でしょう。しかし踊らされていたとは言え、殿下に薬を飲ませたことは事実です。彼女の処罰についてはいかがなされますか?」
「厳罰は免れません。毒ではないにしろ王族に薬を盛った事実は事実」
王都の公爵邸で忍び込んだ者たちは環境の厳しい監獄に送られた。
農場の視察の際に襲ってきた者たちも拷問を受けた後どうしたかは聞いていないが、既にこの地にはいない。同じ所に送られたか、同等の罰を受けたに違いない。
王族に手を出した。アネット嬢だけでは成し得なかった。フィリップ司祭たちにいいように使われただけ。
例え計略によりそう仕向けられたとは言え、その罪が消えるわけではない。
女と言えど情状酌量の余地はない。
それを思えば今回の三人は、彼らよりフィリップ司祭たちの近くいて、これまで得られなかった事実が次々と明るみになり、事態はかなり進展したと言える。
「デリヒの娘についても、やはり彼らの仕業か?」
ウィリアムさんが訊ねる。
「昨夜捕らえた中にレベロという名の人物がいます。彼は古くからフィリップ司祭たちの側に居たようです。同じように彼らの側にマヤと言う女がいるそうです。レベロが白状したところによると、その女が消えたメイというメイドだと」
「では、そのメイドが手引きしてデリヒの娘に引き合わせた占い師については?」
メイというメイドが彼らの仲間の一人と言うなら、アネット嬢が言う占い師も実際に存在した可能性が高い。
「それが……」
クリスさんとレイさんが顔を見合せ、笑いをこらえたように口許を歪める。
「何だ?何かあるのか?」
「取り調べでアネット嬢は占い師について男か女かも覚えていないと言っていましたが、それはあながち嘘ではありませんでした」
クリスさんが先に口を開き、隣でレイさんが堪えきれず笑い声をクスクス洩らす。
「占い師は女装したレベロ自身だそうです。目から下をベールで被って裏声で話しただけなので、完璧とは言えなかったそうですが、自分が興味のないことには全く注意を払わないアネット嬢にはそれで十分だったみたいです」
「それは………」
レベロの変装がどの程度のものだったか想像するしかないが、それで騙されるアネット嬢もかなりのものだ。
皆が苦笑混じりに互いを見合う。
「彼女は、父親の死を知っているのか?」
殿下の問いにまたもや二人は顔を見合せ、今度はレイさんが答える。
「はい……引き取ったデリヒの遺体を確認した使用人が彼女に面会した際に話をしました。奥方は知らせを聞いてその場で倒れたと。遺体の確認にやって来た家令が申しておりました」
「かなり取り乱したでしょうね」
同じように父を亡くした私は彼女の気持ちに、自分の気持ちを重ねる。
ジャックさんたちを送り出してから詰所に行っていたクリスさんたちは、私の事情を知らない。
私の言葉は身内を亡くした者に対する単なる同情に聞こえたかも知れない。
けれど、私が同じように父を殺された事情を聞いていた殿下たちは、私の言葉に込められた感情に気づいたようだ。
「まあ、かなり取り乱しはしたみたい……だな」
歯切れの悪いクリスさんの言い方が予想とは違ったことに違和感を覚えた。
「取り乱しはした。だが、それは父親が殺されたからではない。ただ自分のこれからの身を愁いてのことだ」
「俺たちが行った時もまだ喚いていた。殿下に会わせろと。もはや殿下に対する礼儀もない」
「あれは完全に育て方を間違えたな」
父の死を悲しむでもなく、それを受け止める度量もない。ただ我が身の境遇にしか関心がないアネットに対し、クリスさんたちからは侮蔑の表情しか見えない。
「なかなか……おもしろいお嬢さんのようですね。余程大切に育てられたのでしょう」
彼女を直接知らないアリアーデ先生以外は、クリスさんたちの話を聞いて皮肉を込めた言い方をした。
「ところで、メイというメイドのことも、占い師のことも一応は彼女の言うとおりでした。もう彼女に対する取り調べは不要でしょう。しかし踊らされていたとは言え、殿下に薬を飲ませたことは事実です。彼女の処罰についてはいかがなされますか?」
「厳罰は免れません。毒ではないにしろ王族に薬を盛った事実は事実」
王都の公爵邸で忍び込んだ者たちは環境の厳しい監獄に送られた。
農場の視察の際に襲ってきた者たちも拷問を受けた後どうしたかは聞いていないが、既にこの地にはいない。同じ所に送られたか、同等の罰を受けたに違いない。
王族に手を出した。アネット嬢だけでは成し得なかった。フィリップ司祭たちにいいように使われただけ。
例え計略によりそう仕向けられたとは言え、その罪が消えるわけではない。
女と言えど情状酌量の余地はない。
1
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
【完結】赤ちゃんが生まれたら殺されるようです
白崎りか
恋愛
もうすぐ赤ちゃんが生まれる。
ドレスの上から、ふくらんだお腹をなでる。
「はやく出ておいで。私の赤ちゃん」
ある日、アリシアは見てしまう。
夫が、ベッドの上で、メイドと口づけをしているのを!
「どうして、メイドのお腹にも、赤ちゃんがいるの?!」
「赤ちゃんが生まれたら、私は殺されるの?」
夫とメイドは、アリシアの殺害を計画していた。
自分たちの子供を跡継ぎにして、辺境伯家を乗っ取ろうとしているのだ。
ドラゴンの力で、前世の記憶を取り戻したアリシアは、自由を手に入れるために裁判で戦う。
※1話と2話は短編版と内容は同じですが、設定を少し変えています。
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
偉物騎士様の裏の顔~告白を断ったらムカつく程に執着されたので、徹底的に拒絶した結果~
甘寧
恋愛
「結婚を前提にお付き合いを─」
「全力でお断りします」
主人公であるティナは、園遊会と言う公の場で色気と魅了が服を着ていると言われるユリウスに告白される。
だが、それは罰ゲームで言わされていると言うことを知っているティナは即答で断りを入れた。
…それがよくなかった。プライドを傷けられたユリウスはティナに執着するようになる。そうティナは解釈していたが、ユリウスの本心は違う様で…
一方、ユリウスに関心を持たれたティナの事を面白くないと思う令嬢がいるのも必然。
令嬢達からの嫌がらせと、ユリウスの病的までの執着から逃げる日々だったが……
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる