【完結】TL小説の悪役令息は死にたくないので不憫系当て馬の義兄を今日もヨイショします

七夜かなた

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76  ジュスト①

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バシャン

冷水を浴びせられ目が覚めた。
ポタポタと髪から水が滴り落ち、濡れて張り付いた前髪の隙間からジュストは目の前の人物を睨んだ。

「王太子の側近とは随分立派になったものだな。悪魔のくせに」

男は馬鞭を額めがけて振るった。

「・・・・くっ」

唇を噛みしめてジュストは悲鳴を堪えた。
熱いものが額を流れる。癒えたばかりの傷からまた血が流れる。
ジュストは天井から吊した鎖に両手を挙げた状態で繋がれて、狩られた鹿のように釣り上げられている。裸足の足のつま先だけが辛うじて着いている。
髪は乾いた血で固まり、体中擦り傷と打撲だらけだった。
身につけていたシャツもズボンも破れ、もはや衣服の体を成していない。

「まだ・・こんなことを続けていたとは、あんたも芸がないな」
「黙れ、生意気な!」

男がもう一度大きく腕を振り上げて顔の横を鞭で打った。

「ひいいい」

ジュストのいる向かいの檻から、悲鳴が上がる。

「お前自分の立場が解っていないのか! なめた口を利きやがって」

頬が痩せこけ、目ばかりがギョロギョロとトカゲのような男は、唾を飛ばしながらジュストに叫んだ。

「いいか、お前が大人しくしないと、あいつらが痛い目にあうことになる」

男が隅に身を寄せ合って固まっている子どもたちを指差す。
髪の色や年齢、性別はバラバラな子どもたちが五人ほど粗末な衣服を着て、裸足でうずくまっている。体中痣や傷だらけで、既に何度か痛めつけられているのがわかる。

「下衆が」
「口に気をつけろと言っただろ? 体格のいい男がどこまでもつか観物だな…子供だとすぐにくたばってしまって、面白くなかった」

面白いとか、人をいたぶっておいて感じることはそんな感情なのか。

「狂ってる」

しかし、自分が耐えなくては、あの小さな子供たちが標的になる。
中の一人は横たわったままで、生きているのかも怪しい。

ここに連れてこられてどれくらい経っただろう。体感的にはまだ四日ほどだろうか。
気を失い、地面に転がされていたこともあるので、はっきりわからない。

光の刺さない暗い地下室らしいところで、燃える蠟燭の芯の焼ける匂い、血の匂い、排泄物の匂いが混じり、鼻が折れそうになる。

天井の鎖から外されても両手首と両足首に鎖で繋がった鉄輪が嵌められているので、動きが封じられている。
第一、鉄格子の中に閉じ込められているので、その鍵がなければ逃げることもできない。

(この匂い、この感じ…同じだ)

ここに連れてこられてすぐに、ジュストは何度も見てきた悪夢を思い出した。

あまりに幼かったため、ここに来る前のこと、自分の名前も両親のことも、彼は忘れてしまった。
ここでの虐待の日々に心は壊れ、ただ空腹を満たすためだけに、獣のように与えられた食べ物を口にしていた。
それでも満足は量は与えられなかったため、常に空腹に苦しみ、食べ物のことだけを考えていた。

何度も殴られ、傷が癒える前にまた殴られ、いつの間にか一人、また一人と消えて行った。
なぜこんな目にあうのか。
同じように赤い目をした仲間たち。
この目が悪いのか。
それでも、時折悪夢の中に優しく声をかけて頭を撫でてくれる人の記憶が蘇った。
その夢はとても温かった。

転機が訪れたのはいつだったか。
ある時、自分たちのいる場所にも水が流れ込んできた。
次第に水嵩は増し、必死で水中から顔を出して呼吸した。
体中に付いた傷に水が染み、傷口からはまた血が流れ出した。
顔が天井に後少しというところで、水は止まったが、泳ぎ切る体力のない者が何人か溺死した。
今思えば、なぜあんなに必死に水から逃げようとしたのかわからない。
この苦しみが続くなら、あのまま死んでも良かったと思った。

ようやく水が引き始めた時、見知らぬ人たちがやってきた。

濡れそぼったまま、寒さと飢え、膿んだ傷の痛みと発熱に意識朦朧としていた。

そして気がついたら、とても綺麗なベッドで、破れていない服を着せられていた。
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