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25 燕の想い
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和音が部屋に案内されている時、燕はトリヴィスと共に地下へ降りていた。
そこは核兵器に攻撃されてもビクともしないほどに頑丈に設計された部屋で、その中央には玉座のように立派な椅子が置かれていた。
「待たせた」
そこに燕が腰掛けるや否や、目の前の何も無い空間に五体の立体映像が現れた。
男性が三人の女性が二人、共通しているのは燕と似たようの容姿だということ。
「襲われたと伺いましたが…」
女性の一人がしゃべった。
「大丈夫だ。どうやら威嚇だったようだ」
「捕らえ損ねたのですか?」
「こちらはヘリコプターだったし、向こうは恐らく『自由の女神』像のクラウンに登った見学者に混じっていた。痕跡を辿ってみたが、それで捕まるヘマはしないだろう。そうでなければ、これほど長期間我々の監視の目を掻い潜って、追跡を退けて活動を続けることはできない」
「敵を褒めるのですか? 燕様」
「褒めていない、事実だ。ピエタ」
ギロリと今発言したピエタに睨みをきかす。
「燕様を狙ったのでしょうか。それとも…」
「わからない。だが、私も少し浮かれていたことは認める。少しでも早く彼女の元へ駆けつけるために、能力や地球での権力を行使したから、感づかれたのだろう」
「お気持ちはわかりますよ燕。私も経験がありますから」
五人の中で一番年長らしき男性が燕の気持ちに同調する。
「わかってくれるか雲嵐」
「わかります。我が子を身に宿した女人と初めて出会った衝撃。そこだけが輝いて見え、目が釘付けになり、心臓が鷲掴みにされたようでした。そしてその人の側にいるだけで、鼓動が激しく脈打ち、五感の全てがそこに集中する」
「そうなのだ。以前にお前から聞いていたが、そんなものはまやかし、大げさだと思っていた。だか実際に自分が同じ境遇になると、言っていた意味がよくわかった」
肘掛けに肘を突き、燕は目を細める。
「ようやくご理解いただきけましたか。そのようなお顔を見るのは初めてです」
「水を指すようですが、間違いなく彼らだったのですね」
デレる男二人に割って入ってもう一人の男性が発言した。
「間違いない。あれは『やつ』だ。波動を感じた」
「では、燕様のお子が出来たことも、知られていると考えた方がよろしいですね。万が一ということがあります」
「そこにいる限りは安全でしょうが」
「そういうわけだ。暫く私はここから動けない。何かあれば頼む」
「出産まで付き添われるつもりですか?」
「出来れば。仕事はある程度ここから出来る。今までもそうしてきた。引き続き捜索は続けるが、フォローを頼む」
「承知しました」
「お気をつけて」
「お任せください」
それぞれに挨拶をして一人ずつ立体映像が消えていく中、最後に雲嵐が残った。
「雲嵐、まだ何か?」
「差し出がましいとは思いますが、よろしいでしょうか」
「言ってみろ」
「お気持ちはわかりますが、四六時中べったりはさすがにいかがかと。心配なのはわかりますが、それでは息が詰まってしまいます。よもや、無理矢理押し倒したりなさっていませんよね」
「押し………それは…………ない」
一瞬燕の脳裏にホテルでのことが頭を過ぎった。
物理的には押し倒したことになるのか?
という疑問が湧き、そのせいで返事が遅れた。
それを肯定と受け止めたのがわかった。
「何が悪い?」
燕が言い訳もせず開き直って胸を張った。
「悪いというか・・地球では色々な課程で夫婦になりますが、トゥールラーク人は地球のように出会って恋をして結婚という手順から始まりません。まず子を成し後に夫婦となる。そして一度結びつけばその繋がりは切れることはありません。どちらかが死ぬまで。ゆえに溺愛したい気持ちはわかります。ですが、相手のペースも考えてください」
「わかっている。だが、気持ちを口にし行動しなければ伝わるものも伝わらないだろう?」
「それはそうですが」
「雲嵐様、その件は我々にお任せください」
それまで黙っていたトリヴィスが進み出てきた。
「私もルーラもおります。燕様の初めての大事なお方です。我々も心してお仕えする所存です」
「まあ、お前達がいるなら安心か」
雲嵐はそれだけ言って映像を切った。
「私はお目付役がなければ大事な女性も守れない半端者ではないぞ」
トリヴィスと二人になって燕は不満げに言った。
「わかっております。ですが、いかに燕様でも、未経験の分野はあります。妊娠もそのひとつ」
「確かに、この世に生を受けて、地球で言えばもうすぐ五百年。未だ知らないことがある。この百年ずっと探していた相手が和音だ」
「これまで燕様はお父上の後を継いでから、地球にいるトゥールラーク人のために全てを捧げてこられました。そのことは皆わかっております」
「『彼ら』はそう思っていないようだ」
「それは、燕様だけのせいではありません」
「私は和音を幸せにできると思うか?」
「はい。何より燕様は深い愛情をお持ちです。それは和音様にも伝わる筈・・もうすでに伝わっていると思います」
「そうだといいが」
「和音様は、子を堕ろすことを一片もお考えにならなかったと伺いました。思いがけない妊娠だったにも関わらず。充分愛情深い方だと思います。いずれ燕様にもその愛情を向けてくださいます」
「それが理想だが、別に私は自分と同じだけ愛してほしいとは思っていない」
「さようでございますか」
「ああ、たとえ嫌われても、私が彼女を・・彼女と子どもを愛せればそれでいい」
そこは核兵器に攻撃されてもビクともしないほどに頑丈に設計された部屋で、その中央には玉座のように立派な椅子が置かれていた。
「待たせた」
そこに燕が腰掛けるや否や、目の前の何も無い空間に五体の立体映像が現れた。
男性が三人の女性が二人、共通しているのは燕と似たようの容姿だということ。
「襲われたと伺いましたが…」
女性の一人がしゃべった。
「大丈夫だ。どうやら威嚇だったようだ」
「捕らえ損ねたのですか?」
「こちらはヘリコプターだったし、向こうは恐らく『自由の女神』像のクラウンに登った見学者に混じっていた。痕跡を辿ってみたが、それで捕まるヘマはしないだろう。そうでなければ、これほど長期間我々の監視の目を掻い潜って、追跡を退けて活動を続けることはできない」
「敵を褒めるのですか? 燕様」
「褒めていない、事実だ。ピエタ」
ギロリと今発言したピエタに睨みをきかす。
「燕様を狙ったのでしょうか。それとも…」
「わからない。だが、私も少し浮かれていたことは認める。少しでも早く彼女の元へ駆けつけるために、能力や地球での権力を行使したから、感づかれたのだろう」
「お気持ちはわかりますよ燕。私も経験がありますから」
五人の中で一番年長らしき男性が燕の気持ちに同調する。
「わかってくれるか雲嵐」
「わかります。我が子を身に宿した女人と初めて出会った衝撃。そこだけが輝いて見え、目が釘付けになり、心臓が鷲掴みにされたようでした。そしてその人の側にいるだけで、鼓動が激しく脈打ち、五感の全てがそこに集中する」
「そうなのだ。以前にお前から聞いていたが、そんなものはまやかし、大げさだと思っていた。だか実際に自分が同じ境遇になると、言っていた意味がよくわかった」
肘掛けに肘を突き、燕は目を細める。
「ようやくご理解いただきけましたか。そのようなお顔を見るのは初めてです」
「水を指すようですが、間違いなく彼らだったのですね」
デレる男二人に割って入ってもう一人の男性が発言した。
「間違いない。あれは『やつ』だ。波動を感じた」
「では、燕様のお子が出来たことも、知られていると考えた方がよろしいですね。万が一ということがあります」
「そこにいる限りは安全でしょうが」
「そういうわけだ。暫く私はここから動けない。何かあれば頼む」
「出産まで付き添われるつもりですか?」
「出来れば。仕事はある程度ここから出来る。今までもそうしてきた。引き続き捜索は続けるが、フォローを頼む」
「承知しました」
「お気をつけて」
「お任せください」
それぞれに挨拶をして一人ずつ立体映像が消えていく中、最後に雲嵐が残った。
「雲嵐、まだ何か?」
「差し出がましいとは思いますが、よろしいでしょうか」
「言ってみろ」
「お気持ちはわかりますが、四六時中べったりはさすがにいかがかと。心配なのはわかりますが、それでは息が詰まってしまいます。よもや、無理矢理押し倒したりなさっていませんよね」
「押し………それは…………ない」
一瞬燕の脳裏にホテルでのことが頭を過ぎった。
物理的には押し倒したことになるのか?
という疑問が湧き、そのせいで返事が遅れた。
それを肯定と受け止めたのがわかった。
「何が悪い?」
燕が言い訳もせず開き直って胸を張った。
「悪いというか・・地球では色々な課程で夫婦になりますが、トゥールラーク人は地球のように出会って恋をして結婚という手順から始まりません。まず子を成し後に夫婦となる。そして一度結びつけばその繋がりは切れることはありません。どちらかが死ぬまで。ゆえに溺愛したい気持ちはわかります。ですが、相手のペースも考えてください」
「わかっている。だが、気持ちを口にし行動しなければ伝わるものも伝わらないだろう?」
「それはそうですが」
「雲嵐様、その件は我々にお任せください」
それまで黙っていたトリヴィスが進み出てきた。
「私もルーラもおります。燕様の初めての大事なお方です。我々も心してお仕えする所存です」
「まあ、お前達がいるなら安心か」
雲嵐はそれだけ言って映像を切った。
「私はお目付役がなければ大事な女性も守れない半端者ではないぞ」
トリヴィスと二人になって燕は不満げに言った。
「わかっております。ですが、いかに燕様でも、未経験の分野はあります。妊娠もそのひとつ」
「確かに、この世に生を受けて、地球で言えばもうすぐ五百年。未だ知らないことがある。この百年ずっと探していた相手が和音だ」
「これまで燕様はお父上の後を継いでから、地球にいるトゥールラーク人のために全てを捧げてこられました。そのことは皆わかっております」
「『彼ら』はそう思っていないようだ」
「それは、燕様だけのせいではありません」
「私は和音を幸せにできると思うか?」
「はい。何より燕様は深い愛情をお持ちです。それは和音様にも伝わる筈・・もうすでに伝わっていると思います」
「そうだといいが」
「和音様は、子を堕ろすことを一片もお考えにならなかったと伺いました。思いがけない妊娠だったにも関わらず。充分愛情深い方だと思います。いずれ燕様にもその愛情を向けてくださいます」
「それが理想だが、別に私は自分と同じだけ愛してほしいとは思っていない」
「さようでございますか」
「ああ、たとえ嫌われても、私が彼女を・・彼女と子どもを愛せればそれでいい」
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