【完結】ご懐妊から始まる溺愛〜お相手は宇宙人

七夜かなた

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48 悪い宇宙人だとしても

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高野は和音をバスルームから引きずり出す。

「痛い、離して」

きつく腕を掴まれて和音は抗議して藻掻いたが、高野は聞く耳を持たなかった。

「あ!」

再びソファへ和音を投げ捨てるように座らせ、彼女はポケットから携帯電話を取り出し、どこかへ電話をかけた。

「高野です。初回の説得は失敗です。はい、そうです。あちらの洗脳が思ったより強固なようです。もしくはそもそもの人選間違いかも知れません。本当のことを知っても何が問題なのか理解できない、自分で思考することが出来ない者もいますから」

電話の向こうの相手が誰かわからないがホワイトブラッドの人なのだとわかる。
それより「自分で思考することも出来ない者」というのは状況から考えて和音のことだろうか。

「はい、では、そのようにします。失礼します」
「私は洗脳なんてされていないわ」

電話を終えた高野に和音が抗議した。

「洗脳された人間が、私は洗脳されていますとは言いません。またすぐ戻ってきます。大人しくしていてください」

高野はそう言って一旦部屋を出て行った。

残された和音は手を腕に回して、自分を守るように抱きしめた。

千年の間ホワイトブラッドは活動を続けてきた。彼らはトゥールラーク人への嫌悪で凝り固まり、何を言っても考えを変えず、和音の言葉を逆手に取ってしまう。
燕たちも彼らの存在を知っているのだろうか。
和音がいなくなったことを知り、それがホワイトブラッドの仕業だと気づいているだろうか。

「ごめん、あなたのこと、出来るだけ護るけど、どうやって護れるのかわからない」

サバイバルなどしたことがない。高野に襲いかかっも歯が立たないことはわかっている。
ここがどこかもわからないし、どうやって出ればいいのかもわからない。

「頼りないお母さんでごめんね」

聞こえてはいないだろうが、この状況で話が出来る相手はこの子しかいないので、つい話しかけてしまう。
もしかしたら、宇宙人の子供だから、何か特別なところがあるかも知れない。
話しかけると、何か反応が返って来る気がする。

「あなたのお父さん、悪い宇宙人だと思う? 私は、たとえ地球人から見たら悪い宇宙人でも、私とあなたに向けてくれた愛情は本物だと思いたい」

子孫を求めるためにこの地球に来たとしても、それがどうだと言うのだろう。
少なくとも燕は和音に良くしてくれた。
ホワイトブラッドや高野たちが言うように、妊娠は一方的なものだった。
母の和美は承諾していたと言うが、それも彼女が死んだ今となっては本当かどうかもわからない。
母を亡くして寂しい思いをしている筈なのに、燕と出会ってから寂しいという気持ちを抱いたことはない。
それは燕がくれたもの。
それに、ヘリに対する攻撃だって、地球人も同乗していたのに、彼らはそんなことお構いなしだった。自分たちが正しいと思い込み、すべてを否定する。目的のためには手段を選ばない遣り方に、正義があるとは思えない。

黒に身を包んだ護衛たちに囲まれ現れた燕を、初めて見たのはまだほんのひと月前のことだ。

光を受けて輝く銀髪、青い瞳。同じ空間に生きているのが不思議に思うような、幻想的な容姿。

和音に向ける熱の籠もった視線も、触れて抱きしめてくれた温かい体も、優しい言葉も、そして重なった唇も、すべて和音を囲い込むための手段だったとは思いたくない。

「燕、あなたに抱いた好意も、まやかしなの? あなたが口にした言葉も、すべて嘘なの?」

自分は騙されやすい単純な人間で、それも込みで選ばれたのだとしたら、よく人を見て選んだと言える。

「燕、会いたい」

会って確かめたい。彼らの言うことが本当だと言うなら真実を彼の口から聞きたい。
お金も豪華な邸も宝石も、贅沢な暮らしもなくていい。
働くこともことも厭わない。
真実がホワイトブラッドの言うとおりだとしても、彼の言動に一片の真実もなかったとは思いたくない。

「あなたも、お父さんのこと悪い宇宙人だと言われたままじゃいやよね」

そこへ高野が戻ってきた。
手には小さなケースを持っている。

そして高野は一人ではなかった。

「それは?」

和音は嫌な予感がして身構えた。

「抑えて」

後ろからついてきた男性二人に高野が命じる。

男たちはさっと近づいて来るのを、和音はその場から立ち上がって逃げようとしたが、狭い室内で逃げる場所なんてない。

「逃げても無駄よ」

すぐに追いつかれて取り抑えられる。

「何をするの!離して」

腕を振り払おうとするが、がっちりと掴まれて振り払えない。

その時、再び画面にXが映った。

「高野、用意は出来たか」

彼女が手にしていたケースから、小さな薬瓶と注射器を取り出した。

「はい、X」
「な、何、それ?」
「安心して、毒じゃないわ」

毒じゃなくても、絶対に和音にとって良いものではないことはわかる。

「本当に残念だよ。あの映像だけで納得してくれると思っていたのに。ここまでするのも君のためだ」

高野が手際よく注射器に薬瓶の液体を入れ、和音に近づいてきた。
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