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第5章 二人の男
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馬車はイヴォンヌを乗せてから、街中を約三十分ほど走った。
途中車輪の音が変わったのは、石畳から土の上を走ったからだろう。
「降りろ」
御者が扉を開け、男が素っ気なく言う。イヴォンヌは文句を言わすに、指示通り動いた。
「ここは…」
そこは木々に囲まれた平屋の建物で、手入れはされているようだが、壁には蔦が這いかなり古そうだった。
イヴォンヌが玄関の扉の前に足を運び、扉についたノッカーを叩くと、中から老齢ながら背筋のピンと伸びた矍鑠とした男性が現れた。
「『黄昏の家』から参り」
「こちらへ」
イヴォンヌが最後まで言い終わらない内に、男性は体をずらしイヴォンヌのために場所を譲った。
彼がイヴォンヌの来訪の理由を知っているなら、きっと胡散臭いと思うだろう。
性に関しては、年配の者ほど忌避感が強い。貞淑、清楚が当たり前の女性が、性に関する仕事をすることに、抵抗を持っているのだ。
しかし、娼婦を蔑みながら、それを利用するのも男。
廊下を歩き、突き当りにある部屋にたどり着く。
「失礼いたします。例の者が到着いたしました」
「通せ」
相手はもう既に待っていて、中から返事が来た。
「入り口近くの部屋にいます。帰る時に声をかけるように」
「わかりました」
扉を開けてもくれず、男性は廊下にイヴォンヌを残して立ち去った。
出張というのは初めてなので勝手がわからない。
「何をしている。入ってこい」
催促の声が聞こえ、イヴォンヌは扉を開けた。
中は蝋燭の灯りだけで、窓は塞がれている。風が感じられたので、どこかに空気孔があるのかも知れない。
中央には大きな寝台があり、そこには既に男性が一人座っていた。
蝋燭の明かりが陰影をつくり、彼の姿を浮かび上がらせる。
組んだ脚も長く、長身だろうことが窺える。襟元がVの字になった黒いシャツと茶色の革ズボンに黒のワークブーツ。濃い茶色の髪は後ろでひとつに束ね、顔には布の仮面を被っている。
「『黄昏の…』」
「さっさと入って扉を閉めろ」
ここでも少し苛立ちを含んだ声で、命令口調で言われる。イヴォンヌは後ろを振り返って扉を閉めてから、ふと気になって部屋の片隅に目を向け驚いた。
扉から死角になっていて気付かなかったが、壁側にもう一人男性がいた。
「あ、あの…」
「彼のことは気にするな」
椅子に座り、同じような服装をした男性も、同じように仮面を被っている。
「まさか二人を相手にしろと?」
「彼は見学するだけだ」
「見学…」
「時間は無限ではない。さっさと始めろ」
組んでいた足を解き、男は後ろには手をついてイヴォンヌに股間が見えるように広げた。
「初めに言っておきますが、私は娼婦ではありません」
「性の奉仕をするのは同じだろう?」
「基本はお客様ご自身同士、例えばご夫婦や恋人でお越しいただき、指導するだけです。もちろん、お一人でお越しになり、睦事の指導を受ける方もいますが、やるのはお客様ご自身です」
「わた…俺に自慰をしろというのか?」
思わず「わたし」と言いかけたのがわかる。無理に「俺」と言おうとしているが、育ちが邪魔をする。貴族の子弟なのがまるわかりだ。
「お手伝いはしますが、どうされますか?」
イヴォンヌは寝台に近づくと、持っていた鞄を床に置いた。
寝台のすぐ横の側机には、洗面器と水差し、そしてタオルが置かれている。その横に鞄から取り出したものを順番に並べて行った。
「それはなんだ?」
「これは香油。そしてこれが潤滑液です」
「毒ではないのだな」
「もちろんです」
水差しの水を洗面器に注ぎ、そこに香油を垂らす。そしてその水で手を洗った。
「何をしている?」
「お客様の肌に触れるので、清潔にしております」
手の水分をタオルで拭い、イヴォンヌは男に向き直った。
「どうされますか? 自分で出しますか? それともズボンの前を開けるところからお手伝いしますか?」
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