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第14話 さてと、ブートキャンプの開幕です。

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 次の日もアッシュ達は、私達が朝食を食べて少しまったりと過ごしていた頃にやってきた。


「兄上、お早うございます。今日もよろしくお願いします!」


「「「「「よろしくお願いします!!」」」」」


 アッシュもそうだが、取り巻き達も今日はこちらを見下げる態度ではなく、教えを請う態度でこちらに接してきた。どちらにせよ心身ともにボロボロになるまで鍛えるつもりだけどね。


「今日も森へと向かうけど、魔物とは戦わないから、安心して。」


 全員がうなずくと、私達は森へと向かって行った。ちなみにウルヴとアインには別行動でトリニトの治安維持と狩りをそれぞれお願いしていた。ラヒラスは木騎馬を始めとした魔導具の作成だ。現地へ到着したので、今日の予定をみんなに話した。


「昨日の動きを見ると、非常に動きが悪かったと言わざるを得ない。これは、初戦闘だからとかそういった話ではなく、体力など基礎的な身体能力が低いからだ。強くなるにはまずは基礎体力やスタミナをつけなければ話にならない。どれだけ攻撃スキルが充実していたとしても、体力がなければ使いこなせない。ということで、今日からしばらくは森の中を走り込んでもらう。」


「「「「「ハッ!」」」」」


「ジェミニ隊員には5人の先導を頼みます。彼らの能力に合わせてペースを考えて下さい。残念ながらしばらくは戦闘なし、ということで頼みますよ。」


「キュウ(ワタシにお任せです!)!」


「アッシュだけど、スキルのおかげである程度威力は出たが、魔力の使い方がうまく出来ていないため、昨日は数発だけでほぼ魔力切れに近い状態になった。というわけで、魔力の使い方を練習してもらう。」


「あの、私の指導は兄上がなさるのですか?」


「ああ、私がお前を指導する。」


「不満があるわけではないのですが、兄上って火魔術使えませんでしたよね?」


「確かに火魔術は使えない。けどな、基本的な部分はどの属性も同じだ。まあ、騙されたと思ってこちらの指示通りにやってくれれば間違いなく使いこなせるようになるから安心して欲しい。」


「はいっ、頑張ります!」


「よしっ、では、開始だ。5人はジェミニの後をついていくように。」


 ジェミニが走り出し、5人がそれについていく。とはいえ、5人の体力や身体能力は先程も言った通り大したことはなかったので、非常にゆっくりだ。ジェミニには魔物に遭遇しないように先導してもらっている。まあ、仮に遭遇したとしてもジェミニなら問題なく倒せる。ジェミニ達の姿が見えなくなったので、改めてアッシュに向き直る。


「さて、アッシュよ。火魔術を使うときに、魔力というものを感じたりできるか?」


「え? 魔力を感じるですか? 詠唱すると、右腕に何か流れるようなものを感じます。」


「なるほど、それが魔力だと思う。ちなみに詠唱なしでその感じをつかめるかな?」


「いえ、今のところ、詠唱しないと感じられないかもしれません。」


「ふむふむ。では、アッシュよ。詠唱してから魔法は発動するけど、その発動を遅らせることはできるかな?」


「それについては何とかできると思います。」


「よし、まずはそれからだな。昨日はファイアーボールを使っていたが、これ以外で得意な火魔術はあるか?」


「いえ、扱い易いのは昨日使ったファイアーボールです。」


「そうか。それではファイアーボールで練習してみるか。では、アッシュはファイアーボールを発動させたら飛ばさずにその状態を維持するように。マーブルは周りに被害が出ないように結界をはってくれるかな?」


「はいっ!」


「ミャー!」


 アッシュが詠唱を始める。『炎よ、我が敵を討て! ファイアーボール!!』


 詠唱が終わると、火の玉が現れた。


「よし、その状態を維持しろ。私がいいと言うまでそのままな。」


「は、はいっ。」


 頑張ってとどめているが、10秒保たずに火の玉は撃ち出されてしまった。


「はあ、はあ、はあ、、、。」


「うん、最初はこんなものかな。では、呼吸が整ったらもう一度だ。まずはそれが出来るようにするのだ。」


「は、はいっ、、、。」


 息も絶え絶えに返事をしてきた。アッシュはまだ13歳の子供だ。この国では18歳で成人扱いなので、まだ先は長い。今のうちに魔力を使いまくって魔力を鍛えるにはうってつけだ。とはいえ、もっと早い段階からこういう訓練ってさせるものでは? まあ、彼らでは致し方ないか。とりあえず、王都へ出発するまでに修行法を覚えてもらい、自主的に魔力を鍛えられるようにしておかないとな。え? 魔力0の私がなぜこういったことを知っているのかって? それはですね。水術も似たような感じで鍛えたのですよ。魔力こそ使わないし使えないけど、練習方法は変わりません。だったら何故魔力0なんだ(泣)。


 まあ、それはさておき、アッシュも最初こそ火の玉の発動を押さえられなかったが、何度か練習しているうちにコツをつかめたらしく、しっかりと押さえることができていた。最後の方では私に話しかけたり、出てきた火の玉を消したりできるようになっていた。うーん、子供の対応力って凄えと思う。あ、私も今は15の子供か。とはいえ、何度も詠唱したのでかなり疲れていた状態にはなっていたが。


 そろそろ昼食の時間になるからメニューどうしようかな、と考え始めた頃にジェミニ達がこちらに戻ってきた。5人は到着すると倒れ込むように膝をついていた。まあ、仕方ないよね、ゆっくり目のペースではあったけど、ずっと走りっぱなしの上に、足場の悪い森の中だ。


「みんな、お疲れ様。これから昼食の準備をするから休んでてくれ。」


 アッシュ達は返事すらできずにただ頷くだけだったが、仕方がない。このあとも頑張ってもらうために、こちらも気合を入れて美味しいもの作りましょうかね。とはいえ、昨日のオーク肉と内臓の料理だけどね。一応調味料などはある程度こちらで用意してきたから昨日とは味付けは変えているけど。もちろん疲れている状態で無理矢理詰め込んでも意味がないので、食べやすいように細かくしたりは一応している。


 昼食は好評だったが、疲れがまだ溜まっていそうだったので、仮眠をとってもらうことにした。その間はやることがないので、私が見張りをしている間にマーブルとジェミニに食料となる魔物を数体狩ってきてもらうことにした。マーブル達は張り切って森の中へ入っていった。


 しばらくしてマーブル達が戻ってきた。何かデカいぞ。


「おかえり、美味しそうな魔物は手に入れられたかな?」


「ミャッ!」


「はいっ! 数体だけということだったので、数こそ少ないですが、大物を狩れたです!!」


「おお、お見事です。何を狩ったか見せてくれるかな?」


 「ミャッ」と言って、マーブルが倒した獲物を出してくれた。あれ? これ、どっかで見たことあるな。ってオークキングかい! 流石は我が猫達、味にうるさいねえ。


「しかし、オークキングなんてよく見つけてきたね。」


「はい! オーク達を見つけたのですが、マーブル殿が狩るんなら大物にしようって案内してくれて、見つけたのがオークキングだったのです!」


「そうか、マーブル、ジェミニお見事!!」


 しかし、こんな状態でもオークキングが発生するんだねえ。しかも3体。まあ、美味しくいただきますのでどうでもいいか。私が褒めると、2人が飛びついてきた。何故かライムもこちらに飛びついてきた。まあ、嬉しいからいいんですけどね。


 少しモフモフプニプニを堪能してから、いつも通りライム→ジェミニ→ライムのコンボでオークキングが食料と材料に変わっていく。臭いで起きたり他の魔物が酔ってこないようにマーブルが風魔法で吹き飛ばす。


 オークキングを食料や素材に変えて空間収納へ放り込んでから少し経って、ようやくアッシュ達が起きてきたが、流石に起きたばかりなので、少し待って落ち着いてから修行を再開した。5人はジェミニ先導の元、再び走り込みを始めた。アッシュはここで魔力鍛錬だ。


「よし、修行を再開しようか。アッシュはさっきの鍛錬で魔力をつかむことができたかな?」


「はい! 多分ですが、魔力らしきものを感じることが出来たと思います!」


「それはよかった。では、今度は詠唱なしでその魔力を生み出す訓練だ。」


「はい!」


「では、先程の練習で魔力がどこから出てきているのか感じることはできたかな?」


「はい、何かお腹の辺りから出てきた感じがあります。」


「では、そのお腹の部分から魔力を出してみようか。」


「はい!」


 そういうと、アッシュは腹に力を入れだした。


「アッシュよ、ファイアーボールを出すときに、そこまで腹に力をいれたか?」


「いえ、でも、意識してしまうと、どうしても腹に力が入ってしまい、、、。」


「そうか。では、詠唱したときに、どんな状態で魔力が出ているか感じるようにやってみようか。」


 そう言うと、アッシュは確かめるようにファイアーボールの詠唱をしては出てきた火の玉を消す作業を繰り返し行っていたが、何かをつかんだようだ。


「兄上、何かつかめたかもしれません!」


「そうか、ではそのつかめた何かを意識して魔力を発生させてごらん。」


「はい!」


 先程とはうって変わって、自然体の状態で集中しだした。集中しては一呼吸おいてまた集中して、を繰り返していると、マーブルが「ミャッ!」と可愛い声をだした。おそらくマーブルが魔力を感知したのだろう。


「兄上! 何かつかめたようです!!」


「おお、そうか。マーブルも魔力を感知したようだぞ。恐らくそれが魔力だろう。よくやったぞ!」


「はい、兄上!」


「では、今やったような感じでさらに多くの魔力を出すように練習だ。」


「はい!」


 私は魔力0なので感知できないが、マーブルがしっかりと感知できているようだ。


 しばらくその練習を続けていたが、ジェミニと5人が戻ってきたので、今日はここまでにしようか。


「今日はここまでにするけど、アッシュ、最後に魔力を込めた状態でファイアーボールを使ってみて。」


「はい! ・・・では、『炎よ、我が敵を討て! ファイアーボール!!』」


 アッシュがファイアーボールを唱えると、最初に練習で出したときとは比べものにならないくらいの破壊力を秘めていそうな火の玉が出てきた。


「よし、お見事。では、それを思いっきり放ってごらん。」


 私がそう言うと、アッシュは思いっきり前方にその火の玉を放つと、それが当たった地点に大きな火柱が立った。


「す、凄い。ここまで威力が上がるんだ、、、。」


 アッシュ達はその威力に呆然としていたが、少しして我に返る。


「あ、兄上! 毎日練習しても威力が変わらなかったファイアーボールがここまで!!」


「うん、よくやった。初日でこの結果は上々だ。今の腹で魔力を出す練習は屋敷に戻ってもできる。とはいえやり過ぎてしまうと、魔力枯渇で倒れてしまうから、無理はしすぎないように。威力が上がって嬉しいのはわかるが、ある程度我慢することも大切だということも理解して欲しい。」


「はいっ!」


 私達は今日の練習を終えて、トリニトに戻る。屋敷に到着したが、まずは離れ小屋で入浴させて体を綺麗にしてから戻るるときに、アッシュ達から声をかけられた。


「兄上、今日はありがとうございました! 明日もよろしくお願いします!!」


「「「「「アイス様、ジェミニ教官、ありがとうございました!!!」」」」」


 5人はジェミニに敬礼を行っており、ジェミニも敬礼で返す。一体何があったんだろう、、、。


 この後、小屋のメンバーで夕食を取りつつ報告を聞いたりしていろいろと残りをこなしつつ今日は終了。
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