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第19話 さてと、魔導具の性能を確かめるか。

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 テシテシ、テシテシ、ポンポン、朝の起こしの儀式インねぐら。転生後初とはいえ、やはりねぐらはいい。何だか落ち着くね。


「おはよう、マーブル、ジェミニ、ライム。」


「ミャーー!」


「アイスさん、お早うございます!!」


「あるじー、おはよう!!」


 みんなと挨拶を交わす。今は配下の3人はこの場にはいないので、ライムも普通に話しをする。ライムは人語を話せるが、実は声はそれほど大きくないので、多少距離がある場合は聞こえないことも多いらしい。私は基本聞き逃していないそうだ。当たり前だ、私の可愛い自慢の子なんだから、聞き逃すはずはない、と、思いたい。朝起こしは一日の始まりを告げるのと同時に朝食の催促でもある。早速準備しますか。


 朝食の準備が終える頃にウルヴとアイン、ラヒラスの3人が客間から出てきてそれぞれ挨拶を交わす。誰もがワイルドボアの毛皮の寝心地について喜びを露わにしていた。この道中でも狩れるといいのだけど、それは贅沢というものかな。3人はそれぞれ食器の準備などを手伝ってくれたので、私は食事の準備に専念できる。私は料理スキルを手に入れているので味を引き出すことができるとはいえ、レシピなどはそれほど多くない。とりあえず美味ければいいのだ。


 朝食は好評のうちに終わり、ウルヴが採集した草類をお茶にして出してくれた。うん、香りもいいし、味もよろしい。あいつ、なんでこんな辺鄙なところで兵士なんてやってたんだろうか? 騎乗スキルはチートレベルとはいえ、トリニトなんかではそれを生かす場所は皆無だ。しかも、あの場所でそれを知っている人間は皆無だったし、、、。まあ、そのおかげで私の配下になってくれたのだから逆に感謝しないとね。


 折角なので、ねぐらでオーガジャーキーを更に作ろうと思ったのだが、よく見たらタレが足りないことに気付いたので、タレの仕込みをしてから出発しようと思う。とはいえ、一昨日作ったタレはどうやって作ったのかサッパリ分からないので、そこら辺は適当に。なんとかそれっぽい感じになったので、とりあえずはこれでいいだろう。またこっちに戻ってから確認するとしますかね。


 マーブルに昨日の転送ポイントまで転移してもらう。この場所は今後使うことはないし、一々取っておいても管理が面倒なのでこのポイントは消しておく。今日も木騎馬に乗って移動開始だ。ラヒラスが持っている袋から4騎の木騎馬が出てきた。いつの間にかラヒラスが自力でマジックボックスを作り上げたらしい。どれだけ高性能なんだ、、、。


 マーブル達がそれぞれ私の定位置に乗ってから、私も木騎馬に跨がる。木騎馬については、ラヒラス曰く、どれに乗っても同じとのこと。色は10色存在するらしいので、その日の気分で適当に出しているらしいので毎回違う種類の色を楽しめるそうだ。いずれは色ごとにスピード型やパワー型などと区別していく予定だと言っていたが、その中で1人だけ難色を示した者が。


「なるほど、性能も同じだから、気分転換に色違いに乗っても問題なく運用できるな。」


「そう、流石に成長はしないから実際に育てる馬とは違ってそれほど愛着もわかないと思うから、そうしていった方がいいと思うんだ。」


「なるほどな、それは確かにそうかもしれない。」


「・・・、なあ、ラヒラス。」


「ん? ウルヴ、どうかした?」


「お前の言っていることは確かにその通りだと思うし、私も同意見だ、だがな、、、。」


「だが、、、、何かな?」


「何で私だけ、いつも同じ色なのかなあ?」


「え? その色、お気に召さない?」


「お気に召す、召さないではなく、何で私だけ黒だけなのだ!!」


「そりゃ、ウルヴだからでしょ。」


「いや、意味分からないから!!」


「いや、俺にはわかるぞ。」


「うん、私がラヒラスの立場だとしても、絶対にこれは譲れないな。」


「アインだけでなくアイス様まで?」


 そう、一応言っておくと、私とアインとラヒラスは日によって乗る木騎馬の色は異なるが、ウルヴだけは必ず全身黒の馬に乗っている。もちろん理由がある。金髪のイケメンで騎乗スキルに優れているのなら、分かる方は分かると思う。つまりはそういうことだ。ちなみに、アインもラヒラスも前世の記憶というものは存在しないらしいが、何故かそうしなければならない、と感じたらしい。


 そんなこんなでいい感じで進んでいるところ、マーブルが「シャーッ!」と威嚇するような声で私に伝えてきた。基本猫とはいえ、マーブルに勝てる魔物というものはほどんどいないため威嚇などしない、というより威嚇する必要がない。では、何故威嚇したかというと、これは敵発見の報告みたいなものだ。私も基本水術を応用して索敵は行うが、マーブルの精度と比べるとかなり劣るし、今回みたいに全く索敵していない場合もあるにはあるので、そういったときにマーブルがわざわざ知らせてくれるのだ。そして、威嚇する声の大きさで敵の強さがある程度わかるようにもしてくれる。流石は私の自慢の猫。ちなみに今回は普通くらいの大きさのため魔物ランクはB程度、あるいは強くはないけど数が多い、といった感じかな。私の方でも気配探知をしてみたが、探知できなかった。距離が足りないのだろう、とはいえ、折角のマーブルからの報告なので、もちろん蹴散らしますよ。ということで、首を左右に向けて3人に話しかける。


「3人とも、今マーブルが魔物を探知した。折角マーブルが教えてくれたのだから、倒す予定です。とはいえ私の方ではまだ探知できていないので、戦闘準備ということで速度を落とします。」


「「「了解!!」」」


 後ろで付いてきてくれている3人にそう伝えると、3人は了解する。私が減速させる(実際に操っているのはマーブルというのは内緒って多分みんなわかっていると思う。私魔力0だし。)と、それに合わせるように3人も減速する。マーブルが指し示す方向に気配探知を行うと、最初は探知できなかったが、少し進んで500メートルくらい先に、5体くらいの魔物を発見した。少しずつ近づきながら鑑定をかけてみる。正直まだ姿は見えていないので気配に対して鑑定をしているのだが、流石に無理かなと思っていたら鑑定出来た。流石はアマさん、頼りになるなあ、などとちょっとヨイショしておく。


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「マーダーディール」・・・2メートル程度の大型の鹿じゃな。マーダーという名の通り、人、つまり数多くの冒険者達を殺してきた魔物じゃ。角による突進も脅威じゃが、一番危険なのは後ろ足を使った蹴りじゃ。お主的には食べられるかどうかの方が重要そうじゃな。旨いぞ。

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 なるほど、鹿ね、ん? 鹿だと? 鹿肉じゃーーー!! しかも、アマさんのお墨付きだ!!


「みなさん、敵が判明しました。マーダーディールという鹿だそうです。鹿と言えばみなさんわかりますね? そう、鹿肉です。しかも旨いそうです。張り切って狩りましょう、と言いたいところですが、今回は魔導具の性能を確かめたいと思いますので、ウルヴを中心に行きます。」


「アイス様、私を中心にするというのはわかりましたが、具体的には?」


「魔導具を使った戦闘訓練みたいなものです、魔導具については制作者に聞くのが一番、ということでラヒラスよろしく。」


「了解。改良してあるけど、今までと同じ使い方でいいよ、それだけ。」


「わかった。何か嫌な予感がするけど了解した。では、アイス様、ご指示を。」


「では、作戦を説明します。今回の敵は突進自慢らしいので正面から迎え撃ちます。迎え撃つ陣形ですが、ウルヴを先頭に左に私達、右にアイン、後ろにラヒラスといった形でいきます。とはいえ、アインは降りた方が力を発揮しますので、ウルヴ以外は木騎馬を降りて戦った方が楽に倒せるでしょう。」


「「「了解!!」」」


 3人は敬礼で応えた。


「で、私達ですが、今回は少し投擲スキルの練習もしておきたいので、私だけで倒します。申し訳ありませんが、マーブル隊員、ジェミニ隊員、ライム隊員は鹿肉の解体時しか出番がありませんが、今回は我慢してください。」


 ゴメンね、と思いながらマーブル達に伝えると、いつも通りの敬礼で応えてくれた! お父さんは嬉しいよ!!


 5匹の鹿肉達は200メートルを切った位でこちらに気付いて一斉に向かって来た。私達は一旦停止してウルヴ以外は木騎馬から降り、戦闘態勢に入る。ウルヴは騎乗のまま戦闘態勢に入ると魔導具から槍が現れたのでそれを手に取る。ウルヴに変化があったのはその後だった。ウルヴの右腕から黒い防具が次々と現れ全身を覆っていく。黒い防具が全身を覆ったその姿は、まさに殿下だった。ああ、脳内からデッデッデデデデッ!カーン!という音楽が流れ出てくる。まずい、戦闘前だというのに笑ってしまいそうだった。


「おい、ラヒラス、改良って、まさか、、、。」


「うん、それ。かっこいいでしょ。」


「いや、確かに格好いいけどさ、何故か目に見えないところから失笑されているように感じるのは気のせいか?」


「気のせい、気のせい。あ、一つ注意点ね。それ、鎧って見た目だけだから、防御力は今身につけている防具に依存するからね。」


「うをぃ!!」


 そんな遣り取りをしながら、鹿肉達と私達との距離は縮まっていく。鹿肉達は私達の姿を完全に捉えると、さらに加速して突っ込んできた。それに合わせるかのようにウルヴも鹿肉達に突っ込んでいく。私も機先を制するべくアルラウネスリングを取り出し、水術で氷の塊右手側に、氷のドリル左手側に作り出して準備完了、後は恐らく急所であろう眉間を狙ってぶん投げるだけだ。鹿肉達はドンドン迫ってきていたが、射程圏内に入ったので、まずは私の担当である一番左にいる鹿肉めがけて氷のドリルをぶん投げた。すかさず2投目に先程の獲物の右側を狙って投げようとした瞬間だった。


「いくぞー!!」


 や、やばい、その台詞だけはやばい、ラヒラスやアインが言ったところで別段問題はないのだが、よりにもよってウルヴが口にした台詞だ。どう見てもリアル殿下です、本当にありがとうございました。思わず前世で散々見た一連の動画を思い出してしまい手元が狂ってしまった。そのため、氷の塊は鹿肉ではなくウルヴに向かっている。やばい、フレンドリーファイアは勘弁して欲しい、と思っていたが、それは杞憂に終わった、というのも私の投げた氷の塊よりも速い速度で鹿肉に向かっていた。狙い通りではなかったが、別の鹿肉に命中した。本気でホッとした。


 私が投げつけた氷のドリルは狙いを過たずに鹿肉の眉間に命中、しっかりと頭部を貫いて一丁上がりだ。一番右の鹿肉を担当していたアインだが、これはこれでやばかった。全力の突進だったのだろうが、相手が悪かった。アインは問題なく突進を止めるどころか、その自慢の角を根元から折ってしまっていた。流石の鹿肉もこれには驚いていたようだが、アインはその隙を逃さずにゲンコツを卸すような感じで鹿肉をぶん殴ると、鹿肉の頭部は真っ二つに分かれて終了。スガープラントの件といい、どれだけパワーがあるんだよ、、、。


 ウルヴも凄かった。先頭にいた鹿肉をすれ違いざまに一突き入れてアッサリと倒し、他の2頭に関してもやはりすれ違いざまに一突きでそれぞれ仕留めてしまった。特に私が氷の塊をぶつけた1頭は姿勢を崩していたにも関わらずしっかりと急所の眉間を貫いていたのだ。訓練の成果もあるのだろうが、この先どれだけヤバイ存在になるのだろうかと期待してしまう。


 鹿肉達を仕留めた後は、マーブル達の出番だ。それぞれ1頭ずつライムが血抜きをしていき、血抜きが終わったら、ジェミニが肉と内臓と角に分けて解体する。あ、念のため2頭は腹から解体してもらって頭と皮がしっかりとつながっている状態で解体してもらった。1頭丸々の状態で残しておけば、入り口に置いておくと見栄えも良さそうだし、好事家に売ったり、お偉いさんに献上するのにも使えそうだと思ったからだ。BランクかCランクといった感じの魔物だったから、とりあえずは2頭で十分でしょ。角はともかく、毛皮は何かと使えるだろうし、ある程度は分けたものも必要でしょ。


 鑑定によると、内臓は美味しくないそうなので、穴を掘ってそこで燃やすことにした。燃やすのはマーブルにお任せだ。一通り作業も終わって出発し、その後は何事も無く進むことができた。暗くなってきたのでよさげなところに転送ポイントを置いてねぐらに戻った。


 ねぐらに戻ってから、最初にタレの具合を確認する。いい感じだが何か足りない。塩加減かなあ、それとも隠し味としての甘み? あとは濃さかな。まずは濃くしてみますか、ということで中身を大鍋に移してしばらく煮込んで水分を飛ばす。水術でも可能だけど、実際に火をかけて煮込んだ方が味が良くなるのは検証済みなので、ここではゆっくりと火を入れていくことにした。マーブルに頼むと見事に思い通りの火力にしてくれた。やはり持つべきは可愛くて頼りになる家族だね。


 タレはしばらくこのままにしておいて、あとは夕食だ。もちろん鹿肉祭りですよ、鹿肉祭り。とはいえ正直鹿肉については全く詳しくない。前の世界でもほとんど食べたことがない。とりあえず肉は新鮮だから刺身が旨いという記憶があったので、刺身は決定、ただ、生温かいので水術でいい感じに冷やした方が食べやすいな、個人的には。あとは、ステーキと焼き肉と野菜炒め? そんなものしか思い浮かばない。そう考えると肉の種類は違えども、メニューってあまり代わり映えしないねえ。それでもみんな美味しい美味しいと嬉しそうに食べてくれることは救いだけど。まあ、いいや。肉によって味も違うし、無い物ねだりしてもしょうがない。


 結果はというと大盛況だった。マーブル達はもちろん、3人も喜んで食べてくれた。私的にも上手くいった感じで非常に美味しかった。調理法は少ないけど、肉などの種類でカバーしていきましょうかね。


 夕食の後、タレの確認をしてみたが、特に変化はなかった。まあ、弱火でじっくり煮込むのだから、まだそれほど時間が経っていない今、それは仕方がない。でも、そのままにして寝てしまって必要以上に水分がなくなっていると、これはこれで悲しい、というわけで、一部だけ蓋を開けておくことにして今日のタレ作成は終了。風呂と洗濯を済ませてもまだ寝るには少し早い感じがしたので、ウルヴにお茶をいれてもらってみんなでまったりとしながら話していた。


「そういえば、鹿肉戦のとき、ラヒラスは出番がなかったよね?」


「うん、ハッキリ言って出番はなかったね。」


「ラヒラス専用の攻撃魔導具を見てみたかったのだけど、あの状態では仕方がないかな。」


「そうだね、今日だけじゃないからお披露目はできると思うよ。それまでは秘密ということで。」


「わかった。それにしても、木騎馬もかなり能力が上がっていたね。ウルヴ、実際戦った感じはどうだったかな?」


「はい、通常の速度もそうですが、戦闘時限定らしいですが、突撃したときのあの速度は凄かったですね。それだけではなく、衝撃に対する強さはそれ以上に凄かったですね。何せすれ違いざまにあの速度で攻撃できるとは思いませんでしたし。」


「そうか、それは何よりだね、ウルヴもこれでご満悦かな?」


「性能的にはそう言ってもいいでしょうが、、、。」


「ん? どうした?」


「性能的には文句をつけようがありません、けど、何で戦闘態勢に入ると全身が黒い鎧で覆われるんです? 更に、気合を入れて突撃したら、アイス様手元が狂って氷の塊がこっちに来てますし。あれ、当たったらやばいから全速力で進んだおかげでどうにかなりましたけど。」


「いやあ、あれは本当にやばかったよね。本当に申し訳ない。」


「ちなみに黒い鎧に覆われるように指示したのはアイス様で、俺は言われたとおりに作っただけだから、俺を恨むのは筋違いだぞ、ウルヴ。」


「いや、アイス様もアイス様だけど、何で、その通りに作っちゃうかな。しかも嬉しそうに作ってたよな?」


「そりゃ、思い通りにできたんだから、嬉しいに決まっているさ。」


「ふうっ、まあ、いいや。性能に関しては文句を付けようが無かったしな。これで更に自信をもって護衛ができるというものだ。」


「頼もしいね、期待しているよ。それはそうと、アインも凄かったね。」


「そうだった。アイン、お前人間か?」


「俺は普通に人間だぞ? あんな鹿程度の突進大したことでは無い。」


「いや、あれ、俺らがまともに喰らうと即死だからね。」


「それは、鍛え方が足りないだけだ。魔導具もいいが、己の鍛錬も大事だぞ。」


「いや、限度というものがあるでしょ。」


 そんな感じで話しは弾み、今日という日も終わった。
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