上 下
29 / 210

第29話 さてと、ようやく待ち人来たるですね。

しおりを挟む


 馬鹿みたいにタップリ作った日干しレンガもマーブルの魔法であっさりと焼きレンガに生まれ変わった。色もほぼ同じ感じに仕上がっており、以前いた世界でも十分通用する出来映えだった。接着用の土もタップリ用意できたので後は作り上げるだけだ。とはいえ、一つ一つ地道に積んでいくやり方だとどのくらい日数がかかるかわからない。


 では、どうするか? やはり魔法のある世界なんだから、魔法を駆使しないといろいろな意味で勿体ない、というわけで、魔法でレンガを動かして組み立てていく。接着用の泥粘土についてはラヒラスがそれ用の魔導具を作成してくれていた。接着粘土を大きめなタンクに入れておけば、後は自動で接着粘土をいい塩梅で流してくれる。それに自動で移動してくれるので接着粘土の残量さえ意識していれば問題なく流してくれる。ちなみに魔法でレンガを動かすのはもちろんマーブルの魔法だ。


 主な流れで説明すると、館の範囲外にレンガを積み上げておく。建設予定であるフロスト領の領主館の設計図は完成しているので、それに合わせてジェミニが移動する。そのジェミニを追うようにしてマーブルがレンガを魔法で運んで並べていく。並べたレンガの後を追うように魔導具で接着粘土を流し込む。2週目以降はマーブルがレンガを重ねて、その重ねたレンガをライムがスタンプしていく。その後でラヒラスの魔導具が泥粘土を流し込むといった感じで進んでいく。


 こんな感じで作業は進んでいるのだが、一つ気になっている点があった。それは天井部分だ。このやり方だとどう考えても屋根の部分が作れないだろう、と思っていたが、屋根の部分も含めて問題なく完成していた。正直どうして上手くいったのか理解できなかったが、完成はしているので、何か特別な工夫でもあったのだろう。正直わからないものはわからない。


 昼前なのにもう形が完成してしまった。しかし、最後の作業が残っていた。それは接着粘土の水分をなくして強度をつける作業だ。とはいえ、これは水術で楽勝なのでそれほど時間はかからなかった。一応これで完成だが強度が気になったので、アインに壊れない程度に強く押してもらったが、本人曰く問題なかったとのことだったので安心だ。では、実際に入って住み心地を確認してみますか。


 仮にも領主の館ということで、一応大きさ的にはトリニトで済んでいた離れ小屋よりも大きく作ってはあるが、レンガの建物なんて作ったことなかったから平屋だ。これについては詳しい人物が出てきたときに作り直したりすればいいかなと思っている。部屋数は10部屋で、私とマーブル達の部屋、ウルヴ、アイン、ラヒラスの部屋、会議室兼謁見用の部屋、食堂、常温倉庫、冷蔵庫、冷凍庫、客室となっている。広さに関してはウルヴ達の部屋の広さを1とすると、私達の部屋、並びに客室が2、食堂と各倉庫が3、会議室兼謁見用の部屋が5といった感じ。作り直すことを前提にしてあるから最初はこんなものだ。言うまでもなく平屋である。レンガの建物の知識がない状態で高い建物なんて怖くて作れない。というより、最初は土壁のみの殺風景な感じを予定していたが、急遽レンガ造りになっただけなんだけどね。


 実際に中に入ってみる。入り口近くにはウルヴ達の部屋がそれぞれあり、次に客室、その次に会議室、一番奥は私達の部屋となっていた。また、向かい側は食堂と各倉庫となっていた。奥にある自分たちの部屋に入るとそこには何もない空間が広がっていた。まあ、何も入れてないんだから当たり前か。家具類はトリニトにある離れ小屋から持ってきていた、って、しまったままでみんなの部屋に家具渡してねえ、、、。


 自分の家具を置く前に、それぞれみんなの部屋に行ってそれぞれ家具等を置いてきた。ちなみに床はぬかりなく焼きレンガのようにしてある。焼きレンガとの違いは一面ぎっしりとつなぎ目のない一枚板のような状態にしてあることかな。みんなの家具を届けてから、改めて自分の部屋に戻り家具を設置する。折角だから半分は土足部分と非土足部分とに分けることにした。マーブル達も喜んでくれた。


 自分たちの部屋に満足していたので、重大なミスがあることに気付いたのは夕食が終わったときだった。他の3人も何となく察してはいたと思う。ちなみに窓などの空調関係ではない。実はその点は抜かりなく各部屋にしっかりと窓は用意されていた。あ、各倉庫にはそんな物ないけどね。そっちではなく、それ以外にも重要な物を忘れてしまっていたのだ、そう、トイレと風呂だ。あとは転送部屋かな。まあ、転送部屋については私達4人とマーブル達しか使用するつもりがないので、最悪私の部屋に設置すればいいのだが、トイレと風呂に関してはそうはいかない。


 というわけで、次の日に作り直す羽目になってしまったが、一度一通り作っていたので作り直すのにそれほど時間がかからずに終わった。結局風呂とトイレは2カ所ずつ作った。これで本当にようやく完成となった。

日にち的にはそれほど経ってはいないけど、精神的には非常に長く感じた今日この頃である。


 フロスト領で領主館が完成してから何か変わったのかというと、実際にはあまり変わっていない。狩りや採集をしたり、領都の範囲を広げたりと今までとほぼ同じような生活だ。少し異なるのはねぐらに行ったりするのが私達だけとなったくらいかな。あとは第2のねぐらに転送しては、その辺りの探索をしたりするくらいだった。あとは、余ったレンガを街道への道へ設置したりして少しずつ道を改良していった結果、フロスト領の領都への道と領主館だけが豪華な見た目になった分周りとの景色を比べるとかなり浮いた存在になったところか。結構遠くから見てももの凄い目立つ。何しろトリトン帝国の帝都ですらレンガ造りの家など存在しないのだから。


 そんな生活を続けていること数週間後、たまには外で食べようと昼食の準備をしていたときに、ラヒラスから何人か男達が来たと伝えてきた。普通に伝えてきたので別段危険はないのだろう、折角なので会うことにした。


「あなたがここの主か? 私達はここから歩いて3時間ほどのところにある集落に住んでいる者だ。」


「ああ、私は確かにここの主だが、どうしたのかな?」


「いきなりで申し訳ないのだが、食料を分けて頂けないだろうか?」


「確かにいきなりだな。しかし、どうしてここに?」


「申し訳ないが、普段から生活ぶりを遠くから見させてもらっていたが、我らの集落とは違って毎日しっかりと食事を摂っている様子だったので、、、。」


「なるほど、話しはわかった。とはいえこちらも無条件で分けることはできない。」


「食料を分けてもらえるのなら、できる限りの条件は呑もうと思うが、見ての通り我らには君達に提供できるものがないのだ、それは理解してもらいたい。」


「いや、そんな難しいことではない。条件というのは非常に簡単だ。我が住民としてここに住め、ということだけだ。」


「え? ここに住めとは一体?」


「ああ、伝えていなかったな。私はアイス・フロスト子爵だ。トリトン帝国皇帝陛下よりこの領域を治めよと命を受けてこの領域に住むことになった。見ての通り我が屋敷以外には何もない状態だ。住民も私含めてこれだけしかおらんのだ。」


「き、貴族様でしたか。た、大変失礼しました!! 今までのご無礼をお許しください!!」


 話していたのは代表だけだったのだが、私が軽く自己紹介をすると、代表だけでなく周りの者まで一斉に土下座してしまった。


「まあ、こんな状態だと貴族だとは思わないよな。話を続けたいからとりあえず顔を上げてくれ。」


 しばらくしてようやく顔を上げたので、話しを再開する。


「先程も話したとおり、この地を治めよと命は受けたが、開発しようにも人がおらんから、人、というよりも領民が欲しいのだ。そこでだ、お主達には我が領の領民となってここに来てもらい開発の人手となってもらいたいのだ。領主は領民を食べさせる義務がある。領民になれば食の保証はするが、どうかな?」


「話しはわかりました。私達だけでは決められませんので返事は後日ということでよろしいでしょうか?」


「まあ、そうであろうな。住んでいた場所を離れなければならないかもしれない重要なことだからな。戻ってから存分に話し合うといいだろう。食は保証するといっても口約束では信じてもらえないだろうから当座の分は提供しよう。ただ、飢えている状態でこれを食べてしまうと逆に体を壊してしまう可能性が高い。今から渡すもの全てをいれて煮込むといいだろう。アイン、申し訳ないけど彼らの集落に食料を運んでやって欲しい。」


「わかった。すぐに出発するか?」


「いや、とりあえず食事が終わってからだ。君達も折角来たのだから、一緒に食べていくがいい。こんな感じの料理だと覚えていって欲しい。」


「あ、ありがとうございます。」


 こうして近くの集落から来た者達と一緒に昼食を摂りながら話しを聞くと、予想通り非常に貧しく、常に飢えとの戦いを余儀なくされており、偶然食事を摂っていたのを見かけて動く体力があり、交渉できそうな頭のいい若者をこちらに寄越したとのことだった。彼らは一通り話しをすると、昼食に関してはそれほど多く食べることはなくかなり遠慮していたような感じだった。集落で食料を待っている人達のことを考えてしまいノドを通らないと言っていた。


 昼食が済んだので、分ける分の肉や調味料用のスガー、万が一に備えて水もある程度マジックバッグに入れてアインに持たせて彼らを見送った。彼らがフロスト領の領民になるかどうかは正直わからない。仮にそのままこちらに来なければそれはそれで仕方がない。とはいえこちらに来ずに食料だけもらいに来たら次は断る予定だ。領民になろうとせずにもらえるものだけもらうような図々しい連中は必要ない。私は慈善家ではないからね。とりあえず30人くらいなら余裕で数日分食べられる量は持たせてあるから、思う存分話し合えばいいと思う。差しだした手を受け取るか払いのけるかは彼ら次第なのだから。


 彼らに食料を渡して3日後、30人くらいの集団が領都フロストにやってきたとウルヴが伝えてきた。集団の中には先日食料をもらいに来た若者達も含まれていたとのことだった。話し合いは済んだのだろう。


「先日はオラ達に食料を分けてくださり、本当に助かりましただ。アイス様、ぶしつけで申し訳ないだが、本当にオラ達が領民になったら、食の面倒は見てくださるだか?」


「ああ、間違いなく食の面倒は見よう。ただ、ここフロスト領の開発の人手となってくれたらだけどね。」


「オラ達でできることがあるなら、何でもやるだよ。」


「そうか、では、君達はこれからフロスト領の領民だ。君達がここに来て正解だったと思えるように、そして栄えある領民第一号として誇りを持てるようにこちらも努力していくから、一緒に頑張っていこう。」


「ありがとうごぜえます。オラ達頑張ります!!」


「改めて、ようこそフロスト領へ!! 私達は君達の移住を歓迎する。早速だが歓迎の宴を開きたいと思うが、残念ながら酒は無しだ。通常の食べ物と飲み物で我慢して欲しい。」


「とんでもねえだよ。食べ物さえ満足に頂けるだけで十分だよ。」


 こうして、急遽予定を変更して新たに住民となった30数名の歓迎の宴を行った。いろいろと話をして上手く仕事の割り振りをしないとな。まあ、しばらくは体力を付けてもらわないとならないから軽い仕事をしてもらい体調を整えるのが先決かな。ちなみに住民の内訳は老人が5人、大人の男女が13人、元服前の男女が9人、子供が7人といったところだ。これでとりあえず最低限の開発ができるようになった。その前に彼らの住居を用意しないとならないけど、流石に大工関係の仕事が出来る人はいるでしょ。いるよね? いなかったらどうしようか、、、。材料は腐るほどあるんだけど、それが少し心配かな、、、。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

おきつねさんとちょっと晩酌

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:42pt お気に入り:110

勇者は愛を探してます。

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:6

魔法の遺産

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:0

異世界召喚された俺はスローライフを送りたい

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:2,746

椅子の上で男は追い打ちの悦楽をもたらされる

BL / 完結 24h.ポイント:7pt お気に入り:8

処理中です...