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第33話 さてと、やはりしっかり周りは見るべきだね。

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 一通り領民達の家は完成したが、建築は続いていた。フロスト領はこれから発展させていかなければならないので、今ある建物では数が少なすぎるのだ。というわけで、トリニトから移り住んだ大工達を中心として建築を担当する領民も彼らの弟子として建築は進んでいく。


 衣の方でも準備していた材料が仕上がってしっかりと領民達の衣服として行き渡り始めた。これで各自複数の服を持てるようになったので洗濯場も機能しだして、衛生面もかなり改善されてきた。


 食については、畑の開発が遅れているため、肉は十分に行き渡っているが食事バランスはまだまだ悪いと言わざるを得ない状況だ。一応ラヒラスには開墾用の魔導具作成を頼んでおり、設計図も完成しているそうだが、どうしても鉄がないと作れないという結論に至ったそうだ。特に土を掘り起こす部分はいくら魔樹でも厳しく、その部分はどうしても鉄以上の硬さを持つ金属が必要だそうだ。しばらくはチマチマと作業して少しずつ範囲を広げていくしかない。あとは、カーボ(炭水化物のことね)の元となる種が欲しいところ。スガープラントである程度味の幅は出せているが、種類が欲しいのは言うまでもない。


 そんな中、フロスト領にも商人がやってきたとウルヴが伝えてきた。聞けばトリトン帝国を渡り歩いている商人とのこと、早速会うことにした。


「お会いできて光栄に存じます。わたくし、北西の都市トリントから来ましたマルタと申します。トリン商会に所属しております。最近新たに開発に勤しんでいるフロスト領で何かお手伝いできればと思いお伺い致しました。なにとぞお見知りおきを。」


「おお、わざわざ遠いところからご苦労である。私はアイス・フロスト子爵だ。ここフロスト領を治めることとなった。さて、用件を聞こうか。」


「はい、拝見しましたところ、こちらでは穀物が不足しているようですので、何かお手伝いできたらと思いまして。」


「なるほど。マルタと言ったね。君は何をどの位用意できるのかな?」


「はい、今ご用意できるものは小麦と大麦、などでございます。実際にご覧になってください。」


 流石は商人である。ここには穀物が不足していることを知って売りに来たか。まあ、トリントということはハブハド・ハド公爵のところだから、この情報は当然か。でトリン商会といえばそこの御用商人だったな。ということは、恐らく足下を見るのはもちろん、下手するとまがい物を掴まされるな、これは。恐らく公爵の指示で来ている可能性もあるが、ひょっとしたら商業ギルドからの嫌がらせの一環かもしれない。何せトリニトでは完全に潰してしまったからな。まあ、どちらにしてもろくな連中じゃないな。念のため鑑定してみるか、どれどれ、、、。うわぁ、これはひどい。見本だけまとも、用意している分はどれもまともに育たないようなゴミじゃん、、、。流石はトリトン帝国の商人。もう少し様子を見ますか。


「なるほど、なかなか良さそうではあるが、これらをすぐに用意するとしたら、どの位用意できる?」


「はい、穀物が不足しているとはいえ、具体的にどの種類が必要かまでは把握しきれておりませんので、用意できたものは大袋が10ずつといったところでございます。」


「なるほど。で、具体的にどの位の金額になるかな?」


「はい、まずこの小麦ですが、1袋につき金貨10枚ほどになります。」


 まじか、ゴミをボッタクリ価格で押しつけようとしているよ、ある意味凄えな。


「ほう、金貨10枚ね。通常だと1袋銀貨5枚ほどでしかないのだが、それについては?」


「はい、本来ならその金額で取引されておりますが、生憎ここまで運ぶのは手間がかかりまして。」


「なるほど。では、そのまま引き取ってくれてかまわない。」


「え? 一体どういうことで?」


「平たく言うと、いらない、ということだ。大袋が10ずつ用意しているとのことだが、実際には小麦にしろその他の穀物にしろ、まともに育つ分はほとんどあるまい。確かに我が領では穀物は不足しているが、食料自体は困るどころかむしろ余裕もあるし、別に急ぎ必要でもないからな。」


「で、ですが、折角こうしてご縁ができた訳ですし、、、。」


「双方が納得するような取引ができたら、それは立派な縁といえるだろう、しかし、君はどうだ? 育つかどうかわからないゴミを1袋金貨10枚で押しつけようとしているんだぞ? 運ぶ手間を考えても1袋銅貨1枚がいいところだろうな。あ、まさか、領主とはいえガキが相手だからだませると思って来たのかな?」


「い、いえ、決してそのようなことは、、、。」


「まあ、いいや。君達トリン商会は買う価値もないゴミを押しつけようとする集団だということがわかったことが唯一の収穫かな。これ以上は時間も勿体なから面会はここまでだ。」


 マルタというボッタクリ商はいきなり土下座をして粘ろうとした。


「も、申し訳ありません!! もう一度機会を!!」


「こういうのは最初が肝心でしょうに。ウルヴ、今後トリン商会が来ても取り次がないように。仮に公爵や皇帝陛下の添え状があってもだ。領民にも伝えて。あと、トリニトにいるアッシュにも伝えておいて。」


「ハッ。」


「そ、そんな、フロスト子爵様、もう一度、もう一度だけ機会を!!」


「以前トリニトでゴミみたいな素材を売っていたのも君達だね? おかげでトリニトは最底辺の生活を余儀なくされた。それに対しても許せないんだよね。じゃあ、話しはここまでね。アイン、商人殿はお帰りだからお見送りしてあげて。」


「承知。」


 アインに頼んでつまみ出してもらう。それにしても無駄な時間だったな。しかし、最初に来た商人がこれとはねぇ、、、。少しでも期待した私が馬鹿だったかな。とりあえずトリトン帝国の商人は様子見かな。期待薄だけど、タンヌ王国から来た商人なら少しは考えますかね。


 欲望丸出しの豚、いや、豚に失礼か、普通にトリン商会の者といった方がいいかな、を追い出してから数日経っているが、未だに面会をしてくるそうだ。領民達には伝わっているし、ここには宿もないので野宿しているみたいだけど、無駄なんだよね。もう会うつもりもないし、さっさとトリントに戻ればいいと思うけど。ここまで必死ということは、公爵か商業ギルドの意向が強いのかな。でも、知らんがな。


 さらに数日後、いい加減うざいので、ストレス解消を兼ねてマーブル達と東の国境にある山へと向かった。今の状況だと私がいなくても問題ないし、狩り採集に関してはウルヴやアインに加え領民も数名加わるようになっていて、任せてしまっても問題ない。ラヒラスは魔導具作成がメインではあるが、気まぐれにウルヴ達に拉致されて一緒に狩りをさせられたりしている。


 山というより岩山といった方が正しいかな、木は生えておらず、チョロチョロと草が生えている程度だったが、逆に鉄鉱石などがありそうな気がしないでもない。私は一応領主だから、領民にはよりよい生活を送ってもらうために努力しなければならないし、するつもりだが、それ以上にマーブル達と楽しく過ごすことが大切であるので、こうして仕事にかこつけていろいろな場所へ行くのは非常に楽しい。また、逆にこういう気分で探索した方がいい結果につながることも多い。まあ、今思いついた言い訳みたいなものだけど、そこは突っ込まない方向で。


 今回はフロストの町から真東に向かった先の岩山である。一応フロスト領の東端ということになっているので、その辺りを数日間に分けて探索していく予定だ。で、ここら辺だけど、険しいには険しいけど、別に登れないほどではないので、登ってみる。進んでいると、あちこちに穴があるが、残念ながらマーブル達ですら入れない穴が多い。いざとなれば土魔法やら駆使して強引に開けるのもアリとは思うけど、今のところはそのままにしておく。


 魔物は森ばかりにいるわけではないことを思いだしたので、気配探知を使って進むことにした。少し進むと平べったい存在を探知した。マーブルはすでに探知していたらしく、私がそちらに進もうとしているのに気がついて定位置に乗る。それに合わせるかのようにジェミニやライムも定位置に収まった。それはさておき、その平べったい気配は恐らくトカゲの類いだと思う。そういえば、この世界ではトカゲの魔物は初めてだ。期待しつつその気配を追っていくと、私でも入れるくらいの穴が見つかった。探知を搾ると普通に進める感じの洞窟のような存在だった。折角だから進んでみますか。


 言うまでもなく洞窟内は暗かったので、マーブルに火魔法を使ってもらいそれを松明代わりに進んでいく。進んでいくといろんな色の石が見つかったので、鑑定してみると、ほとんどが銅鉱石だったが、一部には鉄鉱石やボーキサイトなどもあった。ってボーキサイト? まじか、でも電気起こせないから無理だな。それよりも鉄鉱石だな。よし、これを探して採取しておこう。銅鉱石は後回しかな、でも一応少しは回収しておきましょうかね。


「さて、みなさん、この石ですが、この石はこれからのフロスト領を発展させるために必要な素材です。平たく言ってしまうと鉄の元がこれなので、これを集めたいのですが、よろしいですか?」


「ミャア!」


「これが鉄になるですか? だったら頑張って採るです!!」


「うーん、お手伝いしたいけど、ボクは無理かなぁ、、、。」


 マーブルとジェミニは嬉しそうに応じたが、手伝えそうもないライムはションボリとしたが、ライムにだって頼みたいことはあるのだ。


「ライムはこの道をキレイにして安全に歩けるようにしてくれると助かるよ。」


 そう言うと、ライムは今まで落ち込み気味だったが表情を一変させた。


「うん、ボク頑張るよ-!!」


 うんうん、それでこそライムだ。


 ライムが道を整え、その道を通りつつ鉄鉱石を見つけては採取していった。探せば案外あるもんだね。私は先日狩ったオーガの牙を氷で補強して鉄鉱石の周りを崩しては鉄鉱石を回収し、マーブルは肉球を駆使して強引に掘り出していた。ジェミニは最初は牙などを使って掘っていたが、途中から土魔法で周りの土をどかしてからむき出しになった鉄鉱石を回収していた。マーブルもジェミニも一応袋はあるが、ある程度貯まると私に渡してきた。


 そんなことをしばらく続けていたが、キリがなさそうなので、続きは後日ということで戻ることにした。空間収納には若干の空きがあったので、帰りに銅鉱石も少し回収した。それ以外は特に何かに遭遇することなく洞窟の外に出ると、暗くなり始めてきたので、フロストの町に全力で戻った。


 フロストに戻ってラヒラスに鉄鉱石を大量に手に入れたことを話すと、喜び半分、残念半分という感じだった、というのは鉄鉱石を鉄にするのが大変だという話しだったが、こちらにはマーブルがいるのだ。マーブルに鉄鉱石を溶かせる温度の火魔法は使えるか聞いたら、使える、とのことだったので、私以上にラヒラスが喜んでいたことには少し引いた。


 これで鉄も目処が立ったので、農作業の魔導具も現実味を帯びてきた。いずれは武器にも、とは思っているがまずは生活用品で使うべきだと思っているので、そちらを優先する。もちろん、これだけの量を集めるのを手伝ってくれたマーブル達にお礼のモフモフは忘れずに行った。感謝の気持ちを表すのは大事だね。


 では、明日は鉄、いや鋼までできたらしていきたい。その前にどういった形にすればいいのか聞かないとね。さて、明日も頑張りますか。
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