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第65話 さてと、歓迎会です。

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 ダンジョンマスターだったマーシィさん本体(?)を引き連れて、アマデウス教会へと戻ったが、とりあえずはフロスト城予定地の訓練所へと移動した。訓練所内では、未だに訓練が続いていたが、私達の姿を見るとその場にいたウルヴが話しかけてきた。


「アイス様、お帰りなさいませ。しかし、アイス様がこの時間にここに来られるのは珍しいですね。一体どうされたのです? ひょっとしたら、そちらにいるお連れ様が関係しているのですか?」


「あ、ウルヴ、出迎えありがとう。君の言うとおり、こちらの人物が大いに関係している。ところで、今日のマーシィさんの担当は誰?」


「今日はエルヴィン殿ですね。お呼びしましょうか?」


「うん、よろしく。」


 少ししてからエルヴィンさんがこちらに来た。


「アイスさん、よく来たね。何か一緒にいる人が関係しているとか、一体どんな関係なんだ?」


「ああ、紹介が遅れたね、こちらは、ポーラ・マーシィさんだよ。」


「ポーラ・マーシィですと? 教官とは同姓同名みたいだけど、、、。」


「おう、お前がゴブリン族の隊長の一人か、俺がポーラ・マーシィだ。霊体がいつも世話になっているな。」


「霊体ですと? とすると、あなたは?」


「おお、俺があの霊体の本体に当たる、と言うのが近いかな。」


「アイスさん、ひょっとして、これからこちらの本体に霊体が戻っていくということですか?」


「多分、それで間違いないと思う。マーシィさん、そうだよね?」


「お前がここに連れてきたということは、そういうことじゃねえのかな。」


「本人がわからないのかよ、、、。」


「ハッハッ、わかるわけねーじゃねえか。第一お前らに会うまでは霊体と分離していたことも忘れてたくらいだしな。」


 エルヴィンさんの顔が赤くなっていた。何やら興奮しているようだけど、何だろうか、、、。


「・・・教官の本体が来たということは、これから教官は完全体になるということだな、、、。おっと、こうしてはいられない、アイスさん! 済まないが、教官の儀式、もう少し遅らせて欲しいんだよ!!」


「いきなりどうしました?」


「教官がこれから完全体になるんだよ!! 教官の大舞台、我々全員が見守らずにどうするんだよ!! というわけで、俺はこれからみんなを集めてくるから、済まんがそれまで待ってて欲しい!!」


 私の返事を待たずに、エルヴィンさんはウルヴに話し、ウルヴもこちらに向かって頭を下げると、この場を離れていった。エルヴィンさんは、マーシィの間から出てきた領民に何かを話し、それを聞いた領民が興奮状態で周りに触れ回ったのを確認してから、エルヴィンさん自身もこちらに頭を下げて訓練所を離れていった。


 この一連の動きに、私達は元より、当事者のマーシィさんも驚きを隠せていない。が、何となく事情は察したので、アンジェリカさん達女性陣にマーシィさんの相手を任せて私達は一旦領主館へと戻ろうと思っている。彼らは間違いなく領民全員を集めてくるつもりだろう。領民全員をここに集めても余裕で入るしね。まだそこまで領民増えてないし(泣)。


「アンジェリカさん、少し時間がかかりそうなので、申し訳ありませんが、しばらくマーシィさんの相手をお願いできますか?」


「それはかまいませんが、アイスさん達は一体何をなさるおつもりですの?」


「恐らく、領民達はこの後、コカトリス達やマーシィさんの歓迎の宴をこの後やるつもりでしょう。というわけで、その準備をしようかと思いましてね。何せダンジョン土産がたくさんありますので、ね、、、。」


 そう、ダンジョン土産がたくさんあるので、メインは肉だけど、醤油やソースや酢といった調味料がたくさん手に入ったので、この時に披露する他ないと思った。その分準備も面倒だったので、思わず話ながら遠い目になってしまったけど、、、。


「た、確かにそうですわね。その件承りましたわ。けど、アイスさん、手伝いは不要なのですの?」


「正直猫の手も借りたいくらいですが、恐らくまだ私以外は調理できないと思うので、、、。」


 猫の手も借りたいといったときに、マーブルが即座に反応して「ミャッ!」と右前足を出してくれたのは癒やしだった。よし、お父さんは頑張りますよ!! まあ、実際に猫の手ばかりかウサギの手も借りますけどね。


「確かにそうかもしれませんね。ただ、そうなりますと、今日の夕食はアイスさんは満足に食べられませんわね、フフッ。」


「まあ、今日は諦めますよ。それほど疲れてもいませんしね。というわけで、この場はお願いしますね。」


 そう言って、私達は領主館へと戻った。では、これから調理の準備開始だ。とはいえ、ここでやるのは下ごしらえのみで、他は実際に宴のときに随時焼いたりする。では、まずは食材の確認である。お土産の戦利品として、山羊、羊、ブランド牛に鶏さんとブタさんのお肉に、腸と内臓系か。あとは、蜂蜜に醤油と酢にウスターソースか。あとはこれらの料理に合うかどうかはわからないけど、味噌だな。いや、味噌については明日以降かな。今回は肉の種類と調味料でごり押ししますかね。いや、モツが確保されているのならモツ煮はやらないといけないだろうな。ということで、やはり味噌は使うべきだろう。


 メニューは決まったので、肉を出していく。最初は時間の掛かるモツ煮からいこうか。肉のカットはそれと同時進行でいきますかね。それぞれ肉を用意して、ジェミニに肉のカットをお願いしておく。肉を一口以下の大きさに細かくするのはマーブルの風魔法などに頼る方が早いが、それ以上の大きさの場合はジェミニに頼んだ方が早く終わる。ライムにはモツとガツの部分をキレイにしてもらう。私は腸の部分を水術で水洗いしながらほぐす作業をしていた。


 次は、ライムにキレイにしてもらった部分をマーブルの風魔法でいい感じに細かくしてもらい、その間に鍋を10個ほど用意しておく。その中に細かくしたモツやガツを投入し水を入れる。それが完了したら、コンロにそれぞれ置いて、マーブルに火を付けてもらう。マーブルも慣れたもので何も言わなくてもいい感じの火加減に調整してくれていた。本来ならアク抜きが大変なのだが、ライムにキレイにしてもらうとその必要がなくなるので大助かりだ。しかも、旨味はほとんどなくなることがない。また、空間収納の時間停止機能のおかげで鮮度もかなりいいので、嫌な匂いがあまりない、とはいえ、出るには出るので、これもマーブルの風魔法で上空に逃がすことによりその問題は解決できている。


 そんなこんなで準備をしていると、アインが呼びに来てくれたので、訓練所へと移動する。


 訓練所へと移動すると、領民に加えて、冒険者ギルドのメンバーはもちろん、ウサギ達やコカトリス達も集まっていた。本当の意味で全員がここに集まっている。町にいるのはフロスト支部に所属していない冒険者達と旅人や商人達程度である。それよりも、何か知らないけどみんな整列しているんですが、、、。ちなみに、領民達は人族と獣人族、何かわからないけど、ウサギ族で別れて並んでいた。それに対する感じで、左から、ラヒラス、ウルヴ、レオ、ギルド長、ルカさん、セイラさん、アンジェリカさん、カムドさん、フェラー族長、マーシィさんの順に並んでおり、少し間隔が空いて、コカトリスの面々が並んでいた。一番左も空いていたので、そこはアインの場所なのだろう。で、真ん中の空いている部分は私達の場所なんだろうな。でも、これ、ぶっつけ本番ですよね? 何でこんなに統制が取れているんですかね?


 そんなことを考えながら、思った通り前列の真ん中に案内される。・・・あの、これって何かの式典ですかね? 私全く聞いてないんですけど、、、。挨拶文ですか? そんなもの用意できているわけないじゃないですか、やだなぁ、、、。


 何故か式典チックになってしまったが、挨拶もひっくるめて何とか無事に終わった。ちなみに、マーシィさんの本体と霊体の合流はあっけないものだったが、領民達の顔は高揚している感じだった。コカトリス達も羽をばたつかせて喜びを表しており、領民達もその様子にほっこりとしていた。


 式典? も終了したので、これからは宴、つまりメシの時間である。何故かわからないが、ある程度準備はしていたようで、あとは食材を持っていくだけの状態だった。ただ、モツ煮に関してはどうしようか迷ったが、今回は純粋にモツとガツだけを使うことにした。というわけで、あとは味噌を溶かし込むだけであるので、早速領主館へと移動して味噌を溶かす作業に入った。味噌についてだが、今回は赤味噌と白味噌を4:6の割合で混ぜることにした。いわゆる合わせ味噌である。味噌も無事溶かし終えて一通り味見をしてみると、いい感じだったので、これでモツ煮も完成だ。鍋は全部で10個なので、一々運んでいくのは面倒だったので、空間収納に入れて持っていくことにした。というのも、人海戦術でどうにかなるかも知れないが、液体たっぷりの大鍋を運べるのは領内でも恐らく、重量軽減持ちの私と、パワーチートのアインだけだと思う。鍋は熱いので大人数で運ばせるわけにもいかないしね。


 鍋をこちらに運んで来る頃には会場であるウサギ広場には文字通りフロストの町にいるもの全員が集まっていた。先程とは違い、この宴においてはフロスト領にいるもの全員に参加資格がある。大いに楽しんで欲しいものだ。というわけで、領主である私が挨拶をしなければならないのは非常に面倒だと思った。まあ、仕方ないか。とはいえ、長話をする必要も無いので、無難に簡潔に挨拶を済ませて宴会開始だ。


 料理自慢達が次々に肉を焼いていく。もちろん肉以外の料理も用意してあったようだが、領民達はいろいろな種類の肉に釘付けだった。彼らの意識が肉に向いている間、私は新たな調味料の作成に勤しんでいた。醤油と蜂蜜があるということは、照り焼きソースが作れるのだ。作らないわけにはいかない。また、ハニービーがくれた蜂蜜には、甘い香りの強い種類があったので、これは後日使うことにした。もちろんデザート用である。


「アイス様、このタレ凄いな。今度教えてくれねえか?」


 こうやって私に絡んできたのは屋台のおっちゃんである。


「いいけど、これ、蜂蜜が必要だけど?」


「ぐっ、は、蜂蜜か、残念だけどまだ手が届かねえな、、、。」


「まあ、蜂蜜は近いうちにどうにかなりそうだから、もう少し待ってて欲しい。」


「おお、そうか! 楽しみに待ってるぜ!!」


「い、いたい、いたい!」


 おっちゃんは私の背中をバシバシ叩きながら別のところに移動した。


「アイスさん! このタレ、凄く美味しいのですが!」


「あ、アンジェリカさん、このタレは、あのダンジョンで手に入れたものから作ったんですよ。」


「ああ、アイスさんのおっしゃっていた、お土産というものですのね!!」


「そういうことです。まだ試作段階ですが、気に入って頂けたのなら嬉しいです。」


「ええ、ワタクシ気に入りましたわ! 待たされたときには何てご無体な! 何て思ったこともありましたが、これなら待った甲斐があるというものですわ! ご覧なさって、あのルカが夢中になって食べておりますのよ!」


 そんな感じで話しかけたのはアンジェリカさんだ。その後いろんな人から美味しいという言葉が聞けたのは非常に嬉しかった。


 いよいよ、これが私的には本命のモツ煮である。果たして喜んでくれるのか?


 心配は全くの杞憂に終わった。反応がやばかった。はっきり言いましょう、大鍋10個程度では足りなかった、、、。みんなの食いつきが良すぎて、私味見以外口に出来なかったんですよ(泣)、、、。こんなときにパワハラじみたこと言いますけど、一応これでも領主ですよ? 領主。何で領主である私が食べられないのか、、、。くそう、みんなに内緒で独り占め用に作ってやる! あと、プリンは完成してもしばらくは私達だけで食べるからな、食べ物の恨みは恐ろしいぞ!! とか、思い詰めた顔をしていたらしく、マーブル達だけでなく、ウサギ達やコカトリス達まで私の所へ来てはモフモフしに来てくれた。みんな、ありがとう、でも、プリンは当分おあずけな。
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