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第80話 さてと、何かいましたね。

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前回のあらすじ:弓の練習をした、大いにはかどった。

 弓の慣熟訓練のためダンジョンへと行って偶然にも侵入者がいたので、思う存分練習させてもらい上機嫌ではあるが、今回はたまたま私がいたときに侵入者が来てくれたからよかったものの、下手をしたら貴重なダンジョン素材が好き勝手に荒らされる可能性もあった。


 というわけで、折角なので、ダンジョンマスターの権限を確認し、改めてダンジョンの設定を考えることにした。といっても、侵入者の入り口以外からの出入り禁止は先程設定したばかり。あとできることといえば、ダンジョンのモンスターの設定などであるが、ダンジョンの魔物については変更する予定はないので、残りは私達に懐いている魔物、例えば豆柴達とか、ハニービー達、あとはアラクネのヴィエネッタの扱いである。


 豆柴達は、侵入者の排除という名目のダンジョン用の餌の確保という重要任務があるので、彼らをダンジョンの外に出せない。他の魔物も考えたけど、このダンジョンは領民の娯楽の一つとしての役割がメインなので、いまのところそれが兼用できるのはこの子達以外には考えられない。


 ハニービー達については、地味にいいモフモフを持っているが、蜂である。慣れるまで領民達がパニックに陥るかも知れないし、慣れるまでの期間がそれなりに必要だと思う。ハチミツが手に入りやすくなるメリットもありそうだが、残念ながらダンジョンの方がミツの集まりは段違いに多い。


 ヴィエネッタについてだが、ハニービー達よりも深刻である。そもそも以前いた世界でも、蜘蛛が苦手な人は多くおり、こちらの世界でもそれは同じだと思う。アラクネであるヴィエネッタは上半身はメリハリボディの超美人であることは間違いないが、下半身が蜘蛛である。手下のローズスパイダー達は紛れもなく蜘蛛である。これに慣れろというのは難しいかも知れない。


 と、いろいろと考えてみたが、我がフロスト領は日に日に訪れる人が増えているそうである。ということは、よからぬことを考えて来ている人達も増えてきているわけで、豆柴達を来られるようにするのは保留となる。また、移住希望の住民も増えているそうだから、蜂や蜘蛛になれていない人も増えるわけで、無駄に混乱させてもいいことは何一つとしてないので、これも保留となるか。まあ、癒やしという観点で考えると、ウサギ達もいれば、モフモフのコカトリスもいるし、獣人のアイドルもいるのである。しばらくはこれでいいか。


 豆柴をモフモフしたり、蜂蜜や上質の糸が欲しければ、ダンジョンへと足を運べばいいだけだしね。


 ということで、外部からの転送禁止と転送による脱出禁止の機能をオンにしたくらいで、他は何もいじることはなかったけど、確認してからの設定だから今はこれくらいでいいだろう。もちろん、ダンジョンマスターである私についてはそういった制限はひっかからないんだけどね。言うまでもなく転送魔法を司っているマーブルやいつも一緒にいるジェミニやライムもそういった制限は引っかからないように設定済みだ。


 ついでなので、ヴィエネッタの所へと行って、弓の弦の状態を確かめてもらうと、ほとんど消耗していないそうだ。結構ゴーレム戦でぶっ放したんだけどね、、、。折を見てはこまめに確認してもらいますかね。


 とりあえず、弓の慣熟訓練も終わり、やることがなくなった。さて、どうしようかと考えていたけど、そういえば、ゴブリンの加工師さんが、金属が欲しいと言っていたのを思い出してたので、久しぶりにあの鉱山へと行くことにした。マーブル達に話すと、賛成してくれたのでそれに決定。


 フロスト領は先程も言った通り、日々領民は増えてはいるものの、鍛冶ができる者はほとんどいない。というか、知っている限りだとゴブリンの加工師くらいしかいない。人族や獣人族達全員、鍛冶に向いている人がいなかった。カムドさんが全員でこちらに来てくれなければ、まともに金属を扱える領民が一人もいない状態を余儀なくされていた。いろんな意味で、ゴブリンのみんなには感謝しかないな、、、。


 鉱石のある場所はフロスト領の端にある山脈に存在している。そのために、山脈の向こうに国があるのかないのかわからないので、大っぴらに開発できないのが痛いところ。獣人やエルフがいるんだから、ドワーフやノームなど鉱石の扱いに長けた人達がいてもおかしくないのだけど、未だに出会えていない。タンヌ王国といい、トリトン帝国といい、もっと多種族を優遇して欲しいものだ。


 水術を駆使して高速で移動するのもいいけど、弓の慣熟訓練の後だから、そこまで移動に時間はかけられないので、マーブルの転送魔法で移動することに決定。ポイントはしっかりと設定しておいたから大丈夫。


 一瞬で鉱石のある洞窟入り口に到着。入ったことのある場所なので、水術で気配探知をしながら洞窟に突入する。相変わらず暗いので、今回はどうしようかと考えていたが、ライムが魔法で光を出した。


「あれ? ライム、光魔法使えたっけ?」


「んー、毎日おいしいお水でいろいろやっていたら、いつのまにかできてたー。」


「そうか。じゃあ、傷を治したりもできるの?」


「んー、やったことないけど、たぶんできるよー。」


「おお、凄いなライム。もしもの時は期待しているよ。」


「わーい、あるじにほめられたー!!」


 ライムが嬉しそうにピョンピョン跳ね回っている。マーブル達もライムを褒めるかのようにライムの周りではしゃぎだした。見慣れてきているとはいえ、いつ見てもいいものだ。回復魔法については、アンジェリカさんとセイラさんは使えるみたいだけど、我が領では使える者がいなかった。正直最初に取得するのはゴブリンシャーマンのユミールさんかなと思っていたら、まさかまさか、うちのライムだったとはね。これは嬉しい誤算だね。先程のストーンゴーレム戦でも、正面から打ち合って粉砕するくらい硬質化できるようになった上に光属性の魔法まで使えるようになっていた。ますます護衛として磨きがかかってきたね。


 そんな嬉しい報告を聞きながら、洞窟を進んでいく。途中で銅鉱石が多く見つかったけど、今回は鉄鉱石以上の硬い金属を希望していたので、銅鉱石は少しだけ採集して奥に進むことにした。水術による気配探知は洞窟という地形の性質上、それほど広い範囲は探索できないので、何もしないよりはマシ程度でしかないけど、これしかないしなぁ。MMOでは普通に探知が使えたけど、こちらだと勝手が違ったので残念ながらそっちはあきらめた。


 洞窟内では、いくつも分かれ道が存在していたので、どうせ迷うならと行き止まりとか関係なく行けるところは行っておこうということで、できる限りしらみつぶしに進んでいった。もちろん、闇雲に進むのは方向音痴の基本ではあるが、そんなことをマーブル達が許してくれるはずがない、ということで、右手法でもって進むことにした。


 鉄鉱石は少しだけあったが、それ以上の鉱石については残念ながら見つけることはできなかったが、道中の魔物から鉱石を手に入れることができた。魔物については、メタルリザードとか、メタルワームなど鉱石を餌にしている魔物に結構出会い、それらを倒すことによって鉱石が手に入った。


 また、魔物がそのまま素材として手に入るので、ここはダンジョンでないこともわかった。


 しばらく進んでいくと、行き止まりにぶつかってしまったので、戻ろうとしたが、水術の探知が壁の向こうに続いていた。ということは隠し通路か何かであろう、もちろん進まない、という選択肢は存在しないので、隠し通路へと向かう。しかし、隠し通路というのはわかったけど、壁は本物で壊すなり何なりしないと先に進めなそうだったので、氷のドリル矢を作成して弓につがえて放つと見事に壁が壊れたので通路へと進んだ。


 通路に進んだ先は空間、というか部屋になっており、そこには人影らしきものが見えた。


 その人影はどうも衰弱しているらしく、こちらが近づいても反応がほとんどない。ライムに頼んで光量を大きくしてもらうと、そこには数人の人のような人でないような存在が確認できた。念のため少し警戒しながらそこへ近づくと、それに気付いた一人が話しかけてきた。


「お、お前、は、に、にん、げん、か? み、見ての、と、通り、て、抵抗で、できない。な、何が、のぞみだ?」


「ん? 確かに私は人間だが、偶然ここを発見したから進んだら、君達がいたわけだ。それよりも怪我とかしていないか?」


「わ、我ら、を、こ、殺し、に、き、来た、訳では、ない、の、か?」


「何で君らを殺しに来なければならないのだ? それよりも、かなり衰弱しているようだが?」


「あ、ああ、ここに、と、閉じ込められて、し、しまい、そ、その、間、ず、ずっと、何も、く、口に、して、いない、の、だ。」


「なるほど。その様子だと、水すら飲まずに何日も経っているな。ここで会ったのも何かの縁だ。いきなり何か食べてしまうと君達の体が危ないから、まずはこれを飲んでくれ。」


 そう言って、閉じ込められていた者達に水を飲ませた。水はもちろん、アマデウス教会から汲んだ水、ではなく、ねぐらの湧き水である。アマデウス教会の水は領民でないと湧き水の効果が出ないんだよね。ちなみにこの湧き水は衰弱状態のマーブルを治した(かなり時間はかかったけど)実績のある有り難い水だ。心して飲むようにって、わかるはずないよね。話をした1人は数回おかわりをして落ち着いたようだ。


「す、済まない。貴重な水を分けてくれて。おかげで助かった。」


「ある程度調子が戻って何より。ところで、何でこんなところに閉じ込められていたんだ?」


「ああ、我らはレプラホーンという種族で、こういった洞窟に住んでいる。どこの者かはわからないが、いきなり襲われたので逃げたところ、通路もふさがってしまい、閉じ込められた形になってしまったのだ。」


「なるほど。ということは、君達の他にもここに住んでいる仲間がいるってことかな?」


「ああ、数は多くないが他にも我らの仲間が住んでいる。」


「それで、襲われたのは君達の他にもいるのかな?」


「いや、恐らく大丈夫だと思う。我らは普段はさらに深くに住んでいて、鉱石などを掘りに来たところを襲われそうになってこちらに逃げてきたのだ。だが、こうなってしまうと、我らの集落が見つかるのは時間の問題かもしれない。」


 レプラホーンという種族らしい人と話をしていると、他の仲間達も意識を取り戻してきたらしいので、彼らにも湧き水を飲ませると、彼らも少し落ち着いたようだ。


「よし、みんな少しは元気になったかな。それにしてもしばらく何も食べていないようだから、折角なら食料を用意するから一緒に食べないか?」


「本来なら、何が入っているかわからないから必要ない、と、言いたいところだが、アンタはそういうことをしなさそうだから、お言葉に甘えておく。」


「うんうん、素直が一番だよ。だけど、しばらく何も食べていない状態でしっかりしたものを食べてしまうと逆に逆効果になってしまうから、スープがメインになるけどかまわないかな?」


「ああ、何か腹がふくれるのであれば文句はない。ご馳走になる。」


 というわけで、昼食を用意する。とはいえ、私達だけ良いものを食べるのはよろしくないので、彼らに合わせる形でスープに決定。押し麦とはいえ、麦をおかゆにするのは時間がかかるので、葉物を中心とした消化に良さそうなスープにしますか。出汁や調味料が増えたからこういうときは助かるね。


 いつも通りに準備をしていく。空間収納から鍋とコンロをを出して、コンロの上に鍋を置いてから、沸き水を鍋に入れて、マーブルの火魔法を発動させる。ある程度湧き水から泡が出てきたら、出汁兼具のお肉を投入する。肉は羊、山羊、ブタ、牛と4種類にした。ライムのおかげなのか、アクは出てこないのでホロホロになるまで煮込んでから、適当に香草を入れて少し煮立たせる。仕上げにスガーを投入、かき混ぜて味を確かめて良い感じなので完成、と。マーブル達は目で催促していた。レプラホーンたちも物欲しそうに見ていた。


 空間収納からスープ用の皿を人数分出し、完成したスープをみんなに配って準備完了。私の「頂きます」の合図の後、食べ始める。うん、いい出来だ。これなら喜んでくれるだろう。味覚が違ったらその限りではないけどね、、、。


 マーブル達は喜んで食べていたが、それ以上に喜んでいたのはレプラホーン達だった。


「な、何だこれ? こんなに美味いもの食べたことないぞ。」


「肉がこんなに入っているのは生まれて初めてだ、、、。」


 そこまで喜んでくれたのなら作った甲斐があったというものだ。食べ終わると、最初に話した人が申し訳なさそうにお礼を言ってきた。


「助けてもらった上に、こんなに美味い食事を用意してくれて感謝のしようもない。何か恩返しがしたいのだが、今はその手段がないのだ、、、。」


「お礼は受け取っておくけど、そこまで恩に感じることはないよ。さっきも言ったけど、これも縁というものだからね。」


「いや、それでは、こちらの気が済まないのだ、、、。」


「君達はレプラホーンという種族と言ったね。君達の種族は何が得意なんだい?」


「我らは洞窟に住んでいるとおり、鉱石や金属の加工や採掘が得意だな。」


「なるほど。もしだけど、さっき何かに襲われたと言ったね? それで、集落が見つかるのも時間の問題だともね。そこで提案なんだけど、私達の領民として我が領土に移住する気はないかな? 自己紹介が遅れたけど、私はこの辺りの領主をしているアイス・フロスト伯爵だ。」


「な、何だと? 領主様だと?」


「その表情は信じられないという表情と、以前別の領主にひどい扱いをうけて警戒している、っていう感じかな? まあ、これはあくまで提案だから、拒否してもかまわないし、そこら辺は好きに判断してくれて構わないから。」


「仮に、もし断ったら?」


「別に何もしないよ。断ったら所詮それまでの縁だったということだから。領民なら護るけど、領民でないなら言葉通り何もせず、君達がどうなっても知ったこっちゃない、ってこと。先に恩に感じる必要がないと言ったのはそういうことだから。」


「・・・今すぐ返事はできない。後日で構わないか?」


「いつでもいいよ、と言いたいところだけど、決めておかないと、次にいつ出会うかわからないよね。」


「次の日に、この場所でよろしいか?」


「構わないけど、そんなに早くて大丈夫?」


「ああ、集落といっても10人もいないところだからな。」


「わかった。じゃあ、明日この場所でね。時間は今と同じくらいの時間でいいかな?」


「了解した。」


 そう言って、レプラホーン達は戻っていった。鉱石を加工できる領民は欲しいけど、彼ら、人に対してかなり警戒している感じだな。まあ、拒否されたらされたで構わない。所詮は他人事だしね。


 さてと、戻ったらゴブリンの加工師に集めた鉱石渡して、ギルドに素材卸したらノンビリしますかね。


 マーブルに転送ポイントを設置してもらい、フロスト領に戻ってあとはノンビリと過ごしますかね。
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