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しおりを挟む生まれてすぐに教会の前の捨てられていたアイラが礼拝に訪れたハートレイ公爵夫人に気に入られ、養女として迎え入れられたのが3歳の頃。
一体どんなシンデレラストーリーだと思いつつも、温かな寝床に清潔な服、そして美味しい食事を前にすれば感謝の言葉しか出てこなかった。
それから10年、穏やかな両親と半年しか違わない優しい兄に可愛がられながら公爵家令嬢として教育を受けたアイラは、それはそれは見目麗しい淑女となった。
8歳の頃に婚約者として出会った王太子からはどうも嫌われているようだったが、家族からの愛情があればもう何もいらないと思えるほど、彼女は家族を愛し、家族もまた彼女を愛していた。
(生まれるなり捨てられた時はなんて世界に来ちゃったんだって思ったけど、こんなに幸せになれるなんて思わなかった)
日記を書きながら手の上でペンを回す。
侍女が見れば行儀が悪いと注意されるが、これは私が中学生のころからのーーこの世界にアイラとして生まれる前からの癖なのだから、もうどうしようもない。
前世のことは今でもよく覚えている。
日本のごく一般的な家庭で生まれて、高校生だった。寡黙な父とおっとりした母と、特別仲がいいわけではないけれどたまに言葉を交わす兄がいた。
学校には友達がいて、部活は水泳部。将来の夢や行きたい大学もあった。
けれどあるところからは何も思い出せず、代わりにアイラとしての記憶がそこから始まる。
期末テストの最終日、早い時間に下校できるからと、友達と帰り道にクレープを買って食べながらゆっくり歩いていた。
それで、終わりだった。
(やっぱり死んだのかな……)
事故か、それとも自分でも気付いていない病気でもあったのか。
苦しみも痛みも衝撃も覚えてないけれど、ただ元の場所には帰れないのだという漠然とした確信だけがあった。
(……いや、今こんなに幸せなんだから、過去について考えるのは家族にも失礼だ。やめたやめた!)
一人でうんうんと頷きながら日記を閉じる。ちょうどその時、ドアをノックする音がした。
「お嬢様、おやすみの支度をしに参りました」
ドアの外から侍女の声がする。
「ええ、お願い、リリー」
明日から学園での生活が始まる。物思いにふけって夜更かしをしている場合ではない。
もう一度だけくるりとペンを回して机に置いて、私は勢い良く立ち上がった。
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