2 / 11
1
しおりを挟む王立ハルベルク魔法学校。
12歳から18歳の、魔法適性のある子どもたちが集められるこの学校は門から入るとすぐに雄々しい様相の銅像に迎えられる。
「これが、英雄オースタ=ハルベルク……」
「くだらん」
年季の入った立派な銅像を見上げていたら、隣から空気を読まない声が聞こえた。
「アーサー殿下」
「こんな人通りの多いところでアホ面をさらすな、みっともない」
隣を見ると、そこにはこの国の王太子が不機嫌そうな様子で立っていた。
金髪碧眼にすっと伸びた鼻筋はまるで妖精のような美しさではあるけれど、一瞬私に向けられた端正なつくりの顔には軽蔑の色が浮かべられている。
目があってしまったので挨拶がてら微笑んでみたが、舌打ちでもしそうな表情でアーサーは足早に校舎へ向かっていってしまった。
その後ろ姿を見ながら私は密かにため息を吐く。
彼は病的とも言えるほどに血筋を重視するタイプの人間で、魔法学園を舞台にした某小説ならば蛇寮にいそうな、つまりそういう性格だ。
それ故どうしても、婚約者である私の出生が許せないらしい。
(国王夫妻はその辺とても寛容なんだけどな…いったい誰の影響を受けたらあんな偏った子どもになるわけ?)
生まれが一体なんだというのだ。
遺伝子検査のないこの世界ならば、そんなものどうにでも誤魔化せる。この国の中枢にいるような人間だって、優秀な後継を作るために養子を取ることがあるのだと聞いた。
大体、こんな邪険に扱って、もし実は私が外国の王族の生まれだったりしたらどうするのだ。
(……いや、まあありえないんだけどさ……)
生まれてすぐの記憶を掘り返して感傷に浸っていると、頭上からまた違う声が聞こえた。
「すみませんねえ、うちの殿下が」
「……まったくよ、どんな教育をしているの?」
「はは、俺が育てたんじゃねえよ」
アーサーがいなくなった後、隣に音もなく現れたフランツをじっとりと睨みつけてやると、フランツはおかしそうに笑う。
赤銅色の髪に鳶色の瞳をした彼もまた、アーサーとは違った系統のイケメンだ。アーサーは決して私に笑顔を向けることなどないので、代わりにフランツの笑顔を見て心を癒す。
私とアーサーと、アーサーの側近フランツと、もう一人の側近と私の兄と。今日は幼なじみ5人が一緒に入学するめでたい日だ。
それなのにアーサーと私が揃うだけで空気が悪くなる。
それは私がどう努力をしようとも変わらないことで、今更悲しくはならないけれど、他の3人には申し訳ないなあとたまに思う。
「……クラスが違うからあまり会うことはないと思うけれど、会うたびにきっと空気を悪くしちゃうわ。ごめんなさい」
「はあ?今更何しおらしいこと言ってんだよ!お前らの喧嘩も含めて楽しいんだからいーの!」
「えぇ…悪趣味……」
妙にドヤ顔でそんなことを言うものだから引いてしまう。私を励まそうと思っているのはわかるが、引く。
人が喧嘩してるのを見て楽しむとか……いや、ちょっと楽しいかもしれない。
もしかして私も悪趣味なのかと考えていると、肩に温かな手が触れた。
「アイラ、ほら、早く行かないと遅刻するよ」
「お兄様……」
背後からやってきた兄が優しく微笑みながら私の背中を軽く押す。
この温和な兄が誰かと喧嘩してるところとかは私も確かに見てみたい。やはり悪趣味なのかもしれない。
兄の姿をみとめたフランツが、鳶色の目を輝かせて話しかける。耳と尻尾の幻覚が見える。
「ルーカス!俺たち同じクラスだよな、一緒に行こうぜ!」
「アイラを教室まで送ってから行くから、フランツは殿下を早く追いかけな」
「えー!」
一瞬のためらいもなくフランツの誘いを断る兄・ルーカス。
日の光を受けて輝く蜂蜜色の髪がキラキラとして眩しい。絵本に出てくる王子様のような、甘いかんばせには笑みが浮かんでいる。
小さい頃から変わらない、私を甘やかすその表情になんとなくむず痒くなる。
差し出された手の指先まで優雅で、道ゆく女子生徒たちが黄色い声を上げながらチラチラとこちらを見てくる。
8歳ごろにはすでに完成されていたこの蕩けるような色香で、これから6年間で一体どれだけの女の子たちをおとしていくんだろうかと思うと頭が痛い。
できれば私のそばにいる時は色気を振りまかないで欲しい。変に目立ってしまう。
(ああもう、こんなの私の知ってる12歳じゃない、これは違う!)
「えっと、私はエルもいるし……お兄様はフランツと一緒に行っても……」
入学早々目立つのは嫌だからできれば初日くらい別行動がしたいと、思いを込めて言ってみるが、ルーカスの手は決して私を離さない。
「エルは代表挨拶があるから先に行っちゃったんじゃないかな?ほら、行こう」
……うーん、有無を言わさぬその笑顔、とても素敵です。
顔の良さに屈して全てを諦めた顔で頷くと、視界の端でフランツが呆れたように笑っているのが見えた。
あんただってルーカス大好きでルーカスに言われたら何も逆らえないくせに、とローキックをおみまいするのはまた今度にしよう。
0
あなたにおすすめの小説
ご褒美人生~転生した私の溺愛な?日常~
紅子
恋愛
魂の修行を終えた私は、ご褒美に神様から丈夫な身体をもらい最後の転生しました。公爵令嬢に生まれ落ち、素敵な仮婚約者もできました。家族や仮婚約者から溺愛されて、幸せです。ですけど、神様。私、お願いしましたよね?寿命をベッドの上で迎えるような普通の目立たない人生を送りたいと。やりすぎですよ💢神様。
毎週火・金曜日00:00に更新します。→完結済みです。毎日更新に変更します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)
想定外の異世界トリップ。希望先とは違いますが…
宵森みなと
恋愛
異世界へと導かれた美咲は、運命に翻弄されながらも、力強く自分の道を歩き始める。
いつか、異世界にと想像していた世界とはジャンル違いで、美咲にとっては苦手なファンタジー系。
しかも、女性が少なく、結婚相手は5人以上と恋愛初心者にはハードな世界。
だが、偶然のようでいて、どこか必然のような出会いから、ともに過ごす日々のなかで芽生える絆と、ゆっくりと積み重ねられていく感情。
不器用に愛し、愛する人に理解されず、傷ついた時、女神の神殿で見つけた、もう一つの居場所。
差し出された優しさと、新たな想いに触れながら、
彼女は“自分のための人生”を選び初める。
これは、一人の女性が異世界で出逢い、傷つき、そして強くなって“本当の愛”を重ねていく物語です。
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
好きすぎます!※殿下ではなく、殿下の騎獣が
和島逆
恋愛
「ずっと……お慕い申し上げておりました」
エヴェリーナは伯爵令嬢でありながら、飛空騎士団の騎獣世話係を目指す。たとえ思いが叶わずとも、大好きな相手の側にいるために。
けれど騎士団長であり王弟でもあるジェラルドは、自他ともに認める女嫌い。エヴェリーナの告白を冷たく切り捨てる。
「エヴェリーナ嬢。あいにくだが」
「心よりお慕いしております。大好きなのです。殿下の騎獣──……ライオネル様のことが!」
──エヴェリーナのお目当ては、ジェラルドではなく獅子の騎獣ライオネルだったのだ。
氷狼魔術師長様と私の、甘い契約結婚~実は溺愛されていたなんて聞いていません!~
雨宮羽那
恋愛
魔術国家アステリエで事務官として働くセレフィアは、義理の家族に給料を奪われ、婚期を逃した厄介者として扱われていた。
そんなある日、上司である魔術師長・シリウスが事務室へやってきて、「私と結婚してください」と言い放った!
詳しく話を聞けば、どうやらシリウスにも事情があるようで、契約結婚の話を持ちかけられる。
家から抜け出るきっかけだと、シリウスとの結婚を決意するセレフィア。
同居生活が始まるが、シリウスはなぜかしれっとセレフィアを甘やかしてくる!?
「これは契約結婚のはずですよね!?」
……一方セレフィアがいなくなった義理の家族は、徐々に狂い始めて……?
◇◇◇◇
恋愛小説大賞に応募予定作品です。
お気に入り登録、♡、感想などいただければ、作者が大変喜びます( . .)"
モチベになるので良ければ応援していただけると嬉しいです!
※この作品は「小説家になろう」様にも掲載しております。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
噂の聖女と国王陛下 ―婚約破棄を願った令嬢は、溺愛される
柴田はつみ
恋愛
幼い頃から共に育った国王アランは、私にとって憧れであり、唯一の婚約者だった。
だが、最近になって「陛下は聖女殿と親しいらしい」という噂が宮廷中に広まる。
聖女は誰もが認める美しい女性で、陛下の隣に立つ姿は絵のようにお似合い――私など必要ないのではないか。
胸を締め付ける不安に耐えかねた私は、ついにアランへ婚約破棄を申し出る。
「……私では、陛下の隣に立つ資格がありません」
けれど、返ってきたのは予想外の言葉だった。
「お前は俺の妻になる。誰が何と言おうと、それは変わらない」
噂の裏に隠された真実、幼馴染が密かに抱き続けていた深い愛情――
一度手放そうとした運命の絆は、より強く絡み合い、私を逃がさなくなる。
捨てられ侯爵令嬢ですが、逃亡先で息子と幸せに過ごしていますので、邪魔しないでください。
蒼月柚希
恋愛
公爵様の呪いは解かれました。
これで、貴方も私も自由です。
……だから、もういいですよね?
私も、自由にして……。
5年後。
私は、ある事情から生まれ育った祖国を離れ、
親切な冒険者パーティーと、その地を治める辺境伯様のご家族に守られながら、
今日も幸せに子育てをしています。
だから貴方も勝手に、お幸せになってくださいね。
私のことは忘れて……。
これは、お互いの思いがこじれ、離れ離れになってしまった一組の夫婦の物語。
はたして、夫婦は無事に、離婚を回避することができるのか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる