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しおりを挟む「エル様、わたくしのことは是非、マリーとお呼びになって」
「同じクラスになれるなんてとても嬉しいですわ、エル様!」
「わたくし、とても美味しいお菓子をお持ちしましたのよ、このあと一緒にお茶なんていかがかしら?」
「まあ、あなた抜け駆けなんてことまさか考えてないわよね?ねえエル様、お茶はみんなで楽しむべきだと思うの」
「ふふ、朝から麗しい妖精に囲まれて、私は幸せ者だな。でもごめんね、今日のお昼は殿下と約束があるんだ」
また今度、と、お茶に誘う少女の髪を一房とってキスをする。キャアと黄色い声が上がる。
(……アーサーよりよっぽど王子様っぽいな)
ミルクティー色の髪に涼やかな薄荷色の瞳、陶器の肌、繊細な指先、机の下で組まれたしなやかな長い脚。
首席だからと教師の元へ行っているはずの幼なじみは、今日も優雅に令嬢たちの心を惑わせていた。
それはあまりにも見慣れた光景ではあるが、エルの隣に位置する私の席も巻き添えを食らって彼女たちの輪の中にある。
「皆様ご機嫌よう、少しだけ避けてくださるかしら」
穏やかに見えるように微笑んで話しかける。輪の中の一人が私を見て、サッと顔色を変えた。
「まあ、アイラ様!」
「失礼いたしました……皆さん、そろそろ先生もいらっしゃる頃ですわ」
「ええ、自分の席に戻りましょうか……アイラ様、お邪魔してしまったようで申し訳ございません」
声をかけてようやく私の存在に気付いた少女達がいそいそと散っていく。
「やあ、お姫様。今日は一段と可愛らしいね」
「……ご機嫌よう」
何事もなかったかのようにひらひらと手を振ったエルは、静かに私の椅子を引いた。
「ルーカスは?」
「もう自分の教室へ行ったわ。……ねえ、エリーゼ様?スカートで足を組むのは少しお行儀が悪いのではなくて?」
「おっと失礼。普段の癖でね」
エルーーエリーゼ・ガルシア伯爵令嬢は机の下で組んでいた足を解いて、きちんと揃えて座り直す。
「そうしてればちゃんと伯爵令嬢に見えるのに」
「でもさっきの方が魅力的だと思わない?」
「それは、まあ……」
頬杖をついて甘く微笑むその顔に一瞬頷きかけるが、正気に戻って私は頭を振った。
「いやでも、王太子の側近が貴族令嬢を誑かすのはどうかと思うの」
「んー……彼女達はさ、ほとんどが卒業後に家のために結婚することが決まってるんだよ」
「は?」
突然始まった貴族あるあるな話に、思わず間抜けな声が出る。
「せっかくこうして年頃の男女が集まったって、婚約者がいたんじゃ他の異性に恋心を抱くのはタブーだ。
だから私みたいなのが、夢を見るにはちょうどいいんだよ」
「夢……」
そう、夢、と笑うエルの顔を見つめる。
「でも貴族に生まれたのだから、家を守るために生きるのは当然だわ」
「うん、そうだね」
穏やかな笑みを浮かべるエルは、とても同い年とは思えないほど大人びている。
その顔で見つめられると私は自分が小さな子供になったかのような錯覚を覚えて、ぽろりと疑問をこぼした。
「……恋ってそんなに良いもの?」
前世を含めて考えても恋なんてしたことのない私には、よくわからない世界だった。婚約者以外を好きになるのがダメなら、別に好きになる必要などないではないかと思う。
「お姫様にはまだちょっと難しい話だったかな」
「そんなこと……そうよ、エルは?エルはそういう相手がいるの?」
「え、私?」
エルは一瞬驚いたような顔をしてから、そうだねえと悩ましげにまた微笑んだ。
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